不如意ふにょい)” の例文
第三、平素勝手元不如意ふにょいを申し立てながら、多く人をあつめ、酒振舞ふるまいなどいたし、武家屋敷にあるまじき囃子はやしなど時折りれ聞え候事
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生活の不如意ふにょいのためでもあったろうが、家のごたごたは私の学校のことなどにかまってくれる余裕を与えなかったためでもあろう。
「なんの。不如意ふにょいの節は誰しも同じこと。早くこれを持って行って、その鍛冶富とやらへ借利かりを払ってやりなさい。私が店番をしている」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大阪において私共が亡父の不幸で母にしたがって故郷の中津なかつに帰りましたとき、家の普請ふしんをするとか何とか云うに、勝手向かってむき勿論もちろん不如意ふにょいですから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
不如意ふにょいな日々の暮しは人を老いさせ、彼女もまた四十という年よりも七八つもふけている。五十といっても、だれが疑がおう。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
近頃は世の不景気と共にそれさえ不如意ふにょいになり、とうとう五左衛門の望むまま、お秋を奉公に出して、少しばかりまとまった金を貰い、それで
その中、未亡人も没し、政吉氏もくなって、とても大店おおみせがやって行けなくなり、手元は不如意ふにょいがちでついに店を人手に渡すことになりました。
勝手元不如意ふにょいの殿様は競って別当のところへ金を借りにきたのである。徳川中世以後は、まことに貧乏な大名が多かった。
増上寺物語 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
この容易ならぬ用途はさらに見当もつかないほど莫大ばくだいなことであると書いてあり、従来不如意ふにょいな勝手元でほかに借財のみちもほとんど絶えている
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
太上天皇は剃髪ていはつして沙弥しゃみ勝満と名のられ、まつりごとの中枢より離れたわけであるが、藤原氏一族による不如意ふにょいの事もあったように後世史家は語っている。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
佐藤の屋敷も以前は勝手不如意ふにょいでござりましたが、長崎出役以来、よほど内福になったとか申すことでござります
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ところが被告は頭を白洲の砂に埋め、誠に恐入ったる義ながら、永の病気に身代しんだい必至と不如意ふにょいに相成り、如何様にも即座の支払は致し難き旨を様々に陳謝した。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
しかし手島が渋江氏をうて、お手元てもと不如意ふにょいのために、今年こんねんは返金せられぬということが数度あって、維新の年に至るまでに、還された金はすこしばかりであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
もし左に武道具持たる時不如意ふにょいに候えば片手にて取なり、太刀を取候事とりそうろうこと初め重く覚ゆれども後は自由に成候なりそうろう
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
のみならず次第に衰弱する。その上この頃は不如意ふにょいのため、思うように療治りょうじをさせることも出来ない。聞けば南蛮寺なんばんじの神父の医方いほう白癩びゃくらいさえ直すと云うことである。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼はそこを新たに発見した。そういう風に考えているのである。ただし当今はどこにいたとて不如意ふにょいなことに変りはない。それにしても古巣は古巣だけのことはある。
そうではなくて主として、何とか改善できるのに、ただ不平不満にみち、いたずらに自分の運命または時世の不如意ふにょいをのろっている大多数の人々に話しかけるのである。
かつて父として不如意ふにょいであったその父、母として現在不如意であるその母、その中に向ってどうしても恋わずにはいられぬ根元の父母のようなものがある気が致しまして
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「社長のような地位になると、不可能なことを希望する。金はある。勲章は貰う。自由は利く。百事意の如しだ。そこで何か一つ不如意ふにょいなことがないと気がまぎれないんだ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
けれども年寄というものは必ずしも世の中の不如意ふにょいかこっているとは限らないものである。僕は自分の越し方をかえりみて、好きだった人のことを言葉すくなに語ろうと思う。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
田舎いなかでの御生活は、どこやら不如意ふにょいなようでいて、充実されたものであろうと、おうらやましくぞんじます。あなたのお体にもよし、御家庭にもしみじみとした味の出た事と存じます。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かつまた不如意ふにょいで、惜しい雲林さえ放そうとしていた位のところへ、廷珸のあなどりに遭い、物は取上げられ、肋は傷けられたので、鬱悶うつもん苦痛一時にせまり、越夕えっせきしてついに死んでしまった。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
全体いつ頃からこんな不如意ふにょいが始まったものかと考えてみるのであるが、そのまた三度の食事ということさえ、やはりある時代の当世風であって、本来は朝け夕けの二度を本則とし
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
妾が出獄せし際の如きも岡崎氏と相挈あいたずさえ、ことに妾を迎えて郷里に同行するなど、妾との間柄もほとんど姉妹の如くなりしに、岡崎氏の家計不如意ふにょいとなるに及びて、彼女はこれをいと
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ただ気圧の点あるのみ、勿論運動または沐浴もくよく不如意ふにょい等も、大に媒助ばいじょする所ありしには相違なきも主として気圧薄弱のしからしむる所ならんか、しばらうたがいを存す、もし予にして羸弱るいじゃくにして
いとしい恋しいと思うからではないぞ、恥かしながら拙者はいま手許てもと不如意ふにょいじゃ、伊太夫の財産に惚れたのじゃ、娘には恋なし、財産があるから恋ありと言わば言うものよ、ははははは
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼女が彼の立派な人格を信じていたことと、彼女が友人の親切によって生きている、つまり自分が不如意ふにょいで、人に頼っているのだということを感じていたことは彼にとって好都合であった。
傷心 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
今もいう通り何分不如意ふにょいじゃに依って御当家へ願うたのも、然ういう柔弱な身体じゃから、商人あきんどに仕ようと思うた私の心尽こゝろづくしも水の泡となり、それのみならず誠に愧入はじいったのは此の八十両の金子かねじゃ
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ロミオ ま、こゝへやれ。かうたところ不如意ふにょいさうな。
内証は岡目に解らぬほどの不如意ふにょいを極めていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
萬事に不如意ふにょいかこつ身の上となったであろう。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
またこれを心配して実地に従事するについては様々の方便もあらん、また様々の差支さしつかえもあらん、不如意ふにょいは人生の常にしてこれを如何いかんともすべからず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
藩政御困窮の折ゆえ、溺れるものわらをもつかむで、殿にも、僥倖ぎょうこうをのぞまれるのであろうが、心ある老臣方は、たださえお手許の不如意ふにょいなところへ、莫大な失費。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
こころよからぬ事とは存じながら、何分にも手もと不如意ふにょいの苦しさに、万事を延光に任せました。
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「お勝手元不如意ふにょいと言ったところで、こちとらのように、八もん湯銭ゆせんに困るなんてことはねえ」
太子は申すまでもなく、山背大兄王やその若き御子達には、果さんとして果しえなかった無念の思いがあり、不如意ふにょいのいのちの嘆きは最後の日までむことはなかったであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
真佐子はたもとを顔へ当てて、くるりとうしろを向く。としにしては大柄おおがらな背中が声もなく波打った。復一は身体中に熱くこもっている少年期の性の不如意ふにょいが一度に吸い散らされた感じがした。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
手許てもと不如意ふにょいの上に、異国のことは、誰も、心得ておりませぬから、一にも、二にも、斉彬斉彬と、斉彬公を引出して、金と、智慧とを一時に、絞り取ろうと、幕府が必死になっているだけに
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それらの大口ものの調達を依頼されるごとに、伏見屋でも二百両、二百三十両と年賦で約束して来た御上金おあげきんのことを取り出すまでもなく、やれお勝手の不如意ふにょいだ、お家の大事だと言われるたびに
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ただ君と予との因縁いんねんうすうして、いま人生の中道にたもとをわかつ。——これは淋しいことにちがいないが、考え方によっては、人生のおもしろさもまたこの不如意ふにょいのうちにある
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一家貧にして衣食住も不如意ふにょいなれば固より歌舞伎音曲などの沙汰に及ぶ可らず、夫婦辛苦して生計にのみ勉む可きなれども、其勉強の結果として多少の産を成したらんには
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
生計不如意ふにょいの家は扨置き、筍も資力あらん者は、仮令い娘を手放して人の妻にするも、万一の場合に他人を煩さずして自立する丈けの基本財産を与えて生涯の安心を得せしむるは
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)