わらは)” の例文
春はまだ浅き菜畑、白きとり日向あさるを、水ぐるままはるかたへの、窻障子さみしくあけて、女のわらはひとり見やれり、の青き菜を。
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かれいひを結びたるをももて来ぬれば、わらはらおのがかしらよりもおほきやかなるを取りて、顔もかくれぬばかりにして食ふ。こもまたをかし。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
昨年さくねんあき鳥部寺とりべでら賓頭盧びんづるうしろやまに、物詣ものまうでにたらしい女房にようぼう一人ひとりわらはと一しよにころされてゐたのは、こいつの仕業しわざだとかまをしてりました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
春とは云へ、夜が更けると、袖袂が冷えて來る。それでは、袈裟! わらはを呼んで、臥床を取らせるがよい。
袈裟の良人 (旧字旧仮名) / 菊池寛(著)
をとこをんな法師はふしわらは容貌かほよきがきぞとは色好いろごのみのことなりけん杉原すぎはららうばるゝひとおもざしきよらかに擧止優雅けにくからずたがても美男びなんぞとゆればこそは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
人々ぢ隠るるを、法師あざみわらひて、老いたるもわらはも必ずそこにおはせ、此のをろち只今りて見せ奉らんとてすすみゆく。閨房の戸あくるを遅しと、かのをろちかしらをさし出して法師にむかふ。
我は最早カムパニアの野のわらはにはあらず。最早當時の如く人の詞といふ詞を信ずること、宗教に志篤き人の信條を奉ずると同じきこと能はず。我は最早「ジエスヰタ」派學校の生徒にはあらず。
かつは笑みかつは怒りみ世の中はわらはごとして経るにこそあれ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
たのしみは、わらはすみするかたはらに、ふではこびをおもひをるとき
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
いづこまで君は帰るとゆふべ野にわが袖ひきぬはねあるわらは
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ゆくりなき言葉かたちをいぶかしむ わらはが耳に
池のほとりに柿の木あり (新字旧仮名) / 三好達治(著)
『火はいづこぞ』とわらは、——
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
わらはき、——母は寢ざめぬ。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
白雪をなげつゝわらはゆきあひて
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
わらは一人共に乗りぬ。先づかどを出づるに、物の燃ゆる音のおそろしければ、あたりをばよくも見やらず。広小路に出でぬ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
嵯峨の狐は牛車ぎつしやに化ける。高陽川かやがはの狐はわらはに化ける。桃薗ももぞのの狐は大池に化け——狐の事なぞはどうでもい。ええと、何を考へてゐたのだつけ?
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わらはあかき石榴ざくろに置きてゐやまひ正し九九をこそよめ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
今日わらはどもが、東山で折つて參つたのでござります。
袈裟の良人 (旧字旧仮名) / 菊池寛(著)
山々に赤丹あかにぬるなるあけぼのわらはが撫でしと染まりける
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ゆくりなき言葉かたちをいぶかしむわらはが耳に
故郷の花 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
長い廊を数人のわらはが続いて来る。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
わらはき、かつくぐもりて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
つくづく見入るわらは
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
一瞬間、——その一瞬間が過ぎてしまへば、彼等は必ず愛欲の嵐に、雨の音も、空焚きの匂も、本院の大臣おとども、わらはも忘却してしまつたに相違ない。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さてをさなきもの危し、ぞ抱き取りてよと云ふに、又一人出来てわらはいだき取りぬ。さきなるが我手を取りて云ふ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
わらはがふふむわらひはこの鞠のかがりの手垢かなしがりつつ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
遶佛ねうぶちや、わらはすがりの
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
わらは、——
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
すると十五六のわらはが、すぐに其処へ姿を見せた。ませた顔に白粉おしろいをつけた、さすがにむさうな女の童である。平中は顔を近づけながら、小声に侍従へ取次を頼んだ。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わらは肩に頬をあてうつら振る垂髪たりがみ黒し肩にしばしば
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わらはげに
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
束帶のいかめしい殿上人てんじやうびと、五つぎぬのなまめかしい青女房、珠數をかけた念佛僧、高足駄を穿いた侍學生、細長ほそながを着たわらはみてぐらをかざした陰陽師おんみやうじ——一々數へ立てゝ居りましたら
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
春の陽に輝きまふわらは瞼のそとに置きて思へや
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わらはげに
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
束帯のいかめしい殿上人てんじやうびと、五つぎぬのなまめかしい青女房、珠数をかけた念仏僧、高足駄を穿いた侍学生さむらひがくしやう細長ほそながを着たわらはみてぐらをかざした陰陽師おんみやうじ——一々数へ立てゝ居りましたら
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
端渓たんけいの硯に向ふわらは髪黒う垂れて面照おもてりにけり
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
行燈あんどうのかげには清きわらは物縫ものぬふけはひ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)