真直まっす)” の例文
旧字:眞直
松林を出ると、先刻さっき上って来た一筋の坂が、見るかげもなくなった長谷はせの町へ真直まっすぐに続いている。三人は黙々として下って行った。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
男「前橋めえばしくなア此処を構わずずうッと真直まっすぐ往って、突当つきあたって左へ曲って又突当ると、向うに橋が見える、それを渡ればきだ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
若い旅人は茶店を出ると真直まっすぐに金沢の方へ帰ると見えましたが、実は藪をくぐり、木立を抜けて、そっと白山の方へ取って返します。
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
逃亡させたに相違ない。いったい貴様はあの女の何なのだ? ううん? いずれ近い身寄りとはにらんでおるが、真直まっすぐに申し立てろッ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今は右も見ず左も見ずに真直まっすぐにうまやへ歩いてゆき、思う存分力をこめて馬をなぐったり蹴ったりして、乱暴にたたきおこした。
宗像博士は、遠くからそのガラス箱を見つけると、真直まっすぐにその方へ近づいて行った。そして、三人はその寝棺ねがんのようなガラス箱の前に立った。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
両国から自動車を駆って、真直まっすぐに邸へ帰った龍介、いま玄関へとび上ろうとすると、中から血相かえてとび出してきた拳骨メリケン壮太とばったり衝突した。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこに川なんかのあるのにてんで気がつかずにいたものらしく、道が曲っているのを真直まっすぐに歩るいて来て、大手を振りながら落っこちてしまった。……
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
お光が中くらいなかばんを提げて、肩をいからすように、大跨おおまた歩行あるいて、電車の出発点まで真直まっすぐに送って来た。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
拉薩の市の城門から真直まっすぐに延びている大道路は常磐木ときわぎの並木に飾られて噠𡃤喇嘛ダライラマの宮殿へまで同じ道幅に続いているが、今も昔もその道筋みちには仏の慈悲を讃えるために
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たれも出迎える者がないので、真直まっすぐに歩いて、つき当って、右へ行こうか左へ行こうかと考えていると、やっとのことで、給仕らしい男のうろついているのに、出合った。
普請中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
椅子いすを下りるとき、身体からだ真直まっすぐになったので、視線の位置が天井からふと庭先に移ったら、そこにあった高さ五尺もあろうと云う大きな鉢栽はちうえの松が宗助の眼に這入はいった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
門前で車を降りた私達は、真直まっすぐにK造船所の構内へやって来た。事務所の角を曲ると、鉄工場の黒い建物を背景バックにして、二つの大きな、深い、乾船渠ドライ・ドックの堀が横たわっている。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そのおそろしい勢を見て、からだ道傍みちばたけようとしましたが、牡牛はかえって一郎次の方へ真直まっすぐに突き進んで来て、アット思うもなく、一郎次を二つの角で引っかけたかと思うと
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
折よく便所へでも立ったのであろうか、ガラス窓の彼方かなたに岡田の立ち姿を認めた時、太田は非常な勇気をふるって躊躇ちゅうちょすることなく真直まっすぐに進んで行った。そして窓の下に立った。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
そのまま技手は配電盤の前に突っ立って、がっしりした体を真直まっすぐに、見えぬ何物かを追っているようであった。もう四十年輩の技術には熟練しきった様な男である。——一分、二分。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それじゃわき道しないで真直まっすぐに帰えるんですよ。あの誰か送って上げましょうか。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
これ獣を捉えて真直まっすぐに巣に行かんためで、もし巣の側にあって餌を捉えたら真直ぐに遠い向側に進み、それから身を廻して道を横ぎり元の巣の側へかえる迂路を取らねばならぬからだ。
その対象物が真直まっすぐに写されているものもあるし、いびつに写されているものもあるし、やわらかい線で描かれているものもあるし、強い線で描かれているものもある、少し暗いものもあるし
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
真直まっすぐめて来い(モット折檻してやるから真直にして来いという意味)」
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
で、そこへ行くちゅうとな、真直まっすぐに、山の上に、石造りの二階建が見えるだ。それが地主様のお邸で、つまりそこに旦那が住んでござるだよ。そこが、お前さんのいわっしゃるマニロフカで。
真直まっすぐな棒を使うよりはずっと楽で、是だけでも大きな改良であった。発明は事後に回顧すれば何でもないようなものが多いが、その変り目に当って当事者の味わい得る愉悦は大きなものがある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
真直まっすぐ行けば基隆キールンまで行きますよ。基隆から船で内地へ行かれるのですか。それとも別に目あてのない気紛れの旅行ですか。それなら、どうです? 僕も旅行家ですが僕と一緒いっしょに二八水で降りては。
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
「いいえ、わたしも真直まっすぐに帰ります。」
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
縦通りを真直まっすぐに、中六なかろく突切つッきって、左へ——女子学院の塀に添って、あれから、帰宅のみちを、再び中六へ向って、順に引返ひっかえすと、また向うから、容子といい
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼のとがったひじはばったの足のように突きだし、鞭はその手に真直まっすぐに立て、笏をもつような恰好かっこうだった。
きらきらと暑い初夏の日がだらだら坂の上から真直まっすぐに流れた往来は下駄の歯がよくえて響く。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
巻煙草を人差指と中指とで支えて真直まっすぐに喫めばどうだとか、左に傾ければどうだとか、右へ傾ければどうだとか、上へ傾ければどうだとか、下へ傾ければどうだとかいうのだそうです。
雑草一束 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
このの、わしがいま来た、この縦筋を真直まっすぐに、ずいずいと行かっしゃると、松原について畑を横に曲る処があるでの。……それをどこまでも行かせると、沼があっての。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
門の外の、雑草にまじってすすきや野菊も延びている溝川のへりを真直まっすぐに海に出ると、月夜のあかるさは一層はっきりしたが、西の方の空には大きな雲が重なり合って、風も思いのほか強かった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
出家は、真直まっすぐに御廚子みずしの前、かさかさと袈裟けさをずらして、たもとからマッチを出すと、伸上のびあがって御蝋おろうを点じ、ひたいたなそこを合わせたが、引返ひきかえしてもう一枚、たたずんだ人の前の戸を開けた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はい、浪打際に子産石こうみいしと云うのがござんす。これこれでここの名所、と土地ところ自慢も、優しく教えて、石段から真直まっすぐに、畑中はたなかを切って出て見なさんせ、と指さしをしてくれました。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貸本屋だからと言って、股引ももひき尻端折しりはしょりで、読本よみほんの包みを背負って、とことこと道を真直まっすぐに歩行あるいて来て、曲尺形かねじゃくがた門戸もんかどを入って、「あ、本屋でござい。」とばかりは限るまい。あいつ妾か。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬鹿にするない、見附で外濠そとぼりへ乗替えようというのを、ぐっすり寐込ねこんでいて、真直まっすぐに運ばれてよ、閻魔えんまだ、と怒鳴られて驚いて飛出したんだ。お供もないもんだ。ここをどこだと思ってる。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)