)” の例文
疲れた人のような五月の空は、時々に薄く眼をあいて夏らしい光をかすかにもらすかと思うと、またすぐにむそうにどんよりと暗くなる。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
不足の眼を赤く濁らせ、前をはだけて子供に乳を飲ませながらしょげ込んでいた安吉の妻へ、そう云って笑いながら声をかけた。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
たかが屋根代の六銭にしても、まさか穿懸はきかけの日和下駄が用立とうとは思いも懸けなかったが、私はそれでホッと安心してじきついた。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
悪魔は、手をふりながら、むさうな声で、かう怒鳴つた。寝入りばなの邪魔をされたのが、よくよくしやくにさはつたらしい。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
戴いてあんまり心持こころもちになってツイうとうととてしまったと見えます。僕は御酒を飲むと何処どこでも構わず寝るのが癖で大きに失礼致しました
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
快よい髪弄かみいじりで不足の疲れが出て、うとうとと折柄ひざがしらを暖める日ざしに誘われながら、いねむりをつづけていた。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
どういう様子か見てもやりたし、心にかかれば参りました、と云えば鋭次も打ちうなずき、清は今がたすやすやついて起きそうにもない容態じゃが
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何事かと思ってむい眼をコスリコスリ応接間に出て来たのを見ると、草川巡査は如何にもき込んでいるらしく、挨拶も何もしないまま質問した。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
春の朝日と一緒に飛込んだガラッ八は、これもろくになかったらしい、平次の前にくたびれた髷節まげぶしを掻きました。
吉田はその話を聞いてから自分のむれないときには何か自分に睡むるのを欲しない気持がありはしないかと思って一夜それを検査してみるのだったが
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
むそうに言って、その顔は蒲団ふとんの中へ引き入れたらしい。もう少し熱心に聞けばよいのにと源氏は物足りない。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
私はチラリと彼の顔を見たが、彼は口をだらしなく開いて、眼はむそうに半開はんかいになっていた。彼は私の大それた計画に爪ほども気がついていないらしかった。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
アアかつて身の油に根気のしんを浸し、眠い眼をずして得た学力がくりきを、こんなはかない馬鹿気た事に使うのかと、思えば悲しく情なく、我になくホット太息といきいて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あんまりよくるので死んではいないかと思って、小さな声で「ポチや」というとポチはめんどうくさそうに目を開いた。そしてすこしだけしっぽをふって見せた。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
長い間、人なかに出たことのない彼にとっては、人間の臭いの生々しさが、まず神経を掻き乱すのであった。……ふと、昼間の光景がつけないやみの中に描かれた。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
男はみな山深くわけ入つて木を伐り炭を燒くに忙しく、女どもはまた蕎麥畑そばばたけの手入や大豆の刈入れをやらねばならなかつたので何れもその疲勞つかれから早く戸を閉ぢてて了つた。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
夜が来ると、蟹は慌てて客のことも何にも構わないで、奥のほうにひっ込んで込んでしまった。それで、市長は蟹の穴を抜け出で、川底を一人散歩した。川底の夜は実に神秘である。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
その夜はここに野営して水に遠いので一飯を抜くことにしてむった。
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
と、猫は驚いて一瞬間じっとすくんでいたが、やがて一つ欠伸あくびをして、背中を盛りあげ、またしゃがんで暫く眼をぱちくりさせてから、ぐったりと腰をまげると、そのまま乱次だらしなくこんでしまった。
老嬢と猫 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
手前から先へむらしてくれらあ。(忠太郎に斬ってかかる)
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「まだてるのか、柏の木、遊びに来たから起きてくれ。」
『瀬川君、最早たのかい。』と声を掛けて見る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ほんとにちやつたの。四十三年七月
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
いい心地こころもちになってこんでしまった
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
てのひらの中で覚めたりたり。
てをりますですかな」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
薄暗い二間には、襤褸布団ぼろぶとんくるまって十人近くも寝ているようだ。まだつかぬ者は、頭を挙げて新入しんいりの私をいぶかしそうに眺めた。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
春の朝日と一緒に飛込んだガラツ八は、これもろくになかつたらしい、平次の前にくびれた髷節を掻きました。
お浪暁天あかつきの鐘に眼覚めて猪之と一所に寐たる床よりそつと出るも、朝風の寒いに火の無い中から起すまじ、も少しさせて置かうとのやさしき親の心なるに
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
頭のシンはむくてたまらないのに、意識だけはシャンシャンと冴え返っているような気持で彼は、正面の薬戸棚の抽出ひきだしから小さなカプセルを一個取出した。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すると十五六のわらはが、すぐに其処へ姿を見せた。ませた顔に白粉おしろいをつけた、さすがにむさうな女の童である。平中は顔を近づけながら、小声に侍従へ取次を頼んだ。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こんな不安も吉田がその夜をむる当てさえあればなんの苦痛でもないので、苦しいのはただ自分が昼にも夜にも睡眠ということを勘定に入れることができないということだった。
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
なあに僕なぞにかまはないであんたはたらいい、さう、ぢや寢ませていただくわ、大抵のお客樣つたら夜ぴて睡らせないんですもの、睡るとみな怒るんですもの、ご免なさい、やすみますわ
汽車で逢つた女 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
然し働いた挙句、ぐつすり入つたお末の喉は焼け付く程乾いて居た。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
霧の濃くおりた朝、帰りをそそのかされて、むそうなふうで歎息たんそくをしながら源氏が出て行くのを、貴女の女房の中将が格子こうしを一間だけ上げて、女主人おんなあるじに見送らせるために几帳きちょうを横へ引いてしまった。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ほんとにちやつたの。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
……今朝は学課が初まる前に、調べ残しの教案を見ておかなければならないと思って、午後の時間のむいのを覚悟の前で、三十分ばかり早めに出て来たのだ。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
静かな空気を破ってなまめいた女の声が先ほどから岸で呼んでいた。ぼんやりしたあかりをむそうに提げている百トンあまりの汽船のともの方から、見えない声が不明瞭になにか答えている。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
睡くなつて来れば、痒いのもわからない。——かう云ふ調子で、虱さへ体に沢山ゐれば、つきもいいし、風もひかない。だからどうしても、虱飼ふべし、狩るべからずと云ふのである。……
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
今日はよいの内から二階へ上って寝てしまうし、小僧は小僧でこの二三日の不足に、店の火鉢の横で大鼾おおいびきを掻いている、時計の音と長火鉢の鉄瓶のたぎるのが耳立って、あたりはしんと真夜中のよう。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
も少しさせておこうとのやさしき親の心なるに、何もかも知らいでたわいなく寝ていし平生いつもとは違い、どうせしことやらたちまち飛び起き、襦袢じゅばん一つで夜具の上ね廻り跳ね廻り、厭じゃい厭じゃい
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
母はそれを聞きながら入つた風をして泣いて居た。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
ほんとにちやつたの。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
どこか遠くで一つか二つか鳴るボンボン時計の音を聞くと、むられずにいた玲子はソッと起上った。
継子 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
考える力もないくらいむたがっている。そうしてその意識がグングンと零の方向に近付きつつある。無限の時空の中に、無窮の抛物線を描いて……グングンと……。
ビルディング (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……いつもかも、むくて困る……アハハ……だから不眠症患者の気持がわからないのですよ。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
むいのを我慢しながらモウ青白く夜の明けている狭い梯子段を伝い降りて、母親の寝室のカーテンの中へ走り込んで行った。もしや……と胸をとどろかしながら……母親を気づかいながら……。
継子 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
むられぬままに着のみ着のままで、人通りの絶えた国道に出た。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
考える力もないくらいむたがっている。
ビルディング (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……すこしむくなりながら……。
老巡査 (新字新仮名) / 夢野久作(著)