かゝは)” の例文
自分たちとはなんのかゝはりもないよそのおぢさんのやうでもある——そんな見慣れぬ親しみのない客からは、なるだけ遠ざかつてゐたい。
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
しかし其れにもかゝはらず東京市中の散歩に於て、今日こんにちなほ比較的興味あるものは矢張やはり水流れ船動き橋かゝる処の景色である。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
余は我身一つの進退につきても又た我身にかゝはらぬ他人の事につきても果断ありと自ら心に誇りしが云々(一四頁上段)
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
上て來て見せなば此のまゝゆるしもせんし然もなくは醫師の云ひし言葉はうそと思ふゆゑ父母にせまりて病にかゝはらずお光を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ぐ行つて下すつたので、船が一日早かつたにもかゝはらず間に合つて結構でした。あなたもお疲れでせう。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
人間にんげん勝手かつてなもので、わたくし前夜ぜんや夜半やはんまでねむられなかつたにかゝはらず、翌朝よくあさくらうちからめた。五三十ぷんごろ櫻木大佐さくらぎたいさ武村兵曹たけむらへいそうともなつて、わたくし部室へやたゝいた。
さう粘りつよく、血縁にかゝはつてゐてはいけません。あなたの不撓ふぎやうの心と熱情を、適當な理由の爲めにとつて置くことにして、ありふれた果敢ないことに無駄遣ひするのをお止めなさい。
凡そ自分とはかゝはりのない範囲で、勝手な想像をめぐらしてみることもあつた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
それはかしら御自身が御出馬になることなら、拙者もどちらへでも出張しませう。我々ばかりがこんな所へ参つて働いては、町奉行の下知げぢうけるやうなわけで、体面にもかゝはるではありませんか。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
はなして退すさると、べつ塀際へいぎはに、犇々ひし/\材木ざいもくすぢつてならなかに、朧々おぼろ/\とものこそあれ、學士がくし自分じぶんかげだらうとおもつたが、つきし、あしつちくぎづけになつてるのにもかゝはらず、影法師かげぼふし
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私はただ両国橋の有無いうむかゝはらず其の上下かみしも今猶いまなほ渡場わたしばが残されてある如く隅田川其の他の川筋にいつまでも昔のまゝの渡船わたしぶねのあらん事をこひねがふのである。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
先刻よりお菊は無念こらへしが思はずワツと泣出しお前はな/\強欲がうよく非道ひだうの大惡人今眼前がんぜん母樣の御命に迄かゝは難儀なんぎそれを見返らぬのみならず罪科つみとがもなき母樣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
れにもかゝはらず、自分の母親のおとよはあまりくは思つてゐない様子やうすで、盆暮ぼんくれ挨拶あいさつもほんの義理一ぺんらしい事をかまはず素振そぶりあらはしてゐた事さへあつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
殺せしなどと申せども樣の儀が證據に相成べきか萬一それが爲菊が殺したるにもせよ母のいのちかゝはると申たるに金を貸ぬは汝等なんぢらが心得違ひより母を殺す譯に相當り汝が手にて殺せしも同然どうぜんなり我人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
品川湾の眺望に対する興味は時勢と共に全く湮滅してしまつたにかゝはらず、其のかはりとして興るべき新しい風景に対する興味は今日こんにちに於てはいま成立なりたたずにゐるのである。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
すぐうしろの寺の門の屋根やねにはすゞめつばめが絶えなくさへづつてゐるので、其処此処そここゝ製造場せいざうば烟出けむだしが幾本いくほんも立つてゐるにかゝはらず、市街まちからは遠い春の午後ひるすぎ長閑のどけさは充分に心持こゝろもちよくあぢははれた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)