途々みちみち)” の例文
武蔵はいかったが、間に合わなかった。役人たちの身支度からして物々しかったが、行くほどに途々みちみちたむろしていた捕手のおびただしさに驚いた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その途々みちみち、妹は駄々をこねていた。一緒にバスに乗って船津までお見送りしたいというのである。姉は一言のもとに、はねつけた。
律子と貞子 (新字新仮名) / 太宰治(著)
途々みちみち喰べながらおで、遠いから路を間違っちゃいかんよ、そのうちわしもまたすきをみてあがるからって家に帰ったら言っておくれ」
犯人は途々みちみち毒の入った餌で豚を釣りながら線路の上まで連れて来ると、それから軌条レールの間へ動かない様に縛って尚幾何いくらかの毒餌どくえを与える。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
と、浜田も前の興奮した調子ではなく、いくらか重荷をおろしたような、打ち解けた口ぶりで、途々みちみちそんな風に話しかけました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
以上は、神田の平次の家から東両国へ駆けつける途々みちみち、八五郎が息を切らしながら平次のために説明してくれた筋でした。
彼は途々みちみちこの一言いちごんを胸に幾度いくたびか繰返した、そして一念はしなくもその夜の先生の怒罵どばに触れると急に足がすくむよう思った。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
というのは、途々みちみちウルリーケが話したとおりに、艇長の生地が和蘭オランダのロッタム島だとすれば、当然その符合が、彼を指差すものでなくて何であろう。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
堀田原を出て、途々みちみちでもいろいろに考えたが、やはり一応は主人に逢って自分たちの潔白を証明して置く方がいい。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
チチコフの半蓋馬車ブリーチカは、ノズドゥリョフと妹婿が乗った半蓋馬車ブリーチカと並んで駈けて行ったから、途々みちみちずっと彼等三人は自由に談話を交わすことが出来た。
沈鬱な心境を辿たどりながら、彼は飯田町六丁目の家の方へ帰って行った。途々みちみち友達のことが胸に浮ぶ。確にけた。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あによめの顔が泛び……友達たちの顔……その懐かしい故国への途々みちみち埃及エジプト阿剌比亜アラビヤあたりの沙漠や、ペルシャ湾印度洋の白波を、雲海遥かの下に俯瞰みおろしながら
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
大宮口の時は、友人画家茨木猪之吉君と、長男隼太郎を伴った。茨木君は途々みちみち腰に挟んだ矢立やたてから毛筆を取り出して、スケッチ画帖に水墨の写生をされた。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
親方コブセは牛のように黙々と歩いて行く彼等にひどい跛足で追いつきつつ、途々みちみちしきりに注意を与えていた。
親方コブセ (新字新仮名) / 金史良(著)
家へ帰る途々みちみちも、仲よしであつた頃のおきいちやんの云はれたことが思ひ出されて、仕方がなかつたのでした。
虹の橋 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
銀子は途々みちみち車を掛け合っていたが、やがてあきらめて電車に乗ることにした。この系統の電車は均平にもすでに久しくお馴染なじみになっており、飽き飽きしていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
途々みちみち、いま分れてきたばかりのおようさんが、数年前に逢ったときから見ると顔など幾分けたようだが、私とは只の五つ違いとはどうしても思われぬ位
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「わての亭主も病気や」それを自分の肚への言訳にして、お通夜つやも早々に切り上げた。夜更けの街を歩いて病院へ帰る途々みちみち、それでもさすがに泣きに泣けた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「話は途々みちみちしてやる。……今日は雪晴れのいい天気。まごまごしていると、また一人娘が死ぬかも知れん」
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は途々みちみち自分の仕事について考えた。その仕事は決して自分の思い通りに進行していなかった。一歩目的へ近付くと、目的はまた一歩彼から遠ざかって行った。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はじめさんは大事そうにそれを兵児帯へこおびの間にくるんで、帰る途々みちみち落しはしないかと時々手で触りながら
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
途々みちみちいろいろ考えて。こんなに、貴方の心持を重く見て、自分の心持の中に入れて暮して居るのに、そういうことで貴方を不快にさせたのは実に実に残念であるから。
二人は二人きりでは心細かつたので、途々みちみち働いてゐる百姓達をさそつていつた。しまひには全部で十人位になつた。みんなは手に手に鎌やなは天秤棒てんびんぼうなどを持つて来た。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
お願いしてはすみませんが、実は私、大変な心配事が出来たんですの。委しいことは途々みちみち申上げますが、いかがでしょう? これから直ぐに宅へいらして頂けませんか知ら?
恐怖の幻兵団員 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
非常に特殊の本だから、そう簡単に入手出来ないだろうとは途々みちみち思っても来たのだが、何万何千円という汗牛充棟の中に、本当に一冊もないとなると若干淋しい感じもする。
縁台を裏返したのもある。また何とも知れぬ板や棒の類を急ごしらえにくくり合わせたやつで、途々みちみち材料を拾い上げて改造しようとする者もある。盥舟たらいぶねもいくつか出てくる。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
此頃の晴れた日の夕暮に途々みちみち望まれる秩父山の色ほど美しい色は、どの山にも見られない。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
しかし雲巌寺を出発してから行く途々みちみち、渓流に沿うて断岸の上から眼下を見れば、この渓流には瀑布たきもあれば、泡立ち流るる早瀬もあり、また物凄く渦巻く深淵などもあって
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
くわしいことは途々みちみち話すとして、すまないが君のあの上等の双眼鏡を持って来てくれたまえ
普通尋常の場処は無数にして変化も多くかつ陳腐ならず、故に名勝旧跡を目的地として途々みちみち天然の美を探るべし。鳥声草花我を迎ふるが如く、雲影月色我を慰むるが如く感ずべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
途々みちみち、男は自分の生活について少しばかり——それも重大な方面ではなく——職務しごとのことだとか、役所の時間だとか、毎晩食事をする小さなレストオランのことなどを話してくれた。
フェリシテ (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
厳命を受けた彼らが後始末のために帰る途々みちみち考えたことは後の場合であった。この苛烈さは、宗家が新政権の前をつくろったに過ぎまい、不日、再び恩命に接するに相違あるまい——と。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
強いてそうしようとするのであるが、矢張り心中に邪魔をするものがあっていずれとも決定しかねて二たび踵を返した。T君は途々みちみちにも、あれくらいの声は練習さえすれば人工でも出来る。
仏法僧鳥 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
帰る途々みちみち、彼は何処か楽書らくがきをするに都合の好さそうな処をと捜しながら歩いた。土蔵どぞうの墨壁は一番魅力を持っていた。けれども余り綺麗きれいな壁であると一寸いっすんほどの線を引いて満足しておいた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
弟子たちの議論を途々みちみち小耳にはさまれたイエスは、カペナウムの家に入られた後「汝ら途すがら何を論ぜしか」と問われました。さすがの弟子たちも良心がとがめて、一同黙然としていました。
「なあに、半ちく仕事よ。ま、つきあってくんねえ。途々みちみち話すとしよう」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
薫は車で来る途々みちみちの話を思い、恐ろしいほど異性に対しては神経の過敏に働く宮である、どんな機会にあの人のことをお知りになったのであろう、そしてどうして誘惑をお始めになったのであろう
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
宰相は途々みちみち馬や、お天気や、英吉利の政治家の噂などそんな下らない事ばかり話して、用談らしい事は一向おくびにも出さなかつたが、馬車が維也納でも名うての汚い町へ入つて来ると、急に慌て出した。
小沼の駅へ帰る途々みちみちも、私はクリロフ一家のことを考えていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
里村は途々みちみちひとり考えて悦に入った。
頭と足 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
帰る途々みちみち、ミネは悠吉にいった。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
秀吉が、茂山から方向を転じ、狐塚方面へ進軍してくると、途々みちみち、乱軍のあと、無数の手負いが、炎熱の地上にうめいているのを見た。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「年寄りの気にさからっては無事にまとまりのつくべきものも壊れてしまうから」と途々みちみちたしなめられて来たのが腹にあったのでもあろうか
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
情にもろい雪さんは途々みちみち泣いて泣いて眼を紅くしていた。が、春子は何も知らずに、ねんねこにくるまって眠っていた。心地よさそうに、すやすやと。
浮かぬ気持で帰る途々みちみち、何か大事なものを見落したような不安を感じ、その松のところからまた松島に引返したというのじゃないかとさえ考えられます。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
で、彼は途々みちみち、【もし、奴さんがこの俺を見て笑いころげなかったら、それこそてっきり、何もかもがあるべきところについている確かな証拠だ】と考えた。
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
『わたし、なんだか三又土筆てのを見つけるやうな気がしてよ』とおたあちやんは行く途々みちみち云ひました。
虹の橋 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
おとらは途々みちみちお島に話しかけたが、かく作の事はこれきり一切口にしないという約束が取極とりきめられた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その途々みちみち、廊下にも、庭先にも、戸棚の上にも、床の間にも、金仏、木像、古いの、新しいの、釈迦しゃかも観音も薬師やくし弁財天べんざいてんも、大小あらゆる仏像が置いてあるのは
避難ひなん列車の中でろくろく物も言わなかった。やっと梅田の駅に着くと、まっすぐ上塩町かみしおまちの種吉の家へ行った。途々みちみち、電信柱に関東大震災の号外が生々しくられていた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)