トップ
>
袿
>
うちぎ
ふりがな文庫
“
袿
(
うちぎ
)” の例文
炎に似た夢は、袈裟の
睫毛
(
まつげ
)
をふさがせ、閉じたる
唇
(
くち
)
を、舌もてあけ、
袿
(
うちぎ
)
のみだれから白い
脛
(
はぎ
)
や、あらわな
乳
(
ち
)
のふくらみを見たりする。
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
すらりとした姿で、髪は
袿
(
うちぎ
)
の端に少し足らぬだけの長さと見え、
裾
(
すそ
)
のほうまで少しのたるみもなくつやつやと多く美しく下がっている。
源氏物語:48 椎が本
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
基経は姫の
棺
(
ひつぎ
)
に、
香匳
(
こうれん
)
、
双鶴
(
そうかく
)
の鏡、
塗扇
(
ぬりおうぎ
)
、
硯筥
(
すずりばこ
)
一式等をおさめ、さくら
襲
(
かさね
)
の
御衣
(
おんぞ
)
、薄色の
裳
(
も
)
に、
練色
(
ねりいろ
)
の
綾
(
あや
)
の
袿
(
うちぎ
)
を揃えて入れた。
姫たちばな
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
顔は扇をかざした陰にちらりと見えただけだつたが、紅梅や
萌黄
(
もえぎ
)
を重ねた上へ、紫の
袿
(
うちぎ
)
をひつかけてゐる、——その
容子
(
ようす
)
が何とも云へなかつた。
好色
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
雖然
(
けれども
)
、
局
(
つぼね
)
が
立停
(
たちどま
)
ると、刀とともに奥の方へ
突返
(
つっかえ
)
らうとしたから、
其処
(
そこ
)
で、
袿
(
うちぎ
)
の
袖
(
そで
)
を掛けて、
曲
(
くせ
)
ものの手を取つた。それが刀を持たぬ方の手なのである。
妖魔の辻占
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
母親は
袿
(
うちぎ
)
を脱いで佐渡が前へ出した。「これは粗末な物でございますが、お世話になったお礼に差し上げます。わたくしはもうこれでお暇を申します」
山椒大夫
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
つい半月ほど前、古びた調度にかこまれ、蘇芳色の小
袿
(
うちぎ
)
を着て、几帳の陰に坐っていた。
奥の海
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
うすい着物の上に片っ方だけ
袿
(
うちぎ
)
をひきかけて走ってきた童は、人々のかおを見ると急にポロポロと涙をこぼして幼いもののだれでもがするようにしゃくり上げてどもってばっかり居る。
錦木
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
袿
(
うちぎ
)
かづけば、華やぎし
晶子詩篇全集拾遺
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
袿
(
うちぎ
)
かづけば、華やぎし
恋衣
(新字旧仮名)
/
山川登美子
、
増田雅子
、
与謝野晶子
(著)
夏なので、
白絹
(
すずし
)
にちかい
淡色
(
うすいろ
)
の
袿
(
うちぎ
)
に、
羅衣
(
うすもの
)
の襲ね色を袖や襟にのぞかせ、長やかな黒髪は、その人の身丈ほどもあるかとさえ思われた。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
この贈り物があったために、女房の身なりをととのえさせることができ、
袿
(
うちぎ
)
を織らせたり、
綾
(
あや
)
を買い入れる費用も皆与えることができた。
源氏物語:51 宿り木
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
同じ古い
袿
(
うちぎ
)
に
釈迦仏
(
しゃかぶつ
)
を懐中に秘めた彼女は言葉すくなに夫とならんで、かぞえ切れない鱗波の川一面にある
文様
(
もんよう
)
を見入った。
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
薄色の
袿
(
うちぎ
)
を肩にかけて、まるで
猿
(
ましら
)
のように身をかがめながら、例の十文字の
護符
(
ごふ
)
を額にあてて、じっと私どもの振舞を窺っているのでございます。
邪宗門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
御前
(
おんまえ
)
を
間
(
あわい
)
三
間
(
げん
)
ばかりを
隔
(
へだ
)
つて其の
御先払
(
おさきばらい
)
として、
袿
(
うちぎ
)
、
紅
(
くれない
)
の
袴
(
はかま
)
で、
裾
(
すそ
)
を長く
曳
(
ひ
)
いて、
静々
(
しずしず
)
と
唯
(
ただ
)
一人、
折
(
おり
)
から菊、
朱葉
(
もみじ
)
の
長廊下
(
ながろうか
)
を渡つて来たのは
藤
(
ふじ
)
の
局
(
つぼね
)
であつた。
妖魔の辻占
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
東の
渡殿
(
わたどの
)
の下をくぐって来る流れの筋を仕変えたりする
指図
(
さしず
)
に、源氏は
袿
(
うちぎ
)
を引き掛けたくつろぎ姿でいるのがまた尼君にはうれしいのであった。
源氏物語:18 松風
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
彼は、
沙金
(
しゃきん
)
の古い
袿
(
うちぎ
)
を敷いた上に、あおむけに横たわって、半ば目をつぶりながら、時々ものにおびえるように、しわがれた声で、うめいている。
偸盗
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
柳、桜、山吹、紅梅、
萌黄
(
もえぎ
)
などの
袿
(
うちぎ
)
、
唐衣
(
からぎぬ
)
などから、鏡台のあたりには、
釵子
(
さし
)
、紅、白粉など、
撩乱
(
りょうらん
)
の様であった。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
練色
(
ねりいろ
)
の
綾
(
あや
)
の
袿
(
うちぎ
)
を取り出しては
撫
(
な
)
でさすり
畳
(
たた
)
み返し、そしてまたのべて見たりして、そのさきの宮仕の短い日をしのぶも
生絹
(
すずし
)
の思いはかなんだ日の
仕草
(
しぐさ
)
であった。
荻吹く歌
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
が、その間も私の気になって仕方がなかったのは、あの沙門の肩にかかっている、美しい薄色の
袿
(
うちぎ
)
の事でございます。
邪宗門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
桃色の変色してしまったのを重ねた上に、何色かの
真黒
(
まっくろ
)
に見える
袿
(
うちぎ
)
、
黒貂
(
ふるき
)
の毛の香のする皮衣を着ていた。
源氏物語:06 末摘花
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
木枯にいたんだ筒井の顔は、
袿
(
うちぎ
)
の裏
絹
(
もみ
)
をひるがえすように美しいくれないであった。美しすぎるのに貞時の心づかいがあったのだが、筒井は笑ってやはり
止
(
や
)
めなかった。
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
泰子
(
やすこ
)
は、
五衣
(
いつつぎぬ
)
の
袿
(
うちぎ
)
に、いつもながら、
艶
(
あで
)
やかに化粧していた。家で朝夕に見ていたときより、加茂で会ったときより、見るたびに、若くなり、見よがしに、着飾っている。
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
あの薄色の
袿
(
うちぎ
)
にも、なるべく眼をやらないようにして、河原の砂の上に坐ったまま、わざと神妙にあの沙門の申す事を聴いて
居
(
お
)
るらしく装いました。
邪宗門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
袿
(
うちぎ
)
を着けた妻は、
几帳
(
きちょう
)
の陰で長い黒髪を解いて
匂
(
にお
)
わすであろうし、筒井にそういう高い生活をあたえれば
直
(
す
)
ぐにも美しくなる、彼のそんな考えは妻を可憐とも美しいとも
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
頭の形と、髪のかかりぐあいだけは、平生美人だと思っている人にもあまり劣っていないようで、
裾
(
すそ
)
が
袿
(
うちぎ
)
の裾をいっぱいにした余りがまだ一尺くらいも外へはずれていた。
源氏物語:06 末摘花
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
片手に梅の枝をかざした儘片手に
紫匂
(
むらさきにほひ
)
の
袿
(
うちぎ
)
の袖を輕さうにはらりと開きますと、やさしくその猿を抱き上げて
地獄変
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
橘は
矢痍
(
やきず
)
のあとに清い
懐紙
(
かいし
)
をあてがい、その若い男のかおりがまだ生きて漂うている顔のうえに、
袿
(
うちぎ
)
の両の
袖
(
そで
)
をほついて、
綾
(
あや
)
のある方を上にして一人ずつに
片袖
(
かたそで
)
あてかぶせ
姫たちばな
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
この人は形式的にするだけのことはせずにいられぬ性格であったから纏頭も出したが、山吹色の
袿
(
うちぎ
)
の
袖口
(
そでぐち
)
のあたりがもう黒ずんだ色に変色したのを、重ねもなく一枚きりなのである。
源氏物語:22 玉鬘
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
すると又、それにつけても、娘の方は父親の身が案じられるせゐでゞもございますか、曹司へ下つてゐる時などは、よく
袿
(
うちぎ
)
の袖を噛んで、しく/\泣いて居りました。
地獄変
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
こうなるまでに何故にもっと早く二人に逢って話をしなかったろうと、橘は、自分の
袿
(
うちぎ
)
の下にある若者の顔をこころに描いた、若者の顔はこの瞬間では一そう美しくさえ
映
(
うつ
)
った。
姫たちばな
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
少し寝入ったかと思うと故人の衛門督がいつか病室で見た時の
袿
(
うちぎ
)
姿でそばにいて、あの横笛を手に取っていた。夢の中でも故人が笛に心を
惹
(
ひ
)
かれて出て来たに違いないと思っていると
源氏物語:37 横笛
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
そこへしどけなく亂れた袴や
袿
(
うちぎ
)
が、何時もの幼さとは打つて變つた
艷
(
なまめか
)
しささへも添へてをります。これが實際あの弱々しい、何事にも控へ目勝な良秀の娘でございませうか。
地獄変
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
梅の折り枝の上に
蝶
(
ちょう
)
と鳥の飛びちがっている
支那
(
しな
)
風な気のする白い
袿
(
うちぎ
)
に、濃い紅の明るい服を添えて
明石
(
あかし
)
夫人のが選ばれたのを見て、紫夫人は侮辱されたのに似たような気が少しした。
源氏物語:22 玉鬘
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
実際、彼女は毎夜ごとに衣裳をとりかえ、帯をかえ、
袿
(
うちぎ
)
をかえたのだった。そうでもしなければ到底着つくせないほどの、
撩乱
(
りょうらん
)
たる
御衣
(
おんぞ
)
は、もう着る機会さえもないような気がしていた。
玉章
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
そこへしどけなく乱れた袴や
袿
(
うちぎ
)
が、何時もの幼さとは打つて変つた
艶
(
なまめか
)
しささへも添へてをります。これが実際あの弱々しい、何事にも控へ目勝な良秀の娘でございませうか。
地獄変
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
思いながらもそれは実行できずに、
慄
(
ふる
)
えながら帳台のほうを見ると、ほのかに
灯
(
ひ
)
の光を浴びながら、
袿
(
うちぎ
)
姿で、さも来
馴
(
な
)
れた所だというようにして、
帳
(
とばり
)
の
垂
(
た
)
れ布を引き上げて薫ははいって行った。
源氏物語:49 総角
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
片手に
紫匂
(
むらさきにほひ
)
の
袿
(
うちぎ
)
の袖を軽さうにはらりと開きますと、やさしくその猿を抱き上げて、若殿様の御前に小腰をかゞめながら「恐れながら畜生でございます。どうか御勘弁遊ばしまし。」
地獄変
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
よい模様であると思った
袿
(
うちぎ
)
にだけは見覚えのある気がした。
源氏物語:06 末摘花
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
棚の
厨子
(
づし
)
はとうの昔、米や青菜に変つてゐた。今では姫君の
袿
(
うちぎ
)
や
袴
(
はかま
)
も身についてゐる外は残らなかつた。乳母は
焚
(
た
)
き物に事を欠けば、立ち腐れになつた
寝殿
(
しんでん
)
へ、板を
剥
(
は
)
ぎに出かける位だつた。
六の宮の姫君
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
紅紫の
袿
(
うちぎ
)
に
撫子
(
なでしこ
)
色らしい細長を着、
淡緑
(
うすみどり
)
の小袿を着ていた。
源氏物語:51 宿り木
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
“袿”の解説
袿(うちき、うちぎ)は、公家装束を構成する着物の一つである。主に女性の衣だが、男性が中着として着用する場合もある。
一枚の上着を指す場合と、何枚も重ねて着用した場合を指すとがある。
一枚の上着の場合は「小袿(こうちぎ)」・「表着(うわぎ)」・「打衣(うちぎぬ)」。2に記述。
何枚も重ねて着用した場合は「重ね袿(袿姿)」。3に記述。
禄(下賜品)として「大袿」がある。裄・丈などが大きいもので、着用する時には仕立て直す。
(出典:Wikipedia)
袿
漢検1級
部首:⾐
11画
“袿”を含む語句
小袿
袿姿
袿衣
小袿衣
大袿
笹袿
袿袴
袿襠