似通にかよ)” の例文
俳句は宿命として絵画とはなは似通にかよったものである。絵画が色や線で形を現すと同じく、俳句は文字を以て景色や事件を現すのである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
もしも彼女が彼に似通にかよつてゐることを明かに證據立てることが出來たなら、それだけでも、彼はもつと彼女を心にかけたであらうに。
それは丁度ちょうどおさなときからわかわかれになっていたははが、不図ふとどこかでめぐりった場合ばあい似通にかよったところがあるかもれませぬ。
何も朝鮮と歴史のつながりがあったのではなく、全く山国の生活が淳朴じゅんぼくで自然で、気持ちにも似通にかよった点が互にあるからだと思われます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いつのにかこんな歌がはいっていて、しかもその歌のこしらえかたが、伊豆の物搗歌などとも似通にかようていることである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ジャヴァの影人形の実演はまだ見たことがないが、その効果にはおのずからこの田舎大工の原始的な影人形のそれと似通にかよった点がありそうに思われる。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
衣絵きぬゑさんに、となへ似通にかよふそれより、ほ、なつかしく、なみだぐまるゝは、ぎんなべれば、いつも、常夏とこなつかげがさながらゑたやうにくのである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この少年に似通にかよったところから、その長所がすべて、悪用されて、あたら有為の大材になるべきものが、あんなことで終ってしまったものではないか。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
尼寺に味噌摺る音とほととぎすの声とは、必ずしも似通にかよっているわけではない。ただし趣の上に或調和がある。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
これはきっと、人殺しではなくても、何かそれに似通にかよった、恐しい事件が起ったものに相違ないのです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その気候や地勢の趣きが南仏ニースの市を中心として、西はカーニュ、アンチーブ、キャンヌ東はモンテカルロといった風な趣きにもよく似通にかよっているように思えてならない。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
剃髪ていはつして五郎作新発智東陽院寿阿弥陀仏曇奝しんぼっちとうよういんじゅあみだぶつどんちょうと称した。曇奝とは好劇家たる五郎作が、おん似通にかよった劇場の緞帳どんちょうと、入宋にゅうそう僧奝然ちょうねんの名などとを配合して作った戯号げごうではなかろうか。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これらの大通は四谷青山白金巣鴨すがもなぞと処は変れど、街の様子は何となく似通にかよっている。
娘は暫くこの奇怪な絵のおもてを見入って居たが、知らず識らず其の瞳は輝き其の唇は顫えた。怪しくも其の顔はだん/\と妃の顔に似通にかよって来た。娘は其処に隠れたる真の「おのれ」を見出した。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ようやく復活して頭を擡上もちあげ掛けると、たちまた地震のためにピシャンコとなってしまったから、文壇の山本伯というはこけの下の二葉亭も余りありがたくないだろうが、風丰ふうぼうが何処か似通にかよっている。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「おお、そうおっしゃれば、いかにも似通にかようていたやつもおりましたな」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう一時代前の政治的夢想家に似通にかよっている所があったようです。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何故なぜかともうすに、いわうえから見渡みわたす一たい景色けしきが、どうても昔馴染むかしなじみ三浦みうら西海岸にしかいがん何所どこやら似通にかよってるのでございますから……。
この盲人の根気と熱心に感心すると同時に、その仕事がどことなく私が今紙面の斑点を捜してはその出所を詮索した事に似通にかよっているような気もした。
浅草紙 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
階級と財産などが私共を遠く隔てゝゐても、私は、自分の頭と心のうちに、自分の血と神經の中に、何か精神的にあの方と似通にかよはせるものを持つてゐるのだ。
歌仙百韻の席につらなるほどの者は、かねて経歴と心境との互いに似通にかようたものが有ったうえに、改めて感興の統一によって、鋭敏に仲間の心持を理解し得た。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかし前にも述べた通りいずれも商品化し過ぎた恨みがあって、これとて地方色に富むものは見当りません。段々お互が似通にかよって来て一列の品になりつつあります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
海竜として、かれらが怖るべきものを見たとすれば、よし全然間違いであったとしても、多少形体において、それに似通にかよった存在物を見たものとしなければならぬ。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは恐らく、読者諸君のあらゆる悪夢の内、最も荒唐無稽で、最も血みどろで、そして最も瑰麗なるものに、幾分似通にかよっているのではないかと思われるのですが。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とはじめて親しげに名を言って、じっと振向くと、なみ浅葱あさぎ暖簾越のれんごしに、またさっと顔をあからめたところは、どうやら、あの錦絵の中の、その、どの一人かにおもかげかすか似通にかよう。……
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そういえばところどころに竹藪たけやぶの多い村落のけしき、農家の家のたてかた、樹木の風情ふぜい、土の色など、嵯峨さがあたりの郊外と似通にかよっていてまだここまでは京都の田舎いなかが延びて来ているという感じがする。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
日本から南洋へかけての火山の活動の時間分布を調べているうちに、火山の名前の中には互いによく似通にかよったのが広く分布されていることに気がついた。
火山の名について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あなたの趣味や習慣はダイアナやメァリーのと似通にかよつてゐる上に、僕はあなたの側にゐるといつも愉快です。
記録としては久米島にただ一つ、残り伝わっているオトヂキョの神話が、日本の神代史の蛭子ひるこの物語と似通にかよふしがあることは、伊波君もすでに注意せられている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「無論僕等には、そんな持って廻った狂言をやって喜ぶ男の心持は分らん。併し、全然見分けのつかぬ程似通にかよった二人の人間を想像するよりは、まだ幾分可能なことに思われる」
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こんな空想はどうでもよい事にして、平凡な実際問題として見た時にも、数学の学習と語学の学習とは方法の上でかなり似通にかよった要訣ようけつがあるようである。
数学と語学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
たとえば言語に若干の一致があるとか、習俗がやや似通にかようということなどは、是だけ年久しい隣住居で、また折々の交通を考えると、無かったらむしろ不思議と言ってよい。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
どこかしら似通にかよったものを含んでいるのだが、それはかく、柾木が芙蓉を憎みながら、彼女の芝居を見に行った心持も、やっぱりこれで、彼の憎悪というのは、その相手と顔を見合わせた時
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どれほどまで似通にかよい、どの点が特に異なっているかに、向かわなければならぬと私は考える。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
イカリのイが単に発語だと仮定するとこれがやはり似通にかよって来るからおもしろい。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「非」の字の形がげじげじの形態と似通にかよっているためである。その当時だれかから聞きかじったこのげじげじという名称が、子供心になんとなく強く深い印象を与えたものと思われる。
蒸発皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かなりピッチの高い共鳴器で聞くとチリチリチリといったように一秒間に十回二十回ぐらいの割合で断続する轢音れきおんが聞こえる、それがいくらかこの蝗群の羽音に似通にかよっているのである。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これと似通にかよっていて、しかも本質的にだいぶ違う「金曜日」の例が一つある。
時事雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
児の顔を見て後に両親を見くらべるとまるでちがった二つの顔がどうやら似通にかよって見えるのが不思議である。姪はあまり両親には似ないで却ってよく平一に似ていると妹が云った事も思い出した。
障子の落書 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)