艸花くさばな)” の例文
文三はホッと吐息をついて、顧みて我家わがいえの中庭を瞰下みおろせば、所狭ところせきまで植駢うえならべた艸花くさばな立樹たちきなぞが、わびし気にく虫の音を包んで、黯黒くらやみうちからヌッと半身を捉出ぬきだして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
中にまじりたる少女おとめらが黒天鵝絨びろうど胸当ミイデル晴れがましゅう、小皿こざら伏せたるようなるふちせまきかさ艸花くさばなさしたるもおかしと、たずさえし目がねいそがわしくかなたこなたを見めぐらすほどに
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
西側の壁には安井曽太郎やすゐそうたらうの油絵の風景画が、東側の壁には斎藤与里さいとうより氏の油絵の艸花くさばなが、さうして又北側の壁には明月禅師めいげつぜんじ無絃琴むげんきんと云ふ艸書さうしよ横物よこものが、いづれもがくになつてかつてゐる。
漱石山房の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
艸花くさばな立樹たちきの風にまれる音の颯々ざわざわとするにつれて、しばしは人の心も騒ぎ立つとも、須臾しゅゆにして風が吹罷ふきやめば、また四辺あたり蕭然ひっそとなって、軒の下艸したぐさすだく虫ののみ独り高く聞える。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
西側の壁には安井曾太郎やすゐそうたらう氏の油絵の風景画が、東側の壁には斎藤与里さいとうより氏の油絵の艸花くさばなが、さうして又北側の壁には明月禅師めいげつぜんじ無絃琴むげんきんと云ふ艸書さうしよ横物よこものが、いづれも額になつてかつてゐる。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ゲエテはかう云ふ心もちをフアウスト自身に語らせてゐる。フアウストの第二部の第一幕は実にこの吐息の作つたものと言つてもい。が、フアウストは幸ひにも艸花くさばなの咲いた山の上にたたずんでゐた。
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)