いわ)” の例文
僕達は少し矢絣に拘泥こうでいし過ぎてるんじゃないかしら。犯罪者が態々わざわざ、そんな人目に立ち易い風俗をするいわれがないじゃありませんか
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
社会の最大の要求なる平安の為めに、進歩と創造の衝動を抑制すべきであるか。私の不満はいわれのない不満であらねばならぬだろうか。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
このチスターの川はちょっといわれのある川で、ここでこのヒマラヤ山住民の内で今もなお原人時代の有様をたもって居る種族がある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それ迄は引写しばかりで、ムウヴマンのいわれが解らなかったが、初めて自然の動きを見てのみこまなければならないということを悟った。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
最前から聞いて居れば手前は余程よっぽど付け上ってるな、此の町人はいわれなく切るのではない、余り無礼だにって向後きょうこういましめの為切捨きりすてるのだ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この獅子舞は(原註に、獅子頭と称すれども、麟竜の頭に似せて作りしものとあるのから推すと、いわゆる竜体獅子の一つであると思われる)
獅子舞雑考 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
いわれを聞けば大原も一口に飲みがたし「なるほど、それでは一口ずつめるかね。時に中川君、西洋料理屋へ行って最初に酒を ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それがどういうわけでお六櫛というのかいわれは聞きませんでしたが、とにかく本物の黄楊つげで作った特有な形をした櫛でした。
木曾御岳の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
静御前によって寝物語の里が生れたというより、誰かが呼びなした寝物語の里の名があって、静御前のいわれが附会されたと見るが至当でしょう。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こうしの冷肉を一皿とクワス一本をたいらげてから、広大無辺な我がロシア帝国の地方によっては、よく言い草にされている、いわゆる『ふいごのような大鼾おおいびき
見ても崩れていて生活の基準がなくなった中で、いわばそれを自分から押しやることで、どうやら自分を真直にもって来たというところもあるんだから
風知草 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それにって後世に福神といいて尊むはこのいわれなりと云々。しかしてそののち弘法大師かの大国の文字を改めて大黒と書きたまいけるとなりと記す。
曰く、御意見無用ごいけんむよう、いのち不知しらず。この命知らずが、知らずのお絃の異名をとったいわれなのだが——それはそれとして。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それはいわゆる人麿調ともいい得るが、それよりもむしろ、この歌は民謡的の歌だからと解釈することも出来るのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
また神魂たまは骸と分かりては、なお清くきよかるいわれありとみえて、火の汚穢けがれをいみじくみ、その祭祠まつりをなすにも、けがれのありては、そのまつりを受けざるなり
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
往々書物に書いてある様に、その葉を十二ヶ月に分割しその括れに当る月にはその年に大水があると占ってあるが、これは全くいわれの無い迷信である。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
女子の父母、我おしえなきことをいわずして舅夫の悪きことのみ思ふは誤なり。是皆女子の親の教なきゆゑなり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それは、犯罪前のあの微妙な変則的な心理の働き——いわ怯懦きょうだに近い、本能的な用意、がそうさせたのだ。
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
で、不本意ながら謹直家きんちょくかになって、そうして何ともえたいの知れぬ、いわれのない煩悶にとらわれていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「それには及ばぬ。この辺にまで武田勢の散っておるいわれはなし、思うに、きょうの合戦を気構えて、落人おちゅうどの道に網を張り、稼ぎを待つ野武士共の群に相違あるまい」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これには面白いいわれがあります。昔太閤さんが此処をお通りになった時、蝉が鳴き居りましたのを
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
クリスチャンとしての菅の信仰が何となく自然なのもいわれのあることだ、と捨吉は思った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
問題は、四年生の権威がどうの、名誉がどうのというような、そんなけちけちしたことにあるんじゃない。大垣校長のいわゆる大慈悲の精神に生き、全校の正義を護ろうと言うんだ。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
正しい意味からいえば、死人が嫉妬をいだくなどはいわれのないことです。私自身が見たことについてお話をすることもできますが、男が未亡人と結婚しても同じようなことになるのです。
そんないわれのない優越感で、彼は茶をすすり、煙草をふかしていた。と言っても、今直ぐ堂々と外に出て行く勇気はなかった。優越感といっても、それは若さが持つ虚勢きょせいに過ぎなかった。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
奉行「そのものどもが宗門神となったは、いかなるいわれがあるぞ。」
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いわば敵同士でしょうか——」三枝は観念したように小さく答えた。
旅客機事件 (新字新仮名) / 大庭武年(著)
その主とする処の意は難風に逢いあるいは食物薪水に乏しくして、貴国の海浜に漂着する船の所置しょちのみにして、もし信義を表し、あるいは他のいわれありて貴国の海浜を訪う船あらん時の所置は見えず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
よほどわからないいわれがあるのでございましょうね
枕山が「六月十六日作」にいわ
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
神の加護なきいわれがなかった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
そのいわれを尋ねると、昔南粂郡みなみくめごおり東山村ひがしやまむらという処に、東山作左衞門ひがしやまさくざえもんと申す郷士ごうしがありました。すこぶ豪家ごうかでありますが、奉公人は余り沢山使いません。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ときかれて、何の事かく意味が分らず、返事にまごついたのであった。いわれを聞けば浦島太郎に因んだ長寿そばというのが此家の名物であるとのこと。
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「なるほど、ではそのお嬢様の幽霊話はあとにして、清姫様の帯のいわ因縁いんねんから説き明かすことに致しましょう」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは背の高い、顔のげっそりした、いわゆるすいっからしという型の男で、茶いろの口髭を立てていた。
当時流行の青面書生せいめんしょせいが家老参事の地位を占めて得々たるがごとき奇談をも出現すべきはずなるに、中津藩に限りてこの変を見ざりしは、けだし、またいわれなきに非ず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
同時に、人間の本能の中から野獣と共通な部分を理智的に引き離して、純霊というような境地を捏造ねつぞうしようとするのは、明かに本能に対するいわれのない迫害である。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
木の葉一枚でもそれを見ないでやったものは、本当のいわれが分らないから彫ったものが弱い。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
寛文二年印本『江戸名所記』に根津ねず権現ごんげん社は大黒神を祭るなり、根津とは鼠のいわれにて、鼠は大黒神の使者なれば絵馬などにも多く鼠をきたりとあって、不寝ねず権現と書せり
小児がいわれなくして下痢を起したら必ず牛乳をあらためて御覧なさい。牛乳の色が幾分いくぶんか青みを帯びて質がうすくって生のまま舌であじわうと渋味を強く感じるのは青草を多く与えたのです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ツァーの野蛮な弾圧は、いわゆる「黒百人組」等によって、革命的分子を追及した。
命令服従の関係だけで、形をととのえるために人間を機械化しているこのごろのいわゆる錬成とは比較にならんよ。もっとも最近では、高校にもそろそろ錬成の風が吹きこんできたようだ。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「大方そんな見当だろうと思っていた。掘り出しものだと言って頻りにくれるが、考えて見ると、私は然う/\唯で貰ういわれがないから、少し気味きびが悪くなった。ところで昨夜のことさ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今日からあの時代を振り返ってみたら、それもいわれのあることであろう。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
特に感動の強い時、形式の制約ある時などにこの用法が行われたと解釈すべきである。なお、安伎良気伎アキラケキ明久アキラケク左夜気伎サヤケキ左夜気久サヤケクいわゆる乙類の仮名で、形容詞として活用しているのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
岸柳と号されているいわれも詳しく承知しているので、その長剣を自由になさるさまを見た時すぐ、もしやと胸にかんだので、当て推量にいってみたのがはからずもほんとをいいあててしまったわけ
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが、誰いうとなく煩悩夜盗の名を取ったいわれでもあるが。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その一節にいわ
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
修行者は乗願房からいわれを聞くと走り寄って乗願房の持っていた念珠を奪い取って火の中になげ込んでしまった。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
実際そんな高い所まで登ってハマを射たものか、それともハマを射るによさそうな場所だと云うだけのことか、土地の古老にでも聞き質したらいわれが解るかも知れない。
初旅の大菩薩連嶺 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)