釣鐘つりがね)” の例文
天井から、釣鐘つりがねが、ガーンと落ちて、パイと白拍子が飛込む拍子に——御矢おんや咽喉のどささった。(ずまいを直す)——ははッ、姫君。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うりに參らんといましちより受出して來たる衣服いふくならび省愼たしなみの大小をたいし立派なる出立いでたちに支度なして居たる處へ同じ長家に居る彼張子かのはりこ釣鐘つりがね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
言はゞ提灯に釣鐘つりがね、——それは判つて居るが、思ひ合つた二人の仲、目をつぶつて許してやつたら、こんな事にはならなかつた筈だ
小指を掛けてもすぐかえりそうな餌壺は釣鐘つりがねのように静かである。さすがに文鳥は軽いものだ。何だか淡雪あわゆきせいのような気がした。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その五六間先に、派手なハンチングをかぶって、荒い格子縞の釣鐘つりがねマントを着た男が、やはり小急ぎしながら電車に乗りに行く恰好が眼に付いた。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
武蔵野に見るような黒土を踏んで、うら若いひのきの植林が、一と塊まりに寄り添っている、私たちの足許には釣鐘つりがね草、萩、擬宝珠ぎぼうしゅ木楡われもこうが咲く。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
一帯が岩山で、ったった岩壁がいきなりに海から立ちあがり、ちょうど釣鐘つりがねを伏せたような恰好になっている。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あるいは宮や寺の宝物ほうもつになっている古い仮面めんをかり、釣鐘つりがねをおろし、また路傍の石地蔵いしじぞうのもっとも霊験れいげんのあるというのを、なわでぐるぐる巻きにしたりして
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
グワンと耳へ釣鐘つりがねをつかれたような大喝に、さしも徳川万太郎、思わずハッと気がくらんで、屋根の天ッ辺から大地へ投げつけられるかと気をちぢめた刹那!
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かすみ千鳥ちどりなどゝ奇麗事きれいごとではひませぬほどに、手短てみぢかにまうさうなら提燈てうちん釣鐘つりがね大分だいぶ其處そこへだてが御座ござりまするけれど、こひ上下じやうげものなれば、まあ出來できたとおぼしめしますか
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
花道はなみちのうへにかざしたつくりざくらあひだから、なみだぐむだカンテラがかずしれずかヾやいてゐた。はやしがすむのをきっかけに、あのからひヾいてくるかとおもはれるやうなわびしい釣鐘つりがねがきこえる。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
時は浦賀うらがに黒船が迫り、下関しものせきには砲声が響く直前の頃であった。幕府では沿岸警備のために、寺院の釣鐘つりがねを運び、口を海に向けて並べていた。黒船から見た時に、大砲と見えるだろうというのである。
島津斉彬公 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
音の無い釣鐘つりがねという感がする。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
一銭の釣鐘つりがねくや昼霞
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
三馬さんば浮世風呂うきよぶろむうちに、だしぬけに目白めじろはうから、釣鐘つりがねつてたやうにがついた。湯屋ゆやいたのは(岡湯をかゆ)なのである。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
丁子屋と油屋なら、借金の有ると無いとの違ひだけで、家柄も店の格も、そんなに違やしませんが、河内屋では提灯と釣鐘つりがねです。
銭形平次捕物控:050 碁敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
する族而已やからのみ丹波の荒熊三井寺へゆかう/\と云張子の釣鐘つりがね或は鉢叩はちたゝき願人坊主などと云者許りなれば勿々なか/\油斷は少しも成ずもし此金子の有事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
釣鐘つりがねも釣鐘堂も引きずッて、そこへと歩いて行きたいように気がはやる、体じゅうの血が暴れまわる。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「町内の油蟲あぶらむし——釣鐘つりがねの勘六が、血だらけの匕首あひくちを持つて、ぼんやり立つてゐるところを、多勢の人に見られてしまつたんで」
はるかに歩行あるいてまたもんあり。畫棟彫梁ぐわとうてうりやうにじごとし。さてなかはひると、ひとツ。くもとびらつきひらく。室内しつないに、おほき釣鐘つりがねごと香爐かうろすわつて、かすみごとかういた。
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
入れ又口の缺たる土瓶どびんは今戸燒の缺火鉢かけひばちの上へなゝめに乘て居る其體たらく目も當られぬ困窮こんきう零落れいらく向う三軒兩隣は丹波國の荒熊三井寺へ行かう/\といふ張子の釣鐘つりがね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もつとも向うは側用人、此方は唯のお徒士かちと、千五百石と五十石といふ提灯と釣鐘つりがねほどの身分の違ひはあつた