何彼なにか)” の例文
何彼なにかにつけてき立てられるような心持がするに相違ない。僕はお祖父さんお祖母さんを観察して、時には心細かろうと察している。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
して其の當座、兩人はこツそり其處らを夜歩きしたり、また何彼なにかと用にかこつけて彼方あツち此方こツちと歩き廻ツて、芝居にも二三度入ツた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
○天下後世をいかにせばやなど、何彼なにかにつけて呼ぶ人あるを見たる時、こは自己をいかにせばやの意なるべしと、われは思へり。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
その若者が何彼なにか冷評ひやかしかけるのを、眇目めつかちの重兵衞が大きい眼玉を剥いて叱り附けた。そして、自分一人夜更まで殘つた。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
自分じぶんについてればわかる。そなた折角せっかく修行しゅぎょうめにここへ寄越よこされているのであるから、このさいできるだけ何彼なにか見聞けんぶんしてくがよいであろう……。
もしソクラテスにして、何彼なにか斟酌しんしゃくばかりして、思う事も遠慮していわなかったとするならば、世界はまあどれほどの大損失であったことだろう。
ソクラテス (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その毎日にも何彼なにかと心のさのまぎれることもございましょうが、青い蘆荻ろてきのそよぎばかり見ていては心は毎日滅入めいってしまうばかりでございます。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「あなたは何彼なにかに就けて私をへこます。」と言い/\した。私は「あゝ済まぬ。」と思いながらも随分言いにくいことを屡〻言ってお前をこきおろした。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
何彼なにかの世話を燒いてくれるのは、養子でもあり支配人格でもあり、殺されたお此の許嫁でもあるあの金次郎でした。
善平は初めて心づきたるごとく、なに帰る? わしも帰るさ。一時も早く東京へ帰って、何彼なにかの手はずをめねばならぬ。光代、明日ははやくとうぞ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
然し定基は何彼なにかと尋ねると、いずれ五位六位ほどの妻であろうか、夫の長いわずらいの末か、或は何様いうかの事情の果にいたく窮乏して、如何ともし難くなって
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
し遅くなれば喜右衞門きえもんどんに何彼なにかと頼んで置いたから御心配は無いが、万一ひょっとして花車も一抔やりいなどゝ云うと、ちっとは私も遣り度い物も有りますから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とにかく何彼なにかにつけて疑問をいだし理智を磨く習慣を作るのがよい。仏教で「智慧の光明」という事を説く。婦人に全く欠けているのは自己の無明闇夜むみょうあんやを照す智慧の光明である。
婦人と思想 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
その後女はどうなったか、泉原はすこしも知らなかったが、彼が彼女を忘れ得ないように、女も何彼なにかにつけ、泉原を忘れ得ないであろう。それ程二人には深い様々な記憶があった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
(間)何彼なにかと申しましても、私は一つの願いに捉われている身でござりますれば、その願いの届くまでは、何んと申しても貴郎様の御親切にお答え申すことは出来ないのでござります。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
名音は何彼なにかと新入の玉音のために世話をしてやった。玉音は顔だちも美しく素直な女だったので、住持にも気に入られた。名音は此の調子でゆけば、世話の為甲斐しがいがあると思って喜んだ。
法華僧の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
汽車を待つ間、新太郎君は父親の側を離れずに何彼なにかとお相手を勤めた。游泳およぎの伝授中をお目に留まったのが気になって仕方がない。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その若者が何彼なにか冷評ひやかしかけるのを、眇目めつかちの重兵衛が大きい眼玉をいて叱り付けた。そして、自分一人夜更まで残つた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
親孝行で氣性者で、その癖滅法めつぽふ愛くるしいお秀が、何彼なにかにつけて近所の獨り者の噂に上らない筈もありません。
きにつけ、しきにつけ、影身かげみいて、人知ひとしれず何彼なにかとお世話せわいてくださるのでございます。
新吉は旅駕籠にゆられて帰りましたが、駕籠の中で怪しい夢を見まして、何彼なにかと心に掛る事のみ、取急いでうちへ帰りますると、新吉の顔を見ると女房お累は虫気付き
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
当地のそれがしが柴のいおり、何の風情も無く侘しうは候が、何彼なにかと万端御意を得度く候間、明朝御馬を寄せられ候わば本望たる可く、粗茶進上仕度つかまりたく候、という慇懃いんぎんなものであった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
解剖臺には、解剖される少女の屍體が尚だ白いきれかぶせたまゝにしてあツた。學生等は解剖臺をめぐツて、立ツて、二人の助手は何彼なにかと準備をして了ツて、椅子にもたれて一と息してゐる。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
近頃は何彼なにかと疑い深くなられました。これもあの女子のためでござりましょう。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
殿方すらも何彼なにかとおうわさなされはじめました。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
熊谷くまがいは坊主になっても軍馬の物音を聞いて木魚を叩きったというが、独逸仕込みは退役になっても独逸仕込みだ。何彼なにかにつけて英国が憎い。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ドーもこちらの世界せかいのお仕事しごとは、人霊じんれいのみでは何彼なにかにつけて不便ふべんがあるのではないかとぞんじられます。
この優しく美しい内儀が、病人の主人の代りに、俵屋たはらやの實權を握つて、何彼なにかと評判のあることは、あまり遠くないところに住んでゐる、錢形平次も一應は知つてをります。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「天下の金は俺の物だ。斬り取り強盗武士の習い。昔の俺はそうだった。……両国橋の橋詰めで、あいつに河へ追い込まれてからは、何彼なにかにつけて怖じ気がつき、やることなすこと食い違い……」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夕御飯が済んでも、お父さんは葉巻を一本くゆらし尽すまで、何彼なにかと子供の相手になって他愛がない。子供を煩さがりながらも、斯うやっている間に頭が休まるという。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
後添への口は降るほどあるが、二人の小さい子供を繼母の手で育てるのも可哀想だからと、そのまゝ聽流してゐたが、雇人も多勢ゐることだし、何彼なにかにつけて不自由でかなはない。
いえいえそんなことはございません。やっぱり活きておりましたら、何彼なにかにつけて頼みにもなり、嬉しいことも楽しいことも、分け合うことが出来ますのに。……可哀そうなことをいたしました。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「山へ登ると、何彼なにかと面倒、私がひと足先に駆け抜けて、あの女を引き留めましょうか」
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
何彼なにかの機会に千吉君の気を引く。碁の話が度々出たが、無論敵は本能寺にあった。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうして俺はもうつくづくここにいるのが厭になったのじゃ。獣や不具かたわ者を引き連れて旅から旅を巡って歩く面白くもない見世物商売。そうして部落へ帰って来れば何彼なにかと詰まらない用事ばかり。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ベーカーと幾久雄兄妹は、何彼なにかの話に時の経つのも忘れましたが、熊谷へ来てから、信子がしきりに渇きを訴えるので、兄妹は食堂に入って、しばらくソーダ水などに喉を潤おしました。
天才兄妹 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
俺もだ若い積りだが、ソロ/\後のことを考えて置きたい。新太郎はあの通り気紛きまぐれものだから、何彼なにかと取越し苦労をする。君が一緒にいて指導してくれゝば何うにかうにか店が張って行けよう。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
何彼なにかに邪魔なあの男を、硫黄ヶ滝で殺すためじゃわ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「大丈夫だ。何彼なにかと理窟をつけるのは悪く思っていない証拠さ」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「あるとも、無いとも申し上げられません。それは兎に角、御紹介いたしましょう、これは関東新報の千種十次郎君、この事件について、何彼なにかと助力して貰わなければなるまいと思いまして、私から頼んで一緒に来てもらいました」
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
何彼なにかと言うと頭の問題になる。そんなに薄くなったかなあ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)