可愛かわ)” の例文
だが笑うまゆがちょっぴり下ると親の身としては何かこの子に足らぬ性分があるのではないかと、不憫ふびん可愛かわゆさが増すのだった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
当人はもちろん丁坊を眼の中に入れても痛くないというほど可愛かわいがっているお母さんにも、まったくわかっていなかったろう。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこへ行くとおない年だって先は女だもの、『御免よ』なんて子供らしい言葉を聞けば可愛かわいくもなるだろうが、また馬鹿馬鹿しくもなるだろうよ
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おまえの可愛かわいい眼の菫、か……」そんなうろおぼえのハイネの詩の切れっぱしが私の口をふといて出る。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
一トことこゝろまることのあれば跡先あとさき其者そのもの可愛かわゆう、車夫しやふ茂助もすけ一人子ひとりこ與太郎よたらうに、此新年このはる旦那だんなさまめしおろしの斜子なゝこ羽織はをりつかはされしもふかくの理由わけことなり
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おとよの父も一度省作にってからは、大の省作好きになる。無論おとよも可愛かわゆくてならなくなった。あんまり変りようがはげしいので家のものに笑われてるくらいだ。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その香水びんほどの可愛かわいらしいやつが、色玻璃はりだの玉石だの白磁だの、まれには堆朱ついしゅだのの肌をきらめかせながら、ざつと二三百ほども並んでゐるのだ。これにはあきれたね。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「持てもえなんチュウことは言わさん、あれほど可愛かわいがっておって未だ文句が有るのか」
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
もとより玩弄物なぐさみものにする気で飼ったのでないから、厭な犬だと言われる程、尚可愛かわゆい。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
かくのごとき夜にむすぶ夢のなかには、あるいはおにおそわれたり、あるいは化物ばけものったり、あるいはうなされたりして可愛かわゆかるべき顔にも苦痛または恐怖の念がありありとあらわれる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
このとき、ちかくの水草みずくさしげみから三うつくしい白鳥はくちょうが、はねをそよがせながら、なめらかなみずうえかるおよいであらわれてたのでした。子家鴨こあひるはいつかのあの可愛かわらしいとりおもしました。
花子という可愛かわいい女の子が生れて、いつの間にか十年ばかり経ちました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
此の一席で満尾まんびになりますゆえ、くだ/\しい所は省きまして、善人が栄え、悪人がほろび、可愛かわいゝ同志が夫婦になり、失いました宝が出るという勧善懲悪かんぜんちょうあく脚色しくみは芝居でも草双紙くさぞうしでも同じ事で
歌声の主が意外に可愛かわいらしい少女だったことも、私の心を痛ませた理由の一つだったかもしれない。自分の残酷さが、悪趣味ないたずらとしかいいようのない行為が、次第に胸に重くつかえてきた。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
可愛かわいい色々の設備であった。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
可愛かわいのもの抱え
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
河には船が相変らず頻繁に通り、向河岸の稲荷いなりの社には、玩具がんぐ鉄兜てつかぶとかぶった可愛かわゆい子供たちが戦ごっこをしている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
赤と白とのだんだらの玩具おもちゃの兵隊の服を着、頬っぺたには大きな日の丸をメイク・アップした可愛かわいい十人の踊り子が、五人ずつ舞台の両方から現れた。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「まあ何んて可愛かわいい目んめをして!」なんぞと、幼い私はその牛に向って、いつもおとなの人が私に向って言ったり、したりするような事を、すっかり見よう見真似みまねで繰り返しながら
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
父は馬鹿だと言うけれど、馬鹿気て見える程無邪気なのが私は可愛かわゆい。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
人にぎとられて育つたやうな冊子でも出来て見れば、可愛かわゆくないことはない。それだけにまた、人に勝手にされたいまいましい気持も、添ふが。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
可愛かわいい桜桃さくらんぼのように弾力のある下唇をもっていて、すこし近視らしいがつぶらな眼には湿ったように光沢こうたくのある長い睫毛まつげが、美しい双曲線をなして、並んでいた——というと、なんだか
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「日によると二三すんも一度に伸びる芽尖めさきがあるのでございます。草木もかうなると可愛かわゆいものでございますね」
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
もっとも愛婿とするにしても、何も自分の家へ引き入れてただ一人の母親を放擲ほうてきして来させようなんて業慾なことは云はない。爺さんに小さな可愛かわゆい娘があつた。
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ママの意図いととしては、フランス人の性情せいじょうが、利に鋭いと同時に洗練された情感と怜悧れいりさで、敵国の女探偵を可愛かわゆく優美に待遇する微妙な境地を表現したつもりでしょう。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
川魚は、みなそろつて小指ほどの大きさで可愛かわゆかつた。とつぷりと背から腹へ塗られたこんのぼかしの上に華奢きゃしゃうろこの目が毛彫りのやうに刻まれて、銀色の腹にうすべにがさしてゐた。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
それやこれやで親たちは不憫ふびんを添へて可愛かわゆがつた。白痴娘を持つ親の意地から婿は是非ぜひとも秀才をと十二分の条件を用意して八方を探した。河内屋は東京近郊のX町切つての資産家だつた。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「あの母は感心というより可愛かわゆいな」
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)