生粋きっすい)” の例文
旧字:生粹
ともかくもその瞬間に自分が子供の時分に夢みていた生粋きっすいの西洋というものが忽然と眼前に現われて忽然と消えてしまったのであった。
追憶の冬夜 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
新一君のお母さんは日本人の顔を持った生粋きっすいのアメリカ人であった。祖父ブウリーと父新太郎の血を受けついだ生得しょうとくのスパイであった。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのくせ自分は大阪の真中で生れた生粋きっすいの大阪ものであるので、なおさらにがにがしい気がして腹が立ってくるのであった。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
と言っても、彼はりっぱな愛国者であって、生粋きっすいのフランス人の多くよりもいっそう深くフランスに愛着していたのである。
ああいう稼業には上方かみがた者が多いなかで、どっちも生粋きっすいの江戸っ子でしたから、自然おたがいの気が合って、兄弟も同様に仲がよかったんですが
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
旦那様と違って生粋きっすいの江戸ッ子で、御実家は人形町の呉服屋さんで、かなり盛んにお店を張っていらっしゃいます……で、まあ、そんなわけで
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
鮨売すしうりの粋な売声では、例の江鰶こはだの鮨売などは、生粋きっすいの江戸前でしたろう。この系統を引いてるものですが、治郎公のは声が好いというだけです。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
意外なことに生粋きっすいのロシヤ語で——恐らくA氏が来朝以来はじめて日本人の口から聞くことが出来たほどの生粋のロシヤ語で、切つて返して来た。
三つの挿話 (新字旧仮名) / 神西清(著)
江戸児えどっこの気概が契機として含まれている。野暮と化物とは箱根より東に住まぬことを「生粋きっすい」の江戸児は誇りとした。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
二匹の牛、十匹の羊、五匹の豚が、あらゆる物に調理され、酒は山東さんとう生粋きっすい秋果しゅうかはこの山のみのりだし、隠れたる芸能の粋士もまた寨中さいちゅうに少なくない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尤も山城氏は生粋きっすいの浅草ッ児、樗陰は秋田の産であるから、樗陰の方がどこか荒削りなところがあり、山城氏のような円満柔和な相を具えてはいなかった。
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その時分ハイカラという新熟語ことばはなかったが、それに当てはめられる、生粋きっすいなハイカラであった。廿二、三年ごろには馬に乗り、玉突きをしたりしていた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
外は生粋きっすいの夜です。しかも、京都の天地の絹ごしの夜ではあるが、その横も、縦も、一匹の悪魔の跳梁には差しつかえのない闇の空間が与えられている——
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
というのは、こぢんまりした三階の建物に沿ってしつらえられている生粋きっすいにフランス風の小砂利をしいた細長い庭こそ、その下宿パンシオン気質かたぎを語っていたから。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
一時いっときはほんに日本全国上下をあげてなびいたくらいえらい勢いじゃったもんじゃ。信長のぶながが本能寺で討たれたころにゃ三十万からの生粋きっすいの信者がおったそうな。
シューベルトは生粋きっすいのウィーン児で、金持や貴族に自分を買いかぶらせて生活を安易にするすべは知らなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
生粋きっすいの船乗りにとっては、そのぞんざいに拵えてある板細工などをじ登るのは、わけもないことだった。
ちょっと見には、くすんだくらいの実直じっちょくな着つけだが、仔細に見れば生粋きっすいの洋風好み、真似ようにも、ここまではちょいと手のとどかない、いずれも珍奇な好尚こうしょう
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
長谷川時雨しぐれは、生粋きっすいの江戸ッ子ということが出来なければ、はえ抜きの東京女だとは言えるであろう。
知り合いの女といったってべつに仔細しさいはないんだからね、年はもう五十七になるんだ、一中節の師匠をしていてね、まあ生粋きっすいの江戸ッ子だろうな、そこへ預けたわけなんだ
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
店の客も公園の小屋の関係のものが多かった。そこは、生粋きっすいの琉球の泡盛を売っていて、出港税納付済——那覇なは税務所という紙のついたびんが、いくつも入口に転がっていた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
倉地さん、どんな美しいかたです。アメリカ生粋きっすいの人ってどんななんでしょうね。わたし、見たい。あわしてくださいましな今度来たら。ここに連れて来てくださるんですよ。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
江戸っ子がヒをシと発音するように、生粋きっすいのロンドン子はhの音をiで間に合わせる。ハヒフヘホがアイウエオになる。或家の亭主が食事中ハムを頬張りながら、子供に向って
英米笑話秀逸 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「光栄です。」と私は、ほとんど生粋きっすいの都会人の如き浅墓あさはかな社交振りを示して、「その弟さんは、しかし、あなたに似て頭がいいのでしょう? その点は僕と違うようですね。」
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その顔立、物腰、言葉使から着物の着様に至るまで、東京の下町生粋きっすいの風俗を、そのまま崩さずに残しているのが、わたくしの眼には稀覯きこうの古書よりもむしろ尊くまた懐しく見える。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかしそのうち八名を除いて、のこり四十名はいずれも生粋きっすいの日本人でございます。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
丈長たけなが掛けて、銀の平打のうしろざし、それしゃ生粋きっすいと見える服装みなりには似ない、お邸好やしきごのみの、鬢水びんみずもたらたらと漆のようにつややかな高島田で、ひどくそれが目に着いたので、くすんだお召縮緬めしちりめん
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
枕頭に集まる者は湊屋の生前の親友であった魚市場と青物市場の連中ばかりで、一人残らず無学文盲の親方おやぶん連中であったが、それでも真情だけは並外れている博多ッ子の生粋きっすいが顔を揃えていた。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私の父兼松は生粋きっすいの江戸ッ児で、身長なりこそは小さいが、火事なぞに掛けては、それはハシッコイ人物、……我子を両手に抱いたうれしさに勇気も百倍し、それから人波を押し割って元の道に引ッ返し
徳川三百年の風流の生粋きっすいが、毛筋で突いたやうな柳と白鷺しらさぎ池水ちすいきざみ込まれた後藤派の目貫めぬきのやうなものを並べて、自分の店から持つて来たいろ/\の専門の道具や薬品を使つて手入れしながら
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
あいつは生粋きっすいの浮浪少年だ。浮浪少年の間にも多くの種類がある。
が、今いるのは生粋きっすい牛犬クラブニ・ハウだと教えてくれました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
「云ってみれば山の女神だ。肉附きがよくて上背うわぜいがあって、とても清浄で別嬪だ。自然から産まれた生粋きっすいの処女! そうだなあ、あの娘が、裸体になって踊ろうものなら、俺だってひとたまりもなくフラフラするよ」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのために生粋きっすいのユダヤ人からは嫌われていた。
そのrの喉音こうおんや語尾の自然な音韻が紛れもないドイツの生粋きっすいの気分を旅客の耳に吹き込むものであった。パンとゆで玉子を買って食う。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ユダヤ、ベルギー、リュクサンブール、アメリカ、ロシア、近東、などの生まれのフランス人や、また間々には、生粋きっすいのフランス人などだった。
もっと人間感情を生粋きっすいのまま、全く音楽的に様々の情熱を表現しているだけでもやはり偉いと思いました。
生粋きっすいのドイツ人で父親も音楽学校の校長であったという。ユダヤ人追放後のドイツにおいては、彼は少壮ピアニストの第一線に立つ人で、作曲、オルガン等にも造詣が深い。
ところが、山城生れの生粋きっすいの土地っ子で根の生えたやつが、自分の味方についた。これは切っても切れない書生時代からの同学だから、どう間違っても裏切りのおそれはない。
僕は宇都宮の生れですが、あれは生粋きっすいの江戸ッで、実家は今でも東京にあるんです。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
此奴が生粋きっすいの大阪美人だから、僕が始終然う言って褒めると、家内は躍起やっきになって、美人には美人だけれど出っ歯だと難癖をつける。女はわきの女の綺麗なのには余り同情しないね
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
二、三十年ぜんの風流才子は南国風なあの石の柱と軒の弓形アーチとがその蔭なる江戸生粋きっすい格子戸こうしど御神燈ごしんとうとに対して、如何に不思議な新しい調和を作り出したかを必ず知っていた事であろう。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「おれはユダヤ人じゃないよ。生粋きっすいのアメリカ人だ。きっと作ってやる」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
知らぬ間にアメリカ人が日本へ集っていたり日本の人だまが皆巴里へ集っていたりなどしても、ちょっと区別がつかないので目に立たず、人種問題も起らないし、早速生粋きっすいのパリジァンにもなれる。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
彼は洒々落々の博多児はかたっこ生粋きっすい、仁輪加精神の権化であった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
生粋きっすいのアメリカ映画である。今までに見たいろいろの同種の映画のいろいろの部分が寄せ集められてできあがっているという感じである。
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして、生粋きっすいのドイツ人らが家常茶飯事にまで示す生来の厳格さをもって、彼女はいかめしく言い添えた。
東海道の作はおも鳥瞰図ちょうかんず的なる山水村落の眺望を主とし、東都名所は人物を配置して風景中におのずから江戸生粋きっすいの感情を溌剌はつらつたらしめたり。東都名所新吉原と題したる日本堤夜景の図を見よ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
生粋きっすいの佐賀っ子だと言ったが、皆あんな風なら佐賀の女も豪いものさ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それにしてもわれわれ生粋きっすいの日本人のほんとうに要求する音映画はまだどこにもない。そういったような気がするのであった。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)