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艸花
文三はホッと吐息を
吻て、顧みて
我家の中庭を
瞰下ろせば、
所狭きまで
植駢べた
艸花立樹なぞが、
詫し気に
啼く虫の音を包んで、
黯黒の
中からヌッと半身を
捉出して
中にまじりたる
少女らが黒
天鵝絨の
胸当晴れがましゅう、
小皿伏せたるようなる
縁せまき
笠に
艸花さしたるもおかしと、たずさえし目がね
忙わしくかなたこなたを見めぐらすほどに
西側の壁には
安井曽太郎の油絵の風景画が、東側の壁には
斎藤与里氏の油絵の
艸花が、さうして又北側の壁には
明月禅師の
無絃琴と云ふ
艸書の
横物が、いづれも
額になつて
挂かつてゐる。