冷酷れいこく)” の例文
冷酷れいこく建物たてものかげになっているくらいところで、しかもつめたい鉄管てっかん周囲まわりで、あわれな三つのかげは、こうしてうごめいているのでありました。
石段に鉄管 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おかあさん、感情家だけではいけませんよ。生きるという事実の上に根を置いて、冷酷れいこくなほどに思索しさくあゆみを進めて下さい。」
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
冷酷れいこくといわれてもよい。鬼と思われてもよろしい。むしろ、そう思わるることが、兵部が江戸へ来た使命とせねばならぬ……』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとかどの英霊を持つた人々の中には、二つの自己が住む事がある。一つは常に活動的な、情熱のある自己である。他の一つは冷酷れいこくな、観察的な自己である。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ところが、その女の主人は、ただひとりの保護者であるはずなのに、乱暴で、冷酷れいこくな悪人だったものですから、その女のふとんをひきはがして、こう言いました。
現実は常にかく冷酷れいこく無慙むざんであるけれども、そこからも、夢は育ち、オモチャ箱はつくれるものだ。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その一割も従業員では勢力のない若者ばかりだと。その批判は冷酷れいこくな程客観的だが、しかもこの若者自身にはちょッとも悲観的なところがなかった。しゃくにさわるほどノンビリしていると思われた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
そして私達のことを、伯父をぢといふ程にも近い親類のくなつたのにも、大して心を動かされない冷酷れいこくな人間だと思ふでせうね。けれど、私たちはその人に會つたこともなければ知りもしないのです。
平次の言葉は冷酷れいこくでした。
もし、もう一わたしが、うちかえることができたなら、こののち、あなたにたいして、あのような冷酷れいこくなことは、けっしていたしません……。
小ねこはなにを知ったか (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの人もまたこの私を、本位田家の一人のように、村の人々と同じように、冷酷れいこくな人間とているにちがいない。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まづ冷酷れいこくに批評すると、本来剃刀かみそりるべきひげを、薙刀なぎなたで剃つて見せたと云ふ御手柄おてがらに感服するだけである。
西洋画のやうな日本画 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
うつくしい、無邪気むじゃきなものでも、冷酷れいこく運命うんめいにもてあそばれることがたびたびあります。それはどうすることもできなかったのでありました。
星の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
義経は自分を憎むと同じように兄のそうした冷酷れいこくな裁きを憎悪せずにいられなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だからわたくしはらそこ依然いぜんとしてけはしい感情かんじやうたくはへながら、あの霜燒しもやけの硝子戸ガラスどもたげようとして惡戰苦鬪あくせんくとうする容子ようすを、まるでそれが永久えいきう成功せいこうしないことでもいのるやうな冷酷れいこくながめてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こうしてると、やはりねえさんが、わたしよりもりこうであるかもしれない。冷酷れいこくねえさんは、よくわたしをわらったものだ。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
みなみほうからいてくるやさしいかぜは、どのにもくさにもしんせつで、柔和にゅうわでありましたけれど、きたほうからいてくるかぜは、ちいさいのでもおおきなのでも、冷酷れいこくで、無情むじょう
大きなかしの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの柄杓ひしゃくですか。あれは、わたしよりも、もっとはやく、あまりからだ使つかいすぎたために、あたまがとれてやくにたたなくなってしまいました。人間にんげんは、そうなると、まことに冷酷れいこくなものです。
ねずみとバケツの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
どんな汽罐車きかんしゃであるかしれないけれど、そんなことをしてしらぬかおをしているとは冷酷れいこく汽罐車きかんしゃである。わたしがいって不心得ふこころえをさとしてやるから、もし見覚みおぼえがあったらかしなさい。
負傷した線路と月 (新字新仮名) / 小川未明(著)
レールは、なみだぐみながら、あめかって、今日きょう冷酷れいこく汽罐車きかんしゃきずつけられたこと、太陽たいようが、これまでというものは、毎日まいにち毎日まいにち用捨ようしゃなく、あたまからりつけたことなどをはなしました。
負傷した線路と月 (新字新仮名) / 小川未明(著)
すずめは、つくづく寒気かんきというものをなさけなしな、冷酷れいこくなものだとおもいました。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうおもうと、いいれぬ不快ふかいを、だれがしたか、この残忍ざんにん行為こういからかんじられました。きているとり本位ほんいにして、かえって、無理むりとりちいさくしようとする、冷酷れいこくさをおもわずにいられません。
自由 (新字新仮名) / 小川未明(著)
冷酷れいこくにも、こんなことまでいいました。
黒い旗物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)