おす)” の例文
鵞鳥がちようを。二の鵞鳥を。薄いひらめな土坡どばの上に、おすの方は高く首をげてい、めすはその雄に向って寄って行こうとするところです。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その代り雛鳥はまだ体質がおすは雄のように発達しておらんから去勢されても平気なもので施術しじゅつの結果さえ良ければ後に弱ることがない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
何となれば、その卵を生んでいる蠅は、いずれも皆めすではなく、実におすだったのである。そしてその雄から、あの畸形な子蠅が生れてきたのだ。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
「むむ。おれも何だかそんな気がする。ゆうべ釣って来たのはおすの鯉で、そのめすが取り返しに来たんじゃあるめえかな」
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
男は徹夜続きの疲労し切った肉体に、逆に襲って来た情慾じょうよくに眼がくらみ、おすの野獣を思わせる荒々しさで征服し始めた。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
先の者も人の気配に、杢之進もくのしんよりはびっくりした様子。雉子きじめすおすが舞ったように、パラパラと沢の方へ逃げだした。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村に猟夫かりゅうどが居る。猟夫りょうしといっても、南部のいのししや、信州の熊に対するような、本職の、またぎ、おやじのおすではない。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ええ、——いや、おすの河童だけは知っています。わたしの妻などはこの河童を悪人のように言っていますがね。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どこからともなく、ひばりのこえがきこえてきました。ちょうど、このとき、おすのほおじろをうしなっためすのほおじろは、ひとりやぶのしげみでかなしんでいました。
平原の木と鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「いや、ざっくばらんに云うと、私の家にはめすの金魚が一ぴきだけでしょう。だから、どうもよそのおすを見ると、目についてうらやましくて好意が持てるのです」
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それを病室のガラス障子の外に据えて数羽の小鳥を入れて見た。その鳥はキンパラという鳥のおす一羽、ジャガタラ雀という鳥のめす一羽、それとひわの雄一羽とである。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
同時に裸体の少年たちが、おすやぎのつのにしがみついて、雄やぎのはねるままに、歓呼して引きずられてゆきながら、葉のまきついた棒で、雄やぎを突きさしている。
幾羽もいる籠へ、しなびた手をあらあらしく差し込んで、二羽つかみ出して、空籠からかごに移し入れるのである。それでめすおすが分かるかと云えば、しぶしぶ「へえ」と返事をした。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
時々前膊の皮膚にびんくちを当てて血を吸わせたりする。蚤のおすが一瞬に飛ついてめすと交尾したりするありさまを見る。蛹がようやく色が濃くなって成虫になるありさまを見る。
(新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ほかの村々の人馬にはいささかも害をなさず。飯豊衆相談して狼狩をなす。その中には相撲すもうを取り平生へいぜい力自慢ちからじまんの者あり。さて野にでて見るに、おすの狼は遠くにおりてたらず。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
真っ白の頸足へもつれる髪! 美しいなアこれだけで、大概のおすは退治られる。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私の眼の下にはこのとき一匹のおすがいた。そして彼もやはりその合唱の波のなかに漂いながら、あるをおいては彼ののどを震わせていたのである。私は彼の相手がどこにいるのだろうかと捜して見た。
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
おすであったが、めすの様な雄であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
たちまち、魚容はおすの烏。
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは鶏の選び方を知らんからでしょう。鶏肉けいにくは若い鶏でなければ肉も柔く味も良いという訳に参りませんが、三百五十目以内ならばおすの方が良いのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
するとたちまち、あたりは暗くなり、雲のごとき気流のうちから、数千の豼貅ひきゅう(大昔、中国で飼い馴らして戦場で使ったという猛獣のこと、おすきゅうめす
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
重吉も——重吉はかく世間並みに出来上った男に違いなかった。が、彼女の軽蔑けいべつする一匹のおすにも違いなかった。こう云う彼等の幸福は彼女にはほとんど不正だった。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
十羽ほどの鶏を籠に入れて、売りに来た者がありまして、雌鶏めんどり雄鶏おんどりのひとつがいを買いましたが、雌鶏の方は夏の末にちてしまいまして、おすの方だけが残りました。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
入口に例のめすだかおすだか解らない二匹の蝙蝠こうもりが上下になって、ネオンサインで描き出してあった。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もやもやとしたけはい——おすやぎの鋭い体臭や、あえぐ肉体のいきれや、くさった水から立つような臭気や、それともうひとつ別の、かぎなれた、傷と流行病の臭気などが、感覚をさいなんだ。
それは、しろくもの、あわただしくながれるでした。このおすのほおじろは、このあいだから、つけねらっていたまち鳥刺とりさしのために、すこしの油断ゆだんすかされて、ついにらえられてしまいました。
平原の木と鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかるにその去勢した者は肉の味が去勢せざるものに三倍するとしてある。普通の鶏はめすの肉がおすより美味いとまっているが去勢した雄は雌よりもはるかに美味い。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
(『生命の』は樹というものの、成しあたわないことはないのです。)のみならずめす河童かっぱを造りました。すると雌の河童は退屈のあまり、おすの河童を求めました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
李逵は身をらした。こんどこそは、彼もその身構えをかたくせざるをえなかったらしい。一陣の風に、牙をいて、新たに出て来たのは、ひたいの白い巨大なおすの虎であった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家内が五人あれば廃物で五羽の鶏が飼える勘定で産卵鶏の好い種類を飼いますと一羽が一年に二百個以上の玉子を産みます。おす一羽めす四羽として二四が八百の玉子を取れます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
さあ、たぶんおすの河童をつかまえるという意味にでもとったのでしょう。そこへおふくろと仲悪い叔母おば喧嘩けんかの仲間入りをしたのですから、いよいよ大騒動になってしまいました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僕等はかね工面くめんをしてはカッフェやお茶屋へ出入した。彼は僕よりも三割がたおすの特性を具えていた。ある粉雪こなゆきの烈しいよる、僕等はカッフェ・パウリスタの隅のテエブルに坐っていた。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
... どうしてけるね、俗に細長いのがおすまるいのがめすだというがそうかね」中川
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかし酒匂の鮎が足りなくなると馬入川ばにゅうがわ狩野川かのがわの鮎を使う事がありますから随分雑種の鮓が出来ますけれどもず酒匂の鮎ならば鮓に適しています。それもおすよりはめすの方がようございます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)