用捨ようしゃ)” の例文
「御公儀御政道を誹謗する不届者は言うまでもない、いささかたりとも御趣意に背く奴等は用捨ようしゃはならぬぞ、片っ端から搦め捕ってしまえ」
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
選手はお情け及第の特権があるように年来言い伝えられていた為め、普通なら何うにかなりそうなところを用捨ようしゃなくやられたのだった。
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかしそれでも強情に、道を転じて逃げようとでもすると、その時こそは用捨ようしゃなく、三発目の大砲をぶっ放し、沈没させたということだ
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は眼がうるみました。体も震え始めました。苦痛とも歓喜ともつかない感情は、用捨ようしゃなく私の精神を蕩漾とうようさせてしまいます。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
我輩に於ても固より其野鄙粗暴を好まず、女性の当然なりと雖も、実際不品行の罪は一毫もゆるす可らず、一毫も用捨ようしゃす可らず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「銀行と来ては用捨ようしゃはねえからな。借りにゆく時はこっそり誰にも分らず行けるからいいようなものの、いざとなればよ。」
(新字新仮名) / 犬田卯(著)
お銀様が遠慮をするのを、主膳は用捨ようしゃなくグイグイと引張ります。お銀様はしょうことなしにその梯子段を引き上げられて行くのであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ぐずぐずしているまには、またとない機会をのがしてしまうことになる」と孫兵衛は、用捨ようしゃなく二人の夜具をはねのけた。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
融通の利かぬ巡査でも見付けたら、こんな場合でも用捨ようしゃなく風俗壊乱の罪に問うかも知れぬが、今は尻や臍の問題ではない、生命いのちの問題である。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
彼等は突き方が下手だつたので数回とも急所を外れ頭巾は用捨ようしゃなく眼に落ちかゝつて、イネスは息をひきとるまで天を仰ぐことができなかつた。
朝、東の白むのが酷使こきつかいの幕明で、休息時間は碌になく、ヘトヘトになって一寸でも手を緩め様ものなら、午頭馬頭ごずめずの苛責の鉄棒が用捨ようしゃなく見舞う。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
とはいえ用捨ようしゃなく生活ここうしろは詰るばかりである。それを助けるためにお供の連中は遠州えんしゅう御前崎おまえざき塩田えんでんをつくれとなった。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「ふん、いつまでもよけいなことを申しおると、用捨ようしゃはない。殺してくれるぞ。この家から生きて出た者はないのだ」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
つきも、ほしも、またゆきまでも、ああして感心かんしんしてあわれなうたをきき、音楽おんがくみみましているのに、寒気かんきだけが用捨ようしゃなくつのることを、すずめははらだたしくも
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
とが/\しきに胸を痛めて答うるお辰は薄着の寒さにふるくちびる、それに用捨ようしゃもあらき風、邪見に吹くを何防ぐべき骨あらわれし壁一重ひとえ、たるみの出来たるむしろ屏風びょうぶ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
西南は右の樫以外一本の木もない吹きはらしなので、南風西風は用捨ようしゃもなくウナリをうってぶつかる。はりがねにしばられながら、小さな家はおびえる様に身震いする。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
燃え上っている大きなほのおの中のたきぎのように、わたくしはあなたが用捨ようしゃもなく、未来に残して置かねばならないはずの生活までを、ただ一刹那いっせつなの中に込めて、消費しておしまいなさるのを
その乗杉が店の方を閉めてから、つい先年まで清水市史の編纂にたずさわっていた。そのうちに戦争が追々不利に陥ったとき、市では市史編纂を閑事業として、用捨ようしゃなく予算を削ってしまった。
しかし用捨ようしゃなく、白い暁がカーテンを通して入ってきた。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
用捨ようしゃなく呼びつけてキメつける、頭からこなしつける。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
父上以外の他のごじんが、かかる所業を致しましたる時は、右門必ずその人物を反逆人とののしって切って捨つるに用捨ようしゃござりませぬ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「この内に、御不審のかかった人間が潜伏しおるとのらせである。手抗てむかう者は、用捨ようしゃなく六波羅へ曳くぞ。邪魔するな」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と斎藤さんは用捨ようしゃない。既に方針を変えて、覚られた上からはその場を有効に利用する決心がついていたのである。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
……時計の刻む音は、火の気のない寂然しんとした広間に響いて、針線しんせんは目に見えぬ位に、しかし用捨ようしゃなく進んだ。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
四十年前のアルバイト学生としてようやくその日のかてを得ているうちに、大学へ出す月謝の期限を忘れて、待てしばしの用捨ようしゃもなく除名になってしまったのである。
汗は用捨ようしゃなく出る。服はグショ濡れだ。これからは鬼怒の渓流に沿うて桟道を行くのである。
「いかにもさようでござったの。気ままには手討ちにも致されまい。とは云え用捨ようしゃは尚ならぬ——賓客の礼もこれまでじゃ! いざ伊予の国へお帰りあれ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「こいつは焼け過ぎる」と言いながら、先生が折角あんばいよく摺鉢すりばちの火鉢で焼いていた餅を取って、口へ持って行きそうにしましたから、用捨ようしゃはならんという血相で
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふゆばんには、さむい、すような北風きたかぜが、用捨ようしゃなく、屋根やねうえきまくりました。
どこかに生きながら (新字新仮名) / 小川未明(著)
「島津家の女忍び衆、烏組とあるからは拙者にも敵! 用捨ようしゃはしない、叩っ切る! と云っただけでは解るまいが、水戸の藩士山影宗三郎! それが拙者だ、この俺だ!」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
のみならずさかいや京から大量に集荷した食糧が、解きかけてあったり積んであったり、ひどく散らかっていた。内容がどんな珍味佳肴ちんみかこうであろうと用捨ようしゃなくはえは群れたかってくる。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
レールは、なみだぐみながら、あめかって、今日きょう冷酷れいこく汽罐車きかんしゃきずつけられたこと、太陽たいようが、これまでというものは、毎日まいにち毎日まいにち用捨ようしゃなく、あたまからりつけたことなどをはなしました。
負傷した線路と月 (新字新仮名) / 小川未明(著)
長者の鞭は用捨ようしゃもなく桔梗の白い柔かい肌を所嫌ところきらわず打ちすえた。伏し悶えながら泣き叫ぶ桔梗の声は広いやかたの隅々まで悲しそうに鳴り渡っても、助けようとする者はないのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「なにをばかな。そんなお方ではないッ。近づくと、用捨ようしゃはせんぞ」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師弟のよしみももうこれまで、千葉道場はもちろん破門、立ち廻らば用捨ようしゃせぬぞ
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「どこから来たっ」と、彼の襟がみをもう用捨ようしゃなくつかんでいた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貴族の御曹司おんぞうしたる彼としては、まさに破格の生活であった。難行苦行の生活であった。食物にも不足した。着る物にも不足した。吹雪は用捨ようしゃなく吹き込んで来た。しかも十分の燃料さえない。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、用捨ようしゃのない捕縄の端で、牛をらすようにひッぱたく。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
辛くもひっ外した幹之介、今は怒りに用捨ようしゃなく、「観念しろ」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)