隙見すきみ)” の例文
めんどうになるような気はするのであったが、すでに隙見すきみをしたらしい人に隠すふうを見せるのはよろしくないと思った尼君は
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「二十年も奉公した私に、主人の死に顔を見せられないはずはございません。あんまり変だから、そっと隙見すきみをすると——」
残った連中が、後から出て行って、帰りがけに数右衛門の長屋の戸を隙見すきみしてみると、数右衛門は蒲団ふとんの中にもぐって、高いいびきをかいていた。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、思って、裏手にまわって、閉め忘れたらしい小窓に、灯火がほんのりさしているのを見つけ、はしたなく、隙見すきみをしたのが、因果だった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
少女は実際部屋の窓に、緑色の鸚鵡おうむを飼いながら、これも去年の秋まくかげから、そっと隙見すきみをした王生の姿を、絶えず夢に見ていたそうである。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
結局旨く胡麻化して隙見すきみをさせましたが一ぺンに違うといいまへン。よう似てるが、違う所もあるちゅうような事だす。
それが一方は近くに高い家が建ってたちまち見えなくなり、一方は樹木が一体に成長して、僅かに葉が落ちてからちらちらと隙見すきみをするだけになった。
昨夜ゆうべなのさ。僕の隙見すきみの第五夜だ。丸くぼかした視野の中に、君の、その顔が、ヒョッコリ現われた時には、僕はもう少しで叫声さけびごえを立てる所だった」
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
真白な肉附きの好い肌が役者のように美くしかったので、近所の若い女が目引き袖引き垣根から隙見すきみしたそうだ。
女は唯いよいむせびゐたり。音も立てずしたりし貫一はこの時忍び起きて、障子の其処此処そこここより男を隙見すきみせんと為たりけれど、つひこころの如くならで止みぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
けれどもまた、怜悧りこうな人は折助をうまく利用して、評判を立てさせたり隙見すきみをさせたりするのでありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あのロメエヌ町の白い客間にいらっしゃるのを隙見すきみをいたした時、それが分かったのでございます。
田舎 (新字新仮名) / マルセル・プレヴォー(著)
とこのまま黙って隙見すきみをするのはもう気の毒で堪らないというように、そっと慶三の手を引いたが
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
主人の妻、大納言のきたかたはこう云う座敷の有様を、御簾みすのうちにいてさっきから隙見すきみしていた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すなは隙見すきみしたる眼の無事なるを取柄にして、何等なんらの発見せし事なく、きびすを返して血天井を見る。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
人なき家に、ひとり弥生が入浴しているので、よろこんだ豆太郎、そっと隙見すきみをしてみると!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
僕は影にいて、賞讃でもみくちゃになるカビ博士をくすぐったく隙見すきみしているわけだった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「どう考えてもせないことだ。誠の使者か贋物にせものか、どれちょっと隙見すきみしてやろう」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あやつめが四たび五たびとしつこく隙見すきみして、何か嗅ぎ出そうと不埓な振舞いに及んだゆえ、おどしつけようと飛んで出たところへ、貴殿がふらふらと迷ってお出なすったという次第じゃ。
命をしても此帷幕の隙見すきみをす可く努力せずに居られぬ人をわらうは吾儕われらどん高慢こうまんであろうが、同じ生類しょうるいの進むにも、鳥の道、魚の道、むしの道、またけものの道もあることを忘れてはならぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
祭日まつりびの太皷の囃子はやし厭はしく、わが外の世をば隙見すきみしぬ。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
あまりに泣くので隙見すきみをしている源氏までも悲しくなった。子供心にもさすがにじっとしばらく尼君の顔をながめ入って、それからうつむいた。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「その通りですよ。下女のお友が一から十まで、隙見すきみをしてゐたんですつて——いやもう大變な見ものだつたさうですよ」
「二番の部屋といったっけな」裏梯子うらばしごを上がって隣り座敷へ、そっと細目の隙見すきみうなぎなりに寝そべっている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暗闇に立っていることゆえ大丈夫とは思ったけれど、二人は充分用心して、屋内から隙見すきみされてもそれと気附かれぬ様、ドアのすぐ横にうずくまって様子を窺った。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
神尾の殿様の様子を見ようと石灯籠の蔭で隙見すきみをしているところを取捉とっつかまって、すんでのことに息の根を止められようとするところを不意にあの騒ぎで、神尾の殿様も
貞子の方は奥より駈出で(見るに眼もれ心も消え、)といとに乗るまでにはあらざるも、式台の戸より隙見すきみして、一方ならぬ御愁傷おなげきなり。書生は殊更にかっぷとつばこぶしに打占め
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
公は往年夫人のねやへ通いつゞけた夜な/\、餘所よそながら此の奇態きたいな顔を隙見すきみさせてもらっては快感に浸っていたので、今日が始めてなのではないが、当人はそれを知る筈がないから
また外光ぐわいくわうむらさき河岸かしつばめの飛びかけりながら隙見すきみする
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
(もう一度隙見すきみをしてやろうか)
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今日は恋人のことが思われずに、風の中でした隙見すきみではじめて知るを得た継母の女王の面影が忘られないのであった。
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)
加え得る様な、強い女ではありません。その上相手に悟られぬ様に、こっそり隙見すきみをする方法もあるのです
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
神尾の許へ行くからには、どうせろくなことでないのはわかっています。そうしてこの男が老女の家を辞して帰る時に、垣根の蔭から何か、そっと隙見すきみをしてその途端に
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その遠眼鏡を中心に、参詣の男女が、一家族のように楽しんでいるのを見ると、宅助は、平和な家庭の垣を隙見すきみした継子ままこと同じさみしみを感じて、自分も、仲間入りをしたくなった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北の方は、自分が左大臣を隙見すきみしていることを、左大臣が知っているかどうか半ば疑問にしていたのであったが、今は疑う餘地もないと思うと、自分の顔がにわかにあかくなるのを感じた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
娘自身も並み並みの男さえも見ることのまれ田舎いなかに育って、源氏を隙見すきみした時から、こんな美貌びぼうを持つ人もこの世にはいるのであったかと驚歎きょうたんはしたが
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それが非常に遠く感じられ、不思議と物淋ものさびしい晩のことでありましたが、私はとうとう、土蔵へ忍びこんで、そこの二階にいる筈の夫の隙見すきみくわだてたのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
米友が推察の通り、この塀の外から中を隙見すきみしていたのは折助でありました。折助が三人ばかり先刻から節穴を覗いていたのを、米友に見つけられて彼等は丸くなって雪の中を逃げました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
表戸をてて、隙見すきみしていた道三の側衆たちは、思わず
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほのかな隙見すきみをしただけの面影すら忘られないのであるからまして院が女王のためのお悲しみの深さは道理至極であると言わねばならぬと同情も申していた。
源氏物語:42 まぼろし (新字新仮名) / 紫式部(著)
一刹那いっせつな、この世の視野の外にある、別の世界の一隅いちぐうを、ふと隙見すきみしたのであったかも知れない。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「いやじゃありませんか、いつのまに、こんなものをかいたんでしょう。そっと隙見すきみをして、こんなところをかいちまっていながら、知らん顔をしているんですから、ずいぶん、人の悪い白雲先生よ」
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「待てしばし」と、しずかに隙見すきみしておられた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうした隙見すきみがもとで長い物思いを作らせられたと同じく、自分を苦しくさせるための神仏の計らいであろうかとも思われて、落ち着かぬ心で見つめていた。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
どこか隙見すきみでもする箇所かしょはないかとさがしたり、そこを立ち去りかねていたが、いつまでそんなことをしていても仕方がないとあきらめて、通りすがりの自動車を呼びとめた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
次の間で隙見すきみをしていたお絹が
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
長い間うわさだけを聞いていて、いつの日にそうした方を隙見すきみすることができるだろうと、はるかなことに思っていた方が思いがけなくこの土地へおいでになって
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
わしはこの隙見すきみによって、川村の奴が、どれ程深く瑠璃子に溺れているかを知ることが出来た。彼は姦婦の柔かい指先の一触によって、たちまち水母くらげの様になってしまった。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
御簾みすの向こうの黒い几帳きちょうき影が悲しく、その人の姿はまして寂しい喪の色に包まれていることであろうと思い、あの隙見すきみをした夜明けのことと思い比べられた。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そとから隙見すきみのできないようにしておいて、用意の釘抜くぎぬきで木箱のふたをひらきはじめた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)