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ふ
ふりがな文庫
“
蹂
(
ふ
)” の例文
おつたは
稍
(
やゝ
)
褐色
(
ちやいろ
)
に
腿
(
さ
)
めた
毛繻子
(
けじゆす
)
の
洋傘
(
かうもり
)
を
肩
(
かた
)
に
打
(
ぶ
)
つ
掛
(
か
)
けた
儘
(
まゝ
)
其處
(
そこ
)
らに
零
(
こぼ
)
れた
蕎麥
(
そば
)
の
種子
(
み
)
を
蹂
(
ふ
)
まぬ
樣
(
やう
)
に
注意
(
ちうい
)
しつゝ
勘次
(
かんじ
)
の
横手
(
よこて
)
へ
立
(
た
)
ち
止
(
どま
)
つた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
いな、彼女は初恋の人に対する心と肉体との操を守りながら、初恋を
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
られた恨を、多くの男性に報いていたと
云
(
い
)
ってもよかった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
あまり
爪尖
(
つまさき
)
に響いたので、はっと思って浮足で飛び
退
(
すさ
)
った。その時は、
雛
(
ひな
)
の
鶯
(
うぐいす
)
を
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
ったようにも思った、
傷々
(
いたいた
)
しいばかり
可憐
(
かれん
)
な声かな。
海の使者
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そして国民軍の出動によつて散々に
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
られた労働者の様子に心の底まで動かされたアレキサンダア・ベルクマンは彼れの生命を賭して
乞食の名誉
(新字旧仮名)
/
伊藤野枝
(著)
「ガリラヤ人よ、何ぞ天を仰いで立つや。」吾等は兎角青空ばかり眺めて、足もとに咲くつゆ草をつい知らぬ
間
(
ま
)
に
蹂
(
ふ
)
みにじる。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
▼ もっと見る
蹂
(
ふ
)
み
躪
(
にじ
)
られてしまった! あのお方に取って、魂を焼き焦すほどのわたしの想いは、何でもなかったのだ。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
日曜毎に東京から押し寄せて来る多くの人々の足に
蹂
(
ふ
)
み
躪
(
にじ
)
られて、雑草は殆んど根絶えになり、小砂利まで踏み出されている地面から、
和
(
なご
)
やかに伸びた杉の樹は
首を失った蜻蛉
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
それよりも、二人の幸福を、平気で
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
つてゐるんですもの……。二人の生活を楽しいものにするつていふ希望が、あの人のどこにも現れてゐないんですもの……。
驟雨(一幕)
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
置き忘れてきた私の影が、東京の雑踏に揉まれ、
蹂
(
ふ
)
みしだかれ、粉砕されて喘へいでゐた。限りないその傷に、無言の影がふくれ顔をした。私は其処へ戻らうと思つた。
ふるさとに寄する讃歌:――夢の総量は空気であつた――
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
「さなくば、仰せられても、さしつかえおざるまい。かほどまで、平家の
門葉
(
もんよう
)
ばらに、
蹂
(
ふ
)
みにじられ、無視されても、腹のたたぬやつは、うつけか、
畜類
(
ちくるい
)
でおざろうぞよ」
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかし人間の慈悲は悪を許すことによって正義を
蹂
(
ふ
)
みにじる過ちに落ち入りはしないか。たとえば慈母の偏愛におけるごとく、かえって悪を助長する結果になりはしないか。
日本精神史研究
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
祖母たちには、どんな「高尚な掟」でも、自分達の利益の前には平気で
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
っていいのだ。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
岸本は節子の心がここまで来たかと思い、何物にも
蹂
(
ふ
)
みにじられまいとする彼女の愛情の頼もしさを思い、同時にこれほど激した手紙を書かせる彼女の境涯の切なさを思った。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
君の半生の事業はあいつが
蹂
(
ふ
)
みにじつて
仕舞
(
しま
)
つた。此上君に惑乱と危険を与へるのもあの女だ。僕は君が此迷夢からさめない間は、之れまで以上の援助を与へることは出来ない。
計画
(新字旧仮名)
/
平出修
(著)
血も涙も冷笑し
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
って行きながらも、尚も、あとから追いかけて来る良心の苛責と人情の切なさに、寝ても醒めても悩まされ抜いて来たのだ……死人に心臓を掴まれたまま
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
狙
(
ね
)
らった上は決して
免
(
の
)
がさぬ。光代との関係は確かに見た。わが物顔のその
面
(
つら
)
を
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
るのは朝飯前だ。おれを知らんか。おれを知らんか。はははははさすがは学者の
迂濶
(
うかつ
)
だ。馬鹿な奴。
書記官
(新字新仮名)
/
川上眉山
(著)
然るに今や老年と疾病とはあらゆる希望と気魄とを
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
ろうとしている。此の時に当って、
曾
(
かつ
)
て夜々
紐育
(
ニューヨーク
)
に
巴里
(
パリ
)
にまた
里昂
(
リヨン
)
の劇場に聞き馴れた音楽を、偶然二十年の後、本国の都に聴く。
帝国劇場のオペラ
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
自分の職務というよりも、私があの紳士を制止したのは紳士の生命をあやぶんでのことではないか、私は弱き者の理由がかくして無下に
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
られて行くのを思うて思わず小さい拳を握った。
駅夫日記
(新字新仮名)
/
白柳秀湖
(著)
ジェーンは
義父
(
ぎふ
)
と
所天
(
おっと
)
の野心のために十八年の
春秋
(
しゅんじゅう
)
を罪なくして
惜気
(
おしげ
)
もなく刑場に売った。
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
られたる
薔薇
(
ばら
)
の
蕊
(
しべ
)
より消え難き
香
(
か
)
の遠く立ちて、今に至るまで史を
繙
(
ひもと
)
く者をゆかしがらせる。
倫敦塔
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
眼も眩みてか、人皆は
互
(
かたみ
)
に
蹂
(
ふ
)
みあふ。
牧羊神
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
お前が、勝平の告白に感激して、お前の手を与えて御覧! 彼は、その手を
戴
(
いただ
)
くような風をしながら、何時の間にかお前を
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
ってしまうのだ。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
雨
(
あめ
)
は
蹂
(
ふ
)
み
固
(
かた
)
めてある
百姓
(
ひやくしやう
)
の
庭
(
には
)
の
土
(
つち
)
にも
蔊菜
(
いぬがしら
)
や
石龍芮
(
たがらし
)
の
黄色
(
きいろ
)
い
小粒
(
こつぶ
)
な
花
(
はな
)
を
持
(
も
)
たせて、
棟
(
やのむね
)
にさへ
長
(
なが
)
い
短
(
みじか
)
い
草
(
くさ
)
を
生
(
しやう
)
ぜしめる。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
この大江戸には、父親を、打ち
仆
(
たお
)
し、蹴り仆し、
蹂
(
ふ
)
み
躪
(
にじ
)
り、狂い死にをさせて、おのれたちのみ
栄華
(
えいが
)
を誇る、あの五人の人達が、この世を我が物顔に、時めいて暮しております。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
君の半生の事業はあいつが
蹂
(
ふ
)
みにじつて仕舞つた。此上君に惑亂と危險を與へるのもあの女だ。僕は君が此迷夢からさめない間は、之れまで以上の援助を與へることは出來ない。
計画
(旧字旧仮名)
/
平出修
(著)
枕の上の顔よりも青じろい顔して、清十郎はその側に
寂然
(
じゃくねん
)
と坐っていた。自分が
蹂
(
ふ
)
み
躪
(
にじ
)
った花の痛々しい苦悶に対して、
自責
(
じせき
)
の
首
(
こうべ
)
を垂れたまま、さすがに彼の良心も苦悶しているらしい。
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
……
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
る……。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
美奈子は、
平素
(
いつも
)
に似ず、きっぱりと答えた。その拒絶には、彼女の、芽にして、
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
られた恋の千万無量の恨が、
籠
(
こも
)
っていたと云ってもよかった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
畑
(
はたけ
)
は
陸稻
(
をかぼ
)
を
刈
(
か
)
つた
儘
(
まゝ
)
の
處
(
ところ
)
が
幾
(
いく
)
らもあつた。
彼
(
かれ
)
は
陸稻
(
をかぼ
)
の
刈株
(
かりかぶ
)
を
叮嚀
(
ていねい
)
に
草鞋
(
わらぢ
)
の
先
(
さき
)
で
蹂
(
ふ
)
んで
見
(
み
)
た。
百姓
(
ひやくしやう
)
がちらほらと
動
(
うご
)
いて
麥
(
むぎ
)
を
蒔
(
ま
)
くべき
土
(
つち
)
が
清潔
(
せいけつ
)
に
耕
(
たがや
)
されつゝある。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
蹂
(
ふ
)
み
躪
(
にじ
)
ったものであることを知ってからは、私達の無念は二倍にも三倍にも深められぬ訳には行きませんでした。
ある抗議書
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
自分が、心
私
(
ひそ
)
かに
想
(
おもひ
)
を寄せてゐた青年から、邪魔物扱ひされてゐたことは、彼女の魂を
蹂
(
ふ
)
み
躙
(
にじ
)
つてしまふのに、十分だつた。もう一刻も、止まつてゐることは出来なかつた。
真珠夫人
(新字旧仮名)
/
菊池寛
(著)
亭主の顔を
蹂
(
ふ
)
みにじってあんな若い男と、一緒になるなんて、ひどい女だわねえ。
世評(一幕二場):A morality
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
蹂
漢検1級
部首:⾜
16画
“蹂”を含む語句
蹂躙
蹂躪
踏蹂
人権蹂躙
攪乱蹂躙
民権蹂躪
貞操蹂躙
蹂口
蹂躙下
蹂躙隊