かぶら)” の例文
蕪村とは天王寺かぶらの村ということならん、和臭を帯びたる号なれども、字面じづらはさすがに雅致ありて漢語として見られぬにはあらず。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
露国では、九月一日にかぶら等諸菜で小さいひつぎを製し、蠅などの悪虫を入れ悲歎のていして埋めると。紀州などで稲の害虫ウンカを実盛さねもりと呼ぶ。
何の苦心もなく一抹いちまつしたかのような墨画すみえかぶらであったが、見入っていると、土のにおいが鼻をつくばかり迫って来る。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かぶらもうまい。京菜もうまい。葱もうまい。机の傍に円火鉢引寄せ書を読みながら柚味噌ゆずみそ煮る楽しみも十二月である。
写況雑記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かぶらすしとて、ぶり甘鹽あまじほを、かぶはさみ、かうぢけてしならしたる、いろどりに、小鰕こえびあからしたるもの。ればかりは、紅葉先生こうえふせんせい一方ひとかたならずめたまひき。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
明治四十一年五月二十八日 かぶらむし会。第四回。寒菊堂。会者、耕村、水巴、知白、東洋城、松浜、蝶衣ちょうい
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
「桃龍はんの泣き面」「ゲンコツぁんとかぶらはん」——「ゲンコツぁんとかぶらはん」は彼等が並んで歩いている後姿を描いたのだが、滑稽な中によく特徴を捕えてあった。
高台寺 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
四半の布に墨絵でかぶらをかいたものが、その蕪の下にあたらしく一連の数珠を描き加えてある、蕪だけでもかなり変った差物だったのに、数珠が加わったのでひどく眼についた
青竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
釣瓶つるべをツブレ、かぶらをカルバ、汐平しおひをヒオシという地方のあるのもまた同じことで、古くは佐伯さえきを「さけび」の訛だと解し、近くはモスリンをメリンスの転音なども、また同一のものである。
お前はかぶらの葉のような耳の陰に、黒すぐりの小さな眼を隠している。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
瑞典スウェーデンかぶら大蕪おおかぶら、銀のいわしがちらかれば、さしずめわたしの雲母きらら集。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
春の夜やかぶらにとぼす小挑灯こぢょうちん 牧童
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
蕪村とは天王寺かぶらの村といふ事ならん、和臭を帯びたる号なれども、字面じづらはさすがに雅致ありて漢語として見られぬにはあらず。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ここに、りもの、栗、蜜柑みかん、柿、柘榴ざくろなどと、かぶら、人参、花を添えたつるの藤豆、小さな西瓜すいか、紫の茄子なすび
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四半のぬのに墨絵でかぶらの絵を描いためずらしい差物に目をひかれ、思わず馬を
青竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
地面ぢべた踏めばかぶらみどりの葉をみだすいつくしきかもわが足の上
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
表紙に芭蕪ばしょうの葉を画けるにその画つたなくしてどうやらかぶらの葉に似たるやう思はる。蕪村ぶそん流行のこの頃なれば芭蕉翁も蕪村化したるにやといと可笑おかし。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
すし香気かおりぷんとして、あるが中に、硝子戸越ガラスどごしくれないは、住吉の浦の鯛、淡路島のえびであろう。市場の人の紺足袋に、はらはらと散った青い菜は、皆天王寺のかぶらと見た。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
投げ棄てをかぶら花咲くここの田の見のあたたかやまろき根蕪ねかぶら
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
山家やまが村里むらざと薄紅うすくれなゐ蕎麥そばきりあはしげれるなかに、うづらけば山鳩やまばとこだまする。掛稻かけいねあたゝかう、かぶらはや初霜はつしもけて、細流せゝらぎまた杜若かきつばたひるつきわたかりは、また戀衣こひぎぬ縫目ぬひめにこそ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大阪の天王寺かぶら、函館の赤蕪あかかぶら、秋田のはたはた魚、土佐のザボン及びかん類、越後えちごさけ粕漬かすづけ足柄あしがら唐黍とうきび餅、五十鈴いすず川の沙魚はぜ、山形ののし梅、青森の林檎羊羹りんごようかん越中えっちゅう干柿ほしがき、伊予の柚柑ゆずかん備前びぜんの沙魚
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
投げ棄てをかぶら花咲くここの田の見のあたたかやまろき根蕪ねかぶら
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
霜かぶるかぶらがそばに目つむるは深むらさきの首長くびながの鴨
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ぎんいろのかぶらの中に坐りたる面黒おもぐろのみおほきな娘
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
三宝の大きかぶらにとりそへて人蔘はよしあか垂鬚たりひげ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)