身振みぶり)” の例文
当時西語にいわゆるシニックで奇癖が多く、朝夕ちょうせき好んで俳優の身振みぶり声色こわいろを使う枳園の同窓に、今一人塩田楊庵しおだようあんという奇人があった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
視覚に関する自然形式としての表現とは、姿勢、身振みぶりその他を含めた広義の表情と、その表情の支持者たる基体とを指していうのである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
あまり真剣にすぎる身振みぶりは、他人ひとの目に滑稽こっけいとなって映るのに、まして、宅助の尋ねものが美人というので、誰もが笑わずにいられない。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よくしますよ。二人の人の身振みぶりだの顏付だのが意味ありげに見えるときにはね。それらを見てゐるのは面白いのですから。」
唄につれておどけた狐の身振みぶりをしながら次第に輪の側へ近づいて来るのが、———たまたまそれがえんな町娘や若いよめであったりすると、こと可愛かわいい。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「親方沢山だ、何も身振みぶりまでするこたアありません。」と愛くるしいくだんの口許で、べそを掻くような(へ)の字なり
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小さなやつがいきなり飛び出して、少女の頭髪かみにさしてあった小さなかんざしをちょっとツマんで引き抜き、したりがおに仲間のものに見せびらかすような身振みぶりをする。
壺は少しいきおいげんじたと思われたが、それでも昨日と同じ様に、ときどきカタカタと滑稽こっけい身振みぶりで揺らいだ。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二葉亭の若辰の身振みぶり声色こわいろと矢崎嵯峨の屋の談志の物真似テケレッツのパアは寄宿舎の評判であった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
をとこ自分じぶんのかたる浄瑠璃じやうるりに、さもじやうがうつったやうな身振みぶりをして人形にんぎやうをつかつてゐました。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
それでも吉兵衛には子供が珍らしくてたまらぬ様子で、そばを離れず寝顔をのぞき込み、泣き出すと驚いてお蘭のもとに飛んで行きすそを引いて連れて来て、乳をませよ、と身振みぶりで教え
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
我々われわれ地方ちほう不作ふさくなのはピンぬまなどをからしてしまったからだ、非常ひじょう乱暴らんぼうをしたものだとか、などとって、ほとんひとにはくちかせぬ、そうしてその相間あいまには高笑たかわらいと、仰山ぎょうさん身振みぶり
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それゆえにこそ身も世もあらず嬉しくて、あの夜のこと、君のおん身振みぶり、君のおんこと、細々としたる末までも、一つ一つ、繰返し心に浮べては、その度毎に今更らのように顔あからめ
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
フランス人特有の身振みぶりの多い饒舌じょうぜつの中にも、この時ばかりはどこかに長閑のどかさがある。アペリチーフは食欲を呼びます酒——男は大抵たいていエメラルド・グリーンのペルノーを、女は真紅しんくのベルモットを好む。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
美くしい身振みぶりの、身も世もないといふやうな
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あでなる女君をんなぎみよ、なつかしき身振みぶりもて
失楽 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
或時優善は松川飛蝶まつかわひちょう名告なのって、寄席よせに看板を懸けたことがある。良三は松川酔蝶すいちょうと名告って、共に高座に登った。鳴物入なりものいりで俳優の身振みぶり声色こわいろを使ったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
殊に小説の梗概こうがいでも語らせると、多少の身振みぶり声色こわいろを交えて人物を眼前めのまえ躍出おどりださせるほど頗る巧みを究めた。二葉亭が人を心服さしたのは半ばこの巧妙なる座談の力があった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
身振みぶりその他の自然形式はしばしば無意識のうちに創造される。いずれにしても、「いき」の客観的表現は意識現象としての「いき」に基礎附けて初めて真に理解されるものである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
などとつて、ほとんひとにはくちかせぬ、さうして其相間そのあひまには高笑たかわらひと、仰山ぎやうさん身振みぶり
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
つかみひしぐが如くにして突離つきはなす。初の烏、どうと地に坐す。三羽の烏はわざとらしく吃驚きっきょう身振みぶりをなす。)地をふ烏は、鳴く声が違ふぢやらう。うむ、うぢや。地を這ふ烏は何と鳴くか。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「彼女は急ぎ水瓶みづがめを手に取り下ろし、それを彼に飮ましめた。」すると、彼は、懷中ふところから玉手箱たまてばこを一つ取り出して、それを開け、立派な腕環や耳環を見せた。彼女は驚愕と稱讃の身振みぶりをする。
眼のいろ、唇のうごき、手真似てまね身振みぶりだけでも、話は立派に通じるんだ
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みだらがましき身振みぶりをば幽かにこころうたがひぬ
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
胸のあたりの真白きに腰のくれない照添いて、まばゆきばかりうるわしきを、蝦蟇法師は左瞻右視とみこうみあるいは手をり、足を爪立つまだて、操人形が動くが如き奇異なる身振みぶりをしたりとせよ、何思いけむくびすを返し
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かつエロキューションに極めて巧妙で、身振みぶり声色こわいろまじりに手を振り足を動かし眼をき首をってゴンチャローフやドストエフスキーを朗読して聞かしたのが作中のシーンを眼前に彷彿せしめて
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
つかみひしぐがごとくにして突離す。初の烏、どうと地にす。三羽の烏はわざとらしく吃驚きっきょう身振みぶりをなす。)地をう烏は、鳴く声が違うじゃろう。うむ、どうじゃ。地を這う烏は何と鳴くか。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身振みぶりをして、時々とき/″\頬摺ほゝずり、はてさて氣障きざ下郎げらうであつた。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「誰だい、」と思入おもいいれのある身振みぶりで、源次郎は振返る。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)