鞭打むちう)” の例文
と急がわしくすずりを引き寄せ、手早くしたためたる電信三通、おんなを呼び立ててすぐにと鞭打むちうたぬばかりに追いやり、煙管きせるも取らず茶も飲まず
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
矢を射かけたのが権八らしいということは、正内老人も否定していたが、べつの意味でも、いちは権八の手であんなにひどく鞭打むちうたれた。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
長途なので、一気に馬を鞭打むちうてば馬がつぶれる。秀吉は、平均に軽走させながら、同じ歩調でついて来る馬上の蘭丸をかえりみて話した。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
労働者を激励し、身を据え、立ち止まり、また駆け出し、騒擾そうじょうと努力との上をかけり、あちらこちら飛び回り、ささやき、怒鳴り、全員を鞭打むちうっていた。
お前の心から暗黒を放逐ほうちくし、不自然でもかまわぬ、明るい光を添えて見ろ、と自身を叱り鞭打むちうって、自分の航路を規定したく、かじくぎづけにする気持で
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ことに雨のふる夜更よふけなどに養家において来た二人の子供のことをおもい出すと、いばら鞭打むちうたるるように心が痛み、気弱くもまくらに涙することもしばしばであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「かような始末ではござる。死屍しし鞭打むちうつようで心苦しいが、申さなければかえって疑惑を増すであろう」
紳士の不機嫌ふきげんが、クルミさんの心を鞭打むちうったのだ。が、そればかりではない。もう一つ大きな理由があったのだ。クルミさんは、紳士の右手を、はじめて見たのである。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
が、そのまま何もなくバッタリんだ。——聞け、時に、ピシリ、ピシリ、ピシャリと肉を鞭打むちうつ音が響く。チンチンチンチンと、かすかに鉄瓶の湯がたぎるような音がまじる。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三十もしくは四十の烈しい鞭打むちうちで、それだけでも気絶する者が少なくなかったという。
「手の下の罪人」何という暴虐ぼうぎゃくな言葉だ。誰が罪人なのだ? そして、いったい何人にいかなる権利があってほしいまま鞭打むちうち、苦しめ、虐待をえてするのだ。誰に、そんな権利があるのだ。
子供は虐待に黙従す (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼は卑弥呼ひみこの部屋の装飾を命じた五人の使部しぶに、王命の違反者として体刑を宣告した。五人の使部は、武装した兵士つわものたちの囲みの中で、王の口から体刑停止の命令の下るまで鞭打むちうたれた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
全く予測し難い地震台風に鞭打むちうたれつづけている日本人はそれら現象の原因を探究するよりも、それらの災害を軽減し回避する具体的方策の研究にその知恵を傾けたもののように思われる。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いつ月ののち、司馬遷はふたたび筆をった。よろこびも昂奮こうふんもない・ただ仕事の完成への意志だけに鞭打むちうたれて、傷ついた脚を引摺ひきずりながら目的地へ向かう旅人のように、とぼとぼと稿を継いでいく。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それはまるで人を鞭打むちうつような調子であった。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
鞭打むちうってください。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
まどいがちな私情に鞭打むちうって、そのうしろから走りだした。ガッキと口にくわえた銀みがきの十手は、心を鬼にもつうわべのきば
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中田屋杉之助の顏は眞つ蒼、——そのあゐのやうな額に油汗が浮かんで、恐ろしい苦惱の色が鞭打むちうつたやうに顏中を走ると、胸を押へてクワツと吐いたのは一塊ひとかたまりの血潮です。
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
くさむしれ、馬鈴薯じやがいもれ、かひけ、で、げつくやうな炎天えんてんよる毒蛇どくじやきり毒蟲どくむしもやなかを、鞭打むちう鞭打むちうち、こき使つかはれて、三月みつき半歳はんとし一年いちねんうちには、大方おほかたんで
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
めざめて帰った放蕩ほうとう息子と、あたたかく迎える親との図を思わせるような、美しい感動的な一瞬である。だが、これらの改装作業が終るとたんに、鞭打むちうち教的な行事が始まるのだ。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かねて習い覚えて置いた伝法でんぽう語彙ごいを、廻らぬ舌に鞭打むちうって余すところなく展開し、何を言っていやがるんでえ、と言い終った時に、おでんやの姉さんが明るい笑顔で、兄さん東北でしょう
服装に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
「大兄、我は王のために鞭打むちうたれるであろう。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「和氏。老躯ろうく鞭打むちうたせて、ご苦労だったが、使いの功は上々であったぞ。これでまず、義貞もじっとはしておられまい」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また鞭打むちうつて、』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
新九郎は、よろこびほどの礼を云ういとまもなく、再び疲れた体に鞭打むちうって、並木から並木つづきの街道を一心に走りつづけた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……ああ、子を愛しながらも、子に鞭打むちうつことをなさる、お父上のきびしいお力、大きな愛のお力が借りたい。そう日頃から思いつめていたせいであろ。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、長篠へ長篠へと、行く先を急ぐ気もちよりは、人間本来の弱さを、意志で鞭打むちうって、家と自分との距離を、一息のまに遠くしてしまいたいためであった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お通の牛に鞭打むちうって、彼女ぐるみ、何処かへさらって行ったということは、目撃していた旅人の口から伝わって、もうこの街道筋では、隠れもない噂ばなしにのぼっている。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が落魄おちぶ公卿くげの子とわらわれ、ガタガタ牛車ぐるまで日野の学舎へ通う時、自分は時めく平相国へいしょうこく家人けにん嫡子ちゃくしとして、多くのさむらいを供につれ、美々しい牛車に鞭打むちうたせて、日ごとに
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、賢いので、こういう噂に対しても、自分から先に口を出して、死屍しし鞭打むちうつようなことばは決して吐かなかったが、近習の同輩が、あれこれと、佐久間父子のうわさをしてわらうと
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長が天成の大器であることも、その長所をもよく知っている中務の諫言かんげんだけに、信長はそれを読んでゆくうちに、涙より先に、びしびしと、鞭打むちうたれるような、真実の痛さを胸にうけた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つぶやいていたかと思うと、信長は衝動的に、いきなり鞭打むちうって駈け出した。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、やにわに、馬に鞭打むちうって、焔の町中を駈け出した。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも民心を打つことだ、鞭打むちうつことだ。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに鞭打むちうたれて
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)