よろい)” の例文
(翁と嫗とはうろうろして奥を窺ううちに、奥より蛇は髪をふり乱して走りいず。蟹は赤きよろいをつけ、かの長刀なぎなたを持ちて追い出ず。)
蟹満寺縁起 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのいでたちを見るに、緋房ひぶさのついた鉢兜はちかぶと鋳物綴いものつづりの鍍金ときんよろい、下には古物ながら蜀江しょっこうの袖をちらつかせ、半月形はんげつなりかわ靴をはいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『日本紀』五に彦国葺ひこくにぶく武埴安彦たけはにやすびこを射殺した時、賊軍怖れ走ってくそはかまより漏らしよろいを脱いで逃げたから、甲を脱いだ処を伽和羅かわらといい、屎一件の処を屎褌くそばかまという。
彼が藕糸歩雲ぐうしほうんくつ穿鎖子さし黄金のよろいを着け、東海竜王とうかいりゅうおうから奪った一万三千五百きん如意金箍棒にょいきんそうぼうふるって闘うところ、天上にも天下にもこれに敵する者がないのである。
仮にこの人物が、尖つた冑をいただき、革のよろいと楯とに身をかため、三叉の槍をついて、静々とニーベルンゲンの歌の頁に立現はれたとしても、まづ位負けの心配はないだらう。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
あの方が壮盛わかざかりに、棒術をこのんで、今にも事あれかしと謂った顔で、立派なよろいをつけて、のっしのっしと長い物をいて歩かれたお姿が、あれを見ていて、ちらつくようだなど
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
燕軍のいきおい非にして、王のよろいを解かざるもの数日なりといえども、将士の心は一にして兵気は善変せるに反し、南軍は再捷さいしょうすと雖も、兵気は悪変せり。天意とや云わん、時運とや云わん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それでお召物の中によろいをおつけになり、弓矢をおびになつて、馬に乘つておいでになつて、たちまちの間に馬上でお竝びになつて、矢を拔いてそのオシハの王を射殺して、またその身を切つて
筆結ふでゆい弦売つるうり轆轤師ろくろし・饅頭売・賽磨さいとぎよろい細工・草履作・足駄作・唐紙師・箔打・鏡とぎ・玉すり硯士すずりし・鞍細工・葛籠作つづらつくり箙細工えびらつくり・枕売・仏師・経師・塗師の助手・硫黄・箒売・一服一銭・煎じ物売など
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
妹が手にかはるよろいそでまくら寝られぬ耳に聞くや夜嵐よあらし
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
単に一軍人として己はよろいを著たが
蟹 いや、おれはこの通り頑丈なよろいで身をかためている。おまけにこういう鋭い武器をもっているから、蛇の方で却って怖がるくらいだ。
蟹満寺縁起 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
守将の張遼ちょうりょうは、きのうの城外戦で、大きな戦果をあげたにもかかわらず、まだ部下に恩賞もわかたず、自分もよろいの緒すら解いていなかった。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よろいを、ほこ
張飛の声を聞くと、城兵は争ってよろいほこを投げ捨て、その大半以上、降人になった。こうして張飛は、ついに巴城はじょうに入って、郡中を治めた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大勢の人びとは岸にあつまって眺めていると、金のよろいを着た神者が彷彿ほうふつとして遠い空中に立っているのを見た。
かがめて、曹操の眼の下に、あわれみを乞えば、これは呉の諸大将が閣下へすすめている通りになる。よろいを脱ぎ、城を捨て、国土を
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蛇は太い柱のごとく、両眼は灼々しゃくしゃくとかがやいている。からだのこうは魚鱗の如くにして硬く、腰から下に九つの尾が生えていて、それを曳いてゆく音は鉄のよろいのように響いた。
山上で人々はよろいを身に着直した。——そして全軍を三隊にわけ、一は中山なかやまの敵塁に朝討ちをかけ、一はとびへ馳せ向った。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名を聞いただけでも、諸将はきもを冷やした。士卒たちは皆、よろいや下着を火に乾していたところなので、周章狼狽、赤裸のままで散乱するもある。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白銀しろがねよろい、白の戦袍ひたたれを着た大将を先頭にし、約二千ばかりの敵が、どこを渡ってきたか、逆襲してきます。——いや、うしろのほうからです」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ここは陥ちたが、両所ともにまだよろいを解くな。直ちに、この先の散関さんかんへ馳けよ。もし時移さば、魏の兵馬充満して、第二の陳倉となるであろう」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、よろいの胸当を解いて示すと、阿斗は無心に寝入っていて、趙雲の手から父玄徳の両手へ渡されたのも知らずにいた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黄河は逆巻さかまき、大山は崩れ、ふたたび天地開闢かいびゃく前の晦冥かいめいがきたかと思われた。袁紹はよろいを着るいとまもなく、単衣帛髪たんいきんはつのまま馬に飛び乗って逃げた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その足もとをつけ込んでか、蜀の老兵は、呉の陣前で、わざとよろいを解いて昼寝したり、大あくびをしてみせたり、またさんざんに悪口を放ったりして
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが急場の支えに足りない火勢なので、蜀軍はみな矢を折り、よろいを投げこみ、旗竿まで焼いて、火勢の助けとした。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかもまた、黄金のよろい錦袍きんぽうとをその日の引出物として貰った。恐るべき毒にまわされて、呂布は有頂天に酔った。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
趙雲は、声をあげていた。草やかきの板を投げ入れて、井戸をおおい、やがてよろいの紐をといて、胸当の下に、しっかと、幼君阿斗のからだを抱きこんだ。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると月明の野面のづらを黒々と一ぴょうの軍馬が殺奔さっぽんしてくる。白き戦袍ひたたれ白銀しろがねよろいは、趙雲にも覚えのある大将である。彼はわれをわすれて、こなたから手を振った。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かぶとよろいも脱いで、悠々とおかのうえにもぐりこんでいた曹操の部下も、すこし気が気ではなくなってきた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身、封侯の位を得、蜀主の安泰を祈るなれば、はやはやよろいを解き、降旗をかかげよ。然るときは、両国とも、民安く、千軍血を見るなく、共に昭々の春日を楽しみ得ん。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、その陣前に馬をおどらせて、悠々、戦気を養っているひとりの大将をながめるに、獅子のかぶと白銀しろがねよろいを着、長鎗を横たえて、威風ことにあたりを払ってみえる。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
烏戈国うかこくの山野いたる所、山藤やまふじがはびこっているので、そのつるを枯らして後、油にひたし、また陽にさらしては油に漬け、何十遍かこれをくり返して、それでよろいを編むのです。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
燦々さんさんと、その旌旗せいきよろいかぶとに旭光きょっこうがきらめいて、群集は眼もくらむような心地に打たれた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ともかく玄徳は、無事涪城ふじょうにもどって、張飛から厳顔の功労を聞くと、金鎖きんさよろいをぬいで
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あっしの親父祖父じいも、家代々の打物うちもの造り、よろいかぶとに限らず、その道では名工といわれた人。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鱗革うろこがわ朱紅あけうるしやら金箔はくをかけたよろいを着、青錦せいきん戦襖じんばおりに黄色の深靴をはいていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身によろいを着ず、手に武具をたずさえず——拙者のこれへ参ったのは、決して、あなたを召捕らんがためではない。やがて後より丞相がご自身でこれに来られるゆえ、その前触れにきたのでござる。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)