取留とりと)” の例文
医者もあおくなって、騒いだが、神のたすけかようよう生命いのち取留とりとまり、三日ばかりで血も留ったが、とうとう腰が抜けた、もとより不具かたわ
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かかる苦心は近頃やまい多く気力乏しきわが身のふる処ならねば、むしろ随筆の気儘なる体裁ていさいをかるにかじとてかくは取留とりとめもなく書出かきいだしたり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
が、取留とりとめた格別なはなしもそれほどの用事もないのにどうしてこう頻繁ひんぱんに来るのか実は解らなかったが、一と月ばかり経ってからやっと用事が解った。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
母は勝手元に火焚ひた水汲みずくみまたは片付け物に屈托くったくをしている間、省みられざる者は土間の猫にわとり、それから窓に立ち軒の柱にもたれて、雲や丘の樹の取留とりとめもない景色を
碌々気休め一つ云いまへんが、あの客を取留とりとめれば三百両みッつ四百両よッつの才覚は出来ますから、そうしてお金を拵え、三百両みッつだけ主に上げるから、身の立つようにして呉んなまし
医者いしやあをくなつて、さわいだが、かみたすけかやうや生命いのち取留とりとまり、三ばかりでとまつたが、到頭たうとうこしけた、もとより不具かたわ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一刻も早く眠りたいと思いながらわけもなく思いにふける思いである。あくる日起きてしまえば何を考えたのやら一向に思い出す事の出来ない取留とりとめのない思いである。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おまはんの病気はなおるとお医師様いしゃさまがそう云ったじゃア有りまへんか、兎も角も身二つに成ッちまって、病気も癒り、元のように仲の町へ出てサ、おまはんい人を取留とりとめて立派なお客に身請をされて
生命いのち取留とりとめたのも此の下男で、同時に狩衣かりぎぬぎ、緋のはかまひも引解ひきほどいたのも——鎌倉殿のためには敏捷びんしょうな、忠義な奴で——此の下男である。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
みづになり、そらになり、面影おもかげ宿やどつても、にじのやうに、すつとうつつて、たちまえて姿すがたであるから、しか取留とりとめたことはないが——何時いつでも二人連ふたりづれの——一人ひとりは、年紀としころ
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
取留とりとめのない考えが浮んだのも人が知死期ちしごちかづいたからだとふと気が付いた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
石垣の草蒸くさいきれに、ててある瓜の皮が、けてあしが生えて、むく/\と動出うごきだしさうなのに、「あれ。」と飛退とびのいたり。取留とりとめのないすさびも、此の女の人気なれば、話せば逸話に伝へられよう。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
取留とりとめのないかんがへうかんだのもひと知死期ちしごちかづいたからだといた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
取留とりとめもなくわらつた拍子ひやうしに、くさんだ爪先下つまさきさがりの足許あしもとちからけたか、をんなかたに、こひ重荷おもにかゝつたはう片膝かたひざをはたとく、トはつとはなすと同時どうじに、をんな黒髪くろかみ頬摺ほゝずれにづるりとちて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たちまち消えて行く姿であるから、しか取留とりとめた事はないが——何時でも二人づれの——その一人は、年紀としの頃、どんな場合にも二十四五の上へは出ない……一人は十八九で、このわかい方は、ふっくりして
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朦朧もうろう取留とりとめなくかげげた風情ふぜいえる。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
べつ取留とりとめたことがありはしなかつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)