)” の例文
なにか、いいかけたと思うと、彼の引っ張っていた杖の先を離して、沢の石ころや草叢くさむらの中に、よろりと、音もなくしてしまった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで手ばなしでうつせになったり、あおのけになったり、しゃっちょこ立ちをしたり、足首あしくびでつかまってぶら下がったりするのです。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
あんなおもしろい鬼を悪い鬼だなどと言って大人たちがそれを待ちせしているのが、気になってしようがありませんでした。
天狗笑 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
醜男ぶおとこのニルマーツキイを選び出して、うつせにるように命じたばかりか、顔を胸へたくしませさえしたものである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そのくせ、どの道の上でも、私の見たことのない新しい別荘のかげに、一むれの灌木が、私の忘れていた少年時の一部分のように、私を待ちせていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
単にうつしになっている背の上で指を立てて数を問うだけで、馬乗り・胴乗りというようなことまではしていなかった土地がまだ有るのかも知れない。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私は、はげしい目まいをおさえて、しばらく強い光の中に、うつしていた。土竜もぐらならずとも、この光線浴こうせんよくには参る。これも博士の警戒手段の一つである。
人のからだの下へぐんぐん顔をつッこんでうつしになっていたが、しまいには、のどがかわいて目がくらみそうになる、そのうちに、たまたま、水見たいなものが手にさわったので
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
順礼じゆんれいのお盥髪たらひがみさへ、此方こつちそむき、やうしろをせて、びしや/\とところを——(なくともいのに)にすると、あだかあぶらさしがうつせにくろがねそこのぞく、かんてらのうへ
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ところが、土曜日の朝早く、ガンたちが畑へ出ていきますと、ズルスケが待ちせしていました。そして、はたけから畑へと追いかけてきます。これでは、おちついてたべてもいられません。
おび上着うわぎてしばかり、うつしてものをもはず。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はねひらみ、打つす凄さ。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
丈八郎は、憎悪そのものの眸を、している姉へも投げた。が、すぐそれが、一角の眼を見ると、よけいに、ほむらとなって
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほら、覚えているでしょう——庭、夜なか、噴水ふんすいのほとり——そういう場所で待ちせるんですな。いまに君は、僕にありがとうを言うでしょうよ
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
私は、にわかに、たえ切れないほどの疲労をおぼえて、そのまま段丘の斜面しゃめんに、うつしてしまった。
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それから、ハッとけ声をかけて、しゃっちょこ立ちをしました。次に竹竿のてっぺんへうつせになり、両手両足をはなして、かめのようにふらふらとまわりました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
莫迦莫迦ばかばかしいことだが、私は何度も林の中の空地で無駄むだに待ちせたものだった。男の子のように美しい田舎の娘がその林の中からひょっこり私の前に飛び出して来はしないかと。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
謡えぬお長はして蓆の端をむしっている。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
五ツ六ツ、撲るように刀でたたくと、仁吉の体は、魚の臓物のように、船底にして、声も音も消してしまった。
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両膝をもろに床の上にドサリとつくと、ブラリと下った二本の裸腕で支えようともせず、上体をクルリと右へよじると、そのままパッタリ、電車の床にうつせになって倒れた。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まるで私を待ちせてでもいたようにかくれていたのに少しも気づかずに、その曲り角を無雑作むぞうさに曲ろうとした瞬間、私はその灌木の枝に私のジャケツを引っかけて、思わずそこに足を止めた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それは、庄七の身をれて、由の肩さきをサッといだ。由は、笛のような声をつまらせ、ぐわッと地へした。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三吉は、まるで兎が穴へ潜っているような恰好で、その蔭にうつしていた。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ああ……」涙こそながさないが、範宴は全身の悲しみを投げだして、氷のような大床おおゆかしてしまった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見るにたえず、高直は下にうずくまったが、顔を上げたとき、もうその人はくれないの座に前身をせていた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愕然がくぜんとして、相手はそこへ身を屈して、あとのことばもなく、ガバと、大地に顔をうつせてしまいました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでに、野槍の穂さきは血糊のりをなめ、足元には、ひとつの死骸が草をつかんでうツしている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足数にして、約十歩ばかり先に、一箇の死骸が、あけになってしているし、ずっと土塀へ寄ったきわにも、頭を柘榴割ざくろわりにされた番の者が、塀の根へりかかったまま死んでいた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足数にして、十歩ほど先に、その小次郎はせにたおれている。草の中へ、顔を横にふせ、握りしめている長剣のつかには、まだ執着の力が見える。——しかし苦しげな顔では決してない。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
豚のように肥えた死骸が一つ、寝台ベッドの下にしていることがわかる。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ウム、そしてわれわれは、寒松院かんしょういん松並木まつなみきに待ちせているか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はっと、すけは、自分の腕くびに、噛みついて、顔をせた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分が真二つにされたように、舟底へしてふるえていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)