瞰下みお)” の例文
ベタニヤへの帰途オリブ山に坐したイエスは、夕暗ゆうやみにつつまれゆく宮を瞰下みおろしながら、無量の感慨にふけってい給いました。
大日岳の連嶺にはいつもながら雪が多い。劒と大日との間から別山べっさんが、不思議の世界でも覗くように脊伸せのびして、魚津の海を瞰下みおろしている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
つたをその身にからめたるまま枯木は冷然として答えもなさず、堤防の上につと立ちて、角燈片手に振りかざし、水をきっと瞰下みおろしたる、ときに寒冷うべからず
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
文三はホッと吐息をついて、顧みて我家わがいえの中庭を瞰下みおろせば、所狭ところせきまで植駢うえならべた艸花くさばな立樹たちきなぞが、わびし気にく虫の音を包んで、黯黒くらやみうちからヌッと半身を捉出ぬきだして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
高い所から瞰下みおろすと新らしい稲の刈株が目について目障りであったとはいえ、珍しいくわだてだけに評判は高かった。
山と村 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
こうひしひしと寄着よッつかれちゃ、弱いものには我慢が出来ない。ふちに臨んで、がけの上に瞰下みおろして踏留ふみとどまる胆玉きもだまのないものは、いっその思い、真逆まっさかさまに飛込みます。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこにてほっ呼吸いきして、さるにても何にかあらんとわずかにこうべもたぐれば、今見し処に偉大なる男のつら赤きが、仁王立ちにたちはだかりて、此方こなた瞰下みおろし、はたとにらむ。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
犬切峠の頂上から瞰下みおろして、穏かな懐かしい村だと思ったのが、近づいて更に懐しさを加えた。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
並木のように立ち並んでいる浅緑のいろあざやかな落葉松の木立を、東沢の深い谷間に瞰下みおろして、まだ探らなければならない境地の秘められているのを知って喜んだのであった。
思い出す儘に (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
その笠は鴨居かもいの上になって、空から畳を瞰下みおろすような、おもうに漏る雨の余りわびしさに、笠欲ししと念じた、壁の心があらわれたものであろう——抜群にこの魍魎もうりょう偉大おおきいから
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
甲武信岳の頂上へ来るたびに、いつも果されざるうらみもつて、すぐ脚の下に瞰下みおろしたまま空しく過ぎ去るに止まっていた其沢を、うして無事に遡ることが出来たと思うと
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
で、がさりとえだんだおとがした。うやらものゝ、くちばしながなはて瞰下みおろす気勢けはひがした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
顔にこけむしたるひげを撫でつつ、立ちはだかりたる身の丈豊かに神崎を瞰下みおろしたり。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
左手の崖に登って瞰下みおろすと、青い淵の中には岩魚が幾十となく群をなして、チラリチラリと白い腹をかえしている。小なるは五、六寸、大なるは尺余もある。惜しいものだと思った。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
顔にこけむしたるひげでつつ、立ちはだかりたるたけ豊かに神崎を瞰下みおろしたり。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
岩頭に立って甲州側を瞰下みおろすと、足早に駆け下りて行く霧の絶間から大きな岩が幾つかあらわれたり消えたりして、米栂こめつがなどの灌木状の針葉樹が岩の肌にべっとりと緑をなすり付けているのが
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
きその谷間たにあいの村あたりで、騒いでいるように、トントンと山腹へ響いたと申すのでありますから、ちょっと裏山へ廻りさえすれば、足許に瞰下みおろされますような勘定かんじょうであったので。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瞰下みおろす左の谷は黒木の茂ったおくぶかい子酉川の上流で、脚の下は百尺の懸崖である。岩間には低い灌木が生えていて、日蔭かずら、苔桃こけもも小岩鏡こいわかがみなどが目に入る。此岩峰は地図に記載してない。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
二十歩とはまだへだたらないうちに、目の下の城下に火が起った——こういうと記録じみる——一眸いちぼうの下に瞰下みおろさるる、縦横に樹林でしきられた市街の一箇処が、あたかも魔の手のあって
南は荒川の谷を瞰下みおろして、真黒な針葉樹の梢が、其下に太古のままの静寂を閉じ込めているような気がする。西の斜面にも岩はあったが偃松は無かった。道は百米余も下を通っているらしい。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ああ、揃って大時計の前へ立佇たちどまった……いや三階でちょっとお辞儀をするわ。薄暗い処へ朦朧もうろうと胸高な扱帯しごきか何かで、さみしそうにあらわれたのが、しょんぼりと空から瞰下みおろしているらしい。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このし黒部別山の一角に立って、ふと劒沢の谿谷を瞰下みおろした人があったならば、すぐ脚元のほの白い河原をめた薄紫の煙の下に、赤い炎を揚げていきおいよく燃えている焚火の周りに集った五
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ちょうど、まだあかしを入れたばかりの暮方くれがたでね、……其の高楼たかどのから瞰下みおろされる港口みなとぐち町通まちどおりには、焼酎売しょうちゅううりだの、雑貨屋だの、油売あぶらうりだの、肉屋だのが、皆黒人くろんぼに荷車をかせて、……商人あきんどは、各自てんでん
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
右からくずれ落つる急な雪渓を横切って、山腹に造られた新らしい道の傍の新らしい小屋の前に荷を卸して休む、昨日白兀の頂上から瞰下みおろした道であろうが、大窓の雪渓から湧き上る濃い霧の幕は
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ちやうど、まだあかしれたばかりの暮方くれがたでね、……高樓たかどのから瞰下みおろされる港口みなとぐち町通まちどほりには、燒酎賣せうちううりだの、雜貨屋ざつくわやだの、油賣あぶらうりだの、肉屋にくやだのが、みな黒人くろんぼ荷車にぐるまかせて、……商人あきんどは、各自てん/″\
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しっかりと胸にしめつつ、瞰下みおろす目に凄味すごみが見えた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
振向ふりむいた老爺おやぢかほ瞰下みおろして
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)