)” の例文
路は暫し松林しようりんの間を穿うがちて、茅屋ばうおく村舍の上になびける細き烟のさながらの如くなるを微見ほのみつゝ、次第に翠嵐すゐらん深き處へとのぼり行きしが
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
ここまで読みかけると、万吉の胸が処女のようにおどった。彼にも足かけ十年臥薪甞胆がしんしょうたんの事件がある。それへ一曙光しょこうを見出したのだ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはお雪の性質の如何いかんに係らず、窓の外の人通りと、窓の内のお雪との間には、互に融和すべき一の糸のつながれていることである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
菓子種はふつくりと溲起しうきしてゐる。すくつて杓子を持ち上げると、長くを引く。それを焼鍋の上に落して、しゆうと云はせて焼くのである。
そういう躊躇のために、岩盤破壊の決心がつかず、プロピライト道のほうに一の望みをかけて、むなしく今まで掘りつづけていたのである。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ほそきことごと玉蜻かげろふふ。をんなかすかあを瓔珞やうらくかゞやかしてへば、やますゝき差覗さしのぞきつゝ、やがてつきあきらかにづ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まさか! と思いながら、もし天国であったなら、どんなに嬉しかろう! この一の希望を持って、左門は、尚も刀箱を見据えているのであった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は、むしろ、彼を永久に未決監において、せめても一の空想を楽しみながら世を去らせてやりたいと思う位だ。
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
いまだに事の成行きがどう変化するか分らないと云う一の望みを一寸先の未来に托しているのでもあった。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこで、執拗なようですが、私は、一の望みを又この公判につないだのでした。弁護人としての此の苦しい立場は、十分みなさんにわかって頂けることと信じます。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
けれども、みのるは矢つ張りその一の光りをいつまでも追つてゐたかつた。遂に自分の手に落ちないものとまつてゐても、生涯その一縷の光りを追ひ詰めてゐたかつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
けれどその野宿のじゆくも今夜はどんなに怖ろしいことだらう、この空腹や、力なさ、寒さの感じでは、そしてこのみじめな侘びしい氣持では——一の望みもなくなつたこの空しさでは。
われ起つて茅舎ばうしやを出で、且つ仰ぎ且つ俯して罵者に答ふるところあらんと欲す。胸中の苦悶未だ全く解けず、行く行く秋草の深き所に到れば、たちまち聴く虫声の如く耳朶じだ穿うがつを。
一夕観 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
哀悼あいとう愁傷、号泣慟哭、一の花に涙をそそぎ、一の香にこんを招く、これ必ずしも先人に奉ずるの道にあらざるべし。五尺の男子、空しく児女のていすとも、父の霊あによろこび給わんや。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は、一日ついたちの朝オフィスへ着て出た服のまま、昼夜ネクタイも取らずに吉報きっぽうを待って電話のかたわらに立ちつくした。しかしそれでもロス氏の頭の隅には、まだまだ一の望みが宿っていた。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
恍惚こうこつと云うのが、こんな場合に用いるべき形容詞かと思う。熟睡のうちには何人なんびとも我を認め得ぬ。明覚めいかくの際にはたれあって外界がいかいを忘るるものはなかろう。ただ両域の間にのごとき幻境がよこたわる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、それは、大騷ぎをするだけで、何んの役にも立たず、八五郎の心の中では、此處へ親分の錢形平次が來さへすれば——と言つた一の望みに燃えて、店先から往來ばかり眺めてゐるのでした。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
伊兵衛は一の希望にたどり着いて
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼はまだ一の望みを繋いでいた。
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その人々が出て来たら、更に詳しい実相がわかるであろうと、暗澹あんたんたる心のうちに、強いて一の頼りをもって、待ちわびているのだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
顎十郎と向きあっているのは、辣薤面らっきょうづらのひどく仔細らしい番頭で、魚釣りの縁起、釣りの流派、潮のみちひきから餌のよしあしと、々としてうむことがない。
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「そればかりが一の希望でござる」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どんな絶望の底にあろうと、最後の一瞬でも、一の望みをつないで、必死をしてみるべきでしょう。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つなぐ一の希望ですが……その谷村計介が変装して鎮台を脱出してからもはや一月の余にもなるが、ようとして消息はなし、総督軍とも依然、何らの聯絡もとれません
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殿の即日切腹という第一報にも、藩士たちは、まだまだ一の望みをつないでいるのであった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただここに一の希望は、信長のああした気性から観て、松千代でない者の首をさし出しておいても、およそ安土の命令は一時的にも納まるものと考えられることだった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、彼の生命に、一の光を認めたからである。と同時に、かりそめの試合が、この惜しむべき敵を、この世から消し去らずに済んだかと、心もかろく覚えたからであった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一の望みだにかのうなれば、吾々共一統、亡主の廟前びょうぜんに於て、人臣の義を果し、公儀を初め奉り、ひろくは天下万民に罪を謝して、泉下せんかに無用の骨を埋めて已むの所存。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此方こなた——敗色にみなぎっていた味方の本陣では、彼の働きに、一ののぞみをかけて
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手放しの泣き顔を、不意と、武蔵へ振向けると、最後の一すがりつくように
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、絶望はせず、なおその手がかりに一の断末的な意力を燃やして厳命した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それも今朝、ここへ来るまでは、一の望みをつないでいたのであったが——
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうした中で、ただ一、清子は草心尼の返事だけを心待ちに待っていた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうじゃ金吾……わしは何か一の曙光が見えて来たような気がするが」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俄然と眼をさまして一の望みを江戸の空へつないだ。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、今はただ、それのみが一の望みであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、一の望みは
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)