駝鳥だちょう)” の例文
その中から黒い駝鳥だちょうの羽のボアを取り出して、西洋臭いそのにおいを快く鼻に感じながら、深々と首を巻いて、甲板に出て行って見た。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
駝鳥だちょうの卵や羽毛、羽扇、藁細工わらざいくのかご、貝や珊瑚さんごの首飾り、かもしかのつのふか顎骨がくこつなどで、いずれも相当に高い値段である。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
わに駝鳥だちょう山羊やぎ鹿しか斑馬しまうま、象、獅子しし、その他どれ程の種類のあるかも知れないような毒蛇や毒虫の実際に棲息せいそくする地方のことを話し聞かせた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
梅花うつぎと巻貝とが煖炉だんろの棚をかざり、その上には色さまざまな鳥の卵が紐に通してさげてあって、大きな駝鳥だちょうの卵が部屋の中央にさがっていた。
しかりといえども識者の眼識は境遇の外に超逸す。熊沢蕃山くまざわばんざんの如き、その一人なるからんや。彼はびっこ駝鳥だちょうなれども、なお万里の平沙へいさはしらんとする雄気あり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
駝鳥だちょうのような彼の胃のは、石だろうが、青錆のついた古銅貨だろうが、わけなく消化するに違いない。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「先日、あちらからお持ちかえりになりました、アノ駝鳥だちょうの卵ほどある卵でございますが……」
(新字新仮名) / 海野十三(著)
と思うと先生の禿げ頭も、下げる度に見事な赤銅色しゃくどういろの光沢を帯びて、いよいよ駝鳥だちょうの卵らしい。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
大小無数の水禽すいきんのさざめき、蛇のように、長いくびをくねらして小さなえさをさがしてはついばんでいる駝鳥だちょうおりの外には人間どもが、樹陰こかげのベンチの上に長々と寝そべったり
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
帽子の上にほとんどまっすぐに立っている小さな駝鳥だちょうの羽根飾りは、彼女が勤めるようになってからザムザ氏が腹を立てていたものだが、それが緩やかに四方へゆれている。
変身 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
駝鳥だちょう羽扇おおぎが、けだるそうにゆらりと揺れて、香料の風を送る。どうあってもここんところは、プラス・ヴァンドウムかルウ・ドュ・ラ・ペエの空気でないと、感じがでない。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
excuse me と云って、大きな異人が、高柳君をおおいかぶせるようにして、一段下へ通り抜けた。駝鳥だちょうの白い毛が鼻の先にふらついて、品のいい香りがぷんとする。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今日も雨が降るので人は来ず仰向あおむけになつてぼんやりと天井を見てゐると、張子はりこの亀もぶら下つてゐる、すすきの穂の木兎みみずくもぶら下つてゐる、駝鳥だちょうの卵の黒いのもぶら下つてゐる
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
処女マリアの彫像の眼は駝鳥だちょうの胃の腑をいて取ったという自然のダイヤがいれてあった。
バットクラス (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
このあわれな人たちは、脅かされてることを感じながらも、好んで駝鳥だちょう真似まねをしていた。石の後ろに頭だけを隠して、不幸からこちらの姿を見られていないことと想像していた。
私はなにげなく象と駝鳥だちょうの置物二つを買って、マダムのもとへ持って行ったところが、はじめは大喜びでうれしそうに早速その紙包みを解いたが、中から最初に駝鳥が出るやいなや
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
次にはからすを挙げ、三十九章に入りては山羊やぎ牝鹿めしか野驢馬のろばのうし(野牛すなわち野生の牛)、駝鳥だちょうたかわしを挙げておのおの特徴を述べ、神の与えし智慧ちえによる各動物の活動を記して
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
高価な毛皮で縁どった天鵞絨びろうどの服や、レエスの着物や、刺繍のある衣服や、駝鳥だちょうの羽根で飾った帽子——てんの皮の外套がいとう、それから小さな手袋、手巾ハンケチ、絹の靴下——帳場の後方うしろに坐っていた婦人達は
話が脇路わきみちれました。兄は帰朝後、新調の車で毎日役所へ通われます。私はひまがあれば兄を訪いました。私への土産は、駝鳥だちょうの羽を赤と黒とに染めたのを、幾本か細いブリキの筒へ入れたのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そばに寄って見ると、汚い頭です。光頭会では駝鳥だちょうの卵のようなのを
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
駝鳥だちょうの眼は遠くばかり見てゃないか。
ぼろぼろな駝鳥 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
私は自分の心を沙漠さばくの砂の中に眼だけを埋めて、猟人から己れの姿を隠しおおせたと信ずる駝鳥だちょうのようにも思う。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
紅鶴フレミンゴを見に行ってやりたまえ。薔薇色ばらいろの下着のすそが泉水の水にれるのを心配して、ピンセットの上に乗って歩いている。白鳥と、その様子ぶった鉛のくび駝鳥だちょう
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
あの駝鳥だちょうの卵のような、禿げ頭の恰好と云い、あの古色蒼然としたモオニング・コオトの容子ようすと云い、最後にあの永遠に紫な襟飾ネクタイの色合いと云い、わが毛利もうり先生だと云う事は
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
また、かのアラビア人のごとく熱天爍地ねつてんれきち、一木一草もその自由豊美なる生長をなすあたわず、駝鳥だちょうの伴侶となり、駱駝らくだの主人となり、沙漠より出でて沙漠に入るにもあらず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
助手がさきほども、駝鳥だちょうのような卵といったが、全くそれくらいもあろう。色は淡黄色たんこうしょくで、ところどころに灰白色かいはくしょく斑点はんてんがあった。それは何の卵であるか、ちょっと判りかねた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
昨年見た「流行の王様」という映画にも黒白の駝鳥だちょう羽団扇はうちわを持った踊り子が花弁の形に並んだのを高空から撮影したのがあり、同じような趣向は他にもいくらもあったようであるが
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
稜錐塔ピラミッドの空をく所、獅身女スフィンクスの砂を抱く所、長河ちょうが鰐魚がくぎょを蔵する所、二千年の昔妖姫ようきクレオパトラの安図尼アントニイと相擁して、駝鳥だちょう翣箑しょうしょうに軽く玉肌ぎょっきを払える所、は好画題であるまた好詩料である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これはもう駝鳥だちょうゃないゃないか。
ぼろぼろな駝鳥 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
一、動物園の獅子及び駝鳥だちょう
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
松葉杖をついた癈兵はいへいが一人ゆっくりと向うへ歩いてく。癈兵はいつか駝鳥だちょうに変っている。が、しばらく歩いて行くうちにまた癈兵になってしまう。横町よこちょうかどにはポストが一つ。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鶏の卵大の大きさから、家鴨あひるの卵大の大きさとなり、それからぐんぐんふくらんで、駝鳥だちょうの卵大の大きさとなり、それからまだまだふくれて、さあ飛行機の卵大の大きさとなっていった。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
駝鳥だちょう襟巻ボーアに似ているでしょう」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何が面白おもしろくて駝鳥だちょううのだ。
ぼろぼろな駝鳥 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
ひかり滑々かつかつたる先生の禿げ頭で、これまた後頭部のあたりに、種々しょうしょうたる胡麻塩ごましおの髪の毛が、わずかに残喘ざんぜんを保っていたが、大部分は博物はくぶつの教科書に画が出ている駝鳥だちょうの卵なるものと相違はない。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
駝鳥だちょう襟巻ボーアに似てゐるでせう」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)