股立ももだち)” の例文
小倉の袴の股立ももだちを取って、朴歯ほおばの下駄をはいて、本郷までゆく途中、どうしてもかの三崎町の原を通り抜けなければならない事になる。
三崎町の原 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
出三郎はどきりとしながら、切迫した半兵衛の動作に誘われるように、これも手早く襷をかけ鉢巻をし、はかま股立ももだちをきっちりと絞った。
艶書 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と叫びながら、将軍家と万太郎のうしろから、はかま股立ももだちを引ッからげて、櫓の階段を駆けのぼッて行ったのは、相良金吾でありました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄関に平伏した田崎は、父の車が砂利をきしって表門を出るや否や、小倉袴こくらばかま股立ももだち高く取って、天秤棒てんびんぼうを手に庭へと出た。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
と七代が頬をパッとそめて起き上りながら、障子を引き明けた。そこにはびんも前髪もバラバラに乱した与一昌純が、袴の股立ももだちを取って突立っていた。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
葉へも、白く降積ったような芭蕉の中から、頬被ほおかぶりをした、おかしな首をぬっと出して、ずかずかと入った男があるんです。はかま股立ももだちを取っている。
たすき鉢巻はちまき股立ももだち取って、満身に力瘤ちからこぶを入れつつ起上たちあがって、右からも左からも打込むすきがない身構えをしてから、えいやッと気合きあいを掛けて打込む命掛けの勝負であった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
袴の股立ももだち高く取つたる、年老い痩せ屈みたる侍、大刀の柄に手をかけつつ上手より登場。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
麻𧘕𧘔あさがみしもをお民に出させて着た。そして父の駅長時代と同じような御番頭の駕籠に近く挨拶あいさつに行った。彼は父と同じように軽くはかま股立ももだちを取り、駕籠のわきにひざまずいて、声をかけた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
股立ももだちとって、バラバラと七八名が取り巻こうとしたのを、只ひと睨み!
そして、袴の股立ももだちをとり、襷をかけて、刀へ手をかけて、立上った。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
黒っぽい着物に、はかま股立ももだちをとり、たすきをかけていた。汗止をする暇はなかったらしい、覆面もしていないし、足は足袋はだしであった。
泥まみれな脚絆きゃはん草鞋わらじばき、股立ももだちくくったはかまは破れていて、点々と血らしいものがついている。年ばえはまだようやく二十三、四ぐらい。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久米君は見兼みかねて鉄条綱の向から重い書物の包と蝙蝠傘とを受取ってくれたので、私は日和下駄の鼻緒はなお踏〆ふみしめ、つむぎ一重羽織ひとえばおりの裾を高く巻上げ、きっと夏袴の股立ももだちを取ると
「ええ華族様は気の長いもんだ。」「素直に待ってちゃあらちが明かねえ。」「蹈込ふんごめ。」と土足のまま無体に推込おしこむ、座敷の入口、家令と家扶はたすき綾取あやどり、はかま股立ももだち掻取かいとりて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
叱呼しっこしながら入って来た三樹八郎。——たすき、汗止め、はかま股立ももだちをしっかりと取って、愛剣包光かねみつ二尺八寸を右手に傲然ごうぜんと突立った。
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ほかの者も、総て抜刀ぬきみを引っげているのだ。どの顔も皆、まなじりをつりあげ、革襷かわだすきをかけ、股立ももだちくくって、尋常な血相ではなかった。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火事の最中、雑所先生、はかま股立ももだちを、高く取ったは効々かいがいしいが、羽織も着ず……布子の片袖引断ひっちぎれたなりで、足袋跣足たびはだしで、据眼すえまなこおもてあいのごとく、火と烟の走る大道を、蹌踉ひょろひょろ歩行あるいていた。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よく使い込んである九尺の槍を杖にしてである、背に鎧櫃よろいびつを負い、はかま股立ももだちを高くからげて草鞋穿わらじばきの浪人者が昨日もここの長屋門を訪れた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
市蔵はふと振返った、眉があがった、坂道を登って来る忙しげな足音が聞えたのである。市蔵は刀のさげ緒をとってたすきをかけ、はかま股立ももだちを絞った。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「心得た、(しゃんとはかま股立ももだちとりて。大小すらりと落しにさして。)……」
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
悠二郎は慣れたようすで袴の股立ももだちをとり、はだしになって流れの中へはいると、たちまち小鮒を一尾すくいあげて来た。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
股立ももだち取って、ひとりは手槍を抱え、ひとりは手をあげて、何か此方こなたへ大声で呼びかけて来る。——官兵衛はじっとしたまま眸を離たず待っていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
股立ももだちを取ったおもむきは、にうつ石目一鏨ひとたがねも、残りなく出来上って、あとへ、銘を入れるばかり、二年の大仕事の仕上りで、職人も一同、羽織、袴で並んだ処、その鶏の目に、瞳を一点打つとなって
ひらりっと、愛縄堂の中へ駈けこんだ老先生は、若者のごとく、はかま股立ももだちをからげ、むちくわえて、そこから走りだした。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その男は足袋はだしで、はかま股立ももだちをしぼっていた。まだ二十一、二だろう、精悍せいかんそうな顔だちで、殺気立った眼つきをしているのを、甲斐は認めた。
しゃんと袴の股立ももだちとりて……大小すっきり落しにさして……
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「新庄のお侍さんらしいかたたちよ、たすきがけで汗止をして、はかま股立ももだちを取っていました、誰かを追いかけて……」
峠の手毬唄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
敢然と、こう応じて、木村助九郎は、穿いていた草履を足で飛ばし、そして、股立ももだちをからげた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊兵衛はべつに気にもとめず、隅へいって袴の股立ももだちをしぼり、大六の持って来た木刀の中からよく選みもせずに一本取った。鉢巻もたすきもしないのである。
雨あがる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
少年も老人も、白鉢巻をして、高く股立ももだちをかかげていた。壬生みぶの源左衛門父子おやこである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんというものかお神楽に使う衣装のような、きらきら光る派手な着物にたすきをかけ、同じように派手なはかま股立ももだちをしぼり、足には武者草鞋わらじをはいていた。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
足拵あしごしらえは、草鞋わらじ股立ももだち、大刀にそりを打たせて、中の二、三名は、槍を横に抱えている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足拵あしごしらえをし、たすき、鉢巻に、はかま股立ももだちを取って、どんなにでも活躍ができる。が、万三郎はそうする暇がなかった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、はかま股立ももだちを取って立ち上がった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下緒さげおを取って襷に掛け、汗止めをし、はかま股立ももだちをしぼりました。これらはできるだけ入念に、時間をかけてやり、それから灌木の茂みのうしろへ隠れました。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
又平の刀は彼の太腿ふとももを斬ったらしい、股立ももだちを取っていたのが半ばから切られて垂れ、血の色は(もう暗いので)わからないが、そこがみるみる濡れていった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……彼はたすきはち巻をし、はかま股立ももだちを取り、左手で大剣に反をうたせながら、巨漢の前へ大きく踏み寄った。
山だち問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
白布を出して汗止めをし、はかま股立ももだちをとりながら、初めて彼はそこにいる青年たちを眺めまわした。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
菅田平野は煙にせながら、刀の下緒を外してたすきにし、袴の股立ももだちをしぼった。戸納の中では天床板のぱちぱちと焼けはぜる音がし、唐紙の隙間からは濃密な煙があふれ出て来た。
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
橋の西のたもとに、休之助と兵馬が立っていた。二人とも鉢巻をし、たすきをかけ、はかま股立ももだちをきゅっと絞っている。草鞋わらじの緒が気になるとみえて、兵馬はしきりに足を踏みしめていた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
団兵衛は腰の大小を脱って置くと、袴の股立ももだちを高くとり、たすきをかけてすっと進んだ。
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして彼はたすきをかけ汗止めをし、はかま股立ももだちをしぼった。要平はあっけにとられ、ぽかんと口をあいて見ていた。「支度をしろ」とまた広一郎が云った。なんのためだ、と要平が云った。
女は同じ物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこへ揚羽鶴の家紋を印した提灯ちょうちんをかざして十四五人の侍たちが殺到し、ぐるっと又三郎をとり囲んだ、みんな足袋はだしにはかま股立ももだちを取り、たすき、汗止という身拵みごしらえで、彼をとり囲むとすぐ
野分 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
見ると、人数は五人、みなたすきを掛け汗止めをし、はかま股立ももだちを絞っていた。
なにかに追われているような走りかたで、強ばった顔は隠しようのない驚きと、狼狽ろうばいの色をあらわしていた。——銕太郎は草履をぬいだ。彼はすでに汗止めをしたすきを掛け、はかま股立ももだちをしぼっていた。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
帆平ははかま股立ももだちも取らず、木剣を持って道場のまん中へ出た。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
下ははかま股立ももだちを取り、汗止めたすきがけの充分な身拵えである。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
東次郎ははかま股立ももだちをしぼった。
葦は見ていた (新字新仮名) / 山本周五郎(著)