生業なりわい)” の例文
旅の芸人までが寄って来るというわけで、はやここのふもとには、小さな町ほども人々が賑わって生業なりわいをいたしおるのでございまする
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宇治山田の米友は、伊勢の国に在る時に、神宮の前の宇治橋の下で網受けをして生業なりわいを立てていたことは、先刻御承知のことであります。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
女衒ぜげん、などなど、これらの生業なりわいと共に社会の裏側にうごめき続け、その時も尚パリの裏街、——貧しい詩人や絵描きや音楽家や
放浪作家の冒険 (新字新仮名) / 西尾正(著)
かれらは百姓の子であったが、この時代の生まれだけに弓矢を取りおぼえて、農作の傍らには狩人を生業なりわいのようにしていた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
静かな朝の巷に、その美しい咽喉を利かせて、節面白く商いあるく苗売りの生業なりわいは、岡目にばかり風流なものではない。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
もしこの業があなたの本職なればそりゃどうも生業なりわいのためにやむを得ん事もあろうけれどもただ娯楽の為にするのは実に無残、無慈悲の事ではないか
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
両側の家に住む人たちはどんな生業なりわいをしているものか、彼のゆくじぶんにはどの家も雨戸を閉めて、隙間だらけのあばら家なのに灯の漏れるようすもない。
嘘アつかねえ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「生きて居ようと思ったから。」私は生業なりわいにつとめなければいけないではないか。簡単な理由なんだ。
皆んな素朴な生業なりわいの人ばかりであった。一日の仕事をすましてここに集り、食事をして歓談のひとときを過ごして、それからそれぞれ宿へ引き上げているようであった。
おじさんの話 (新字新仮名) / 小山清(著)
おやじさんもやっとのことで暮らしているので、もうかっているのではない。そのじいさんの生業なりわいで、タイがあってイワシがある。これを見てどうすることができますか。
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
こんなことを生業なりわいとして宿々に知り合いが出来るとなおこの街道から脱けられなくなり、家を離散さしてから二十年近くも東海道を住家として上り下りしていると語った。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「贅沢禁制は結構でも、心持が沈んで、笑いも喜びも無くなっては、誰が生業なりわいを励むものでございましょう。——このように悲しい世の中には、一体誰がしたのでござりましょう」
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
分限者ぶんげんしゃの御隠居さまとは、表かんばん、よからぬ生業なりわいで、その日その日をお暮しになっていたとは言いながらも、私には親身のように、おつくし下さった御隠居さま、それに、あの
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
左様さよう——そなたの人相、気魄きはくをうかがうに、一かたならぬ望みを持つものと観た——と、いうても驚くことはない——わしは、自体他人の運命さだめうらのうて、生業なりわいを立てるもの——何も
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
縦令たとひ主命とはいひながら、罪なき禽獣ものいたずらにいためんは、快き事にあらず。彼の金眸に比べては、その悪五十歩百歩なり。ここをもて某常よりこの生業なりわいを棄てんと、思ふことしきりなりき。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
では、それを生業なりわいにしている踊女おどりめのたぐいででもありましょうか。いやいや、そんなものにしては、彼女はあまりにしとやかで、つ舞踏の作法さえ不案内のように見えるではありませんか。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
枝朶細工しだざいくなどを生業なりわいの、貧しい小部落だった。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ならば、なぜ、好む道へましぐらに、望みをおかけなさらぬのか。雅楽以外の遊芸は、賤しい者の生業なりわいと、やはりそれにも、おひるみかの」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この猟師は惣太といって、岩坂というところに住み、兎、鹿、猿、狐などの獣を捕っては生業なりわいを立てている。ことに猪を追い出すのが上手じょうずで評判をとっている。
仕事そのものは簡単であるが、実際にやってみると(生業なりわいというものがすべてそうであるように)
雪の上の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さるを生業なりわいは卑しけれ、さる風流を思い立って人知れず独り自ら娯しんでいたのが、いつの頃からかフッツリ見えずなって、大方の噂に上るその行衛を、内々捜していると
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
それを漁師がその日の生業なりわいのために取ってきたわけであります。それをまた市場から買って、それを切ったのを買ってきて煮て、それが人間のために役だって、その滓を捨てた。
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
これも早くふた親にわかれた不運な孤児みなしごで、やはり烏帽子折りを生業なりわいとしている叔父叔母のところへ引き取られて、ことし十五になった。叔父の大六は店あきないをしているのでない。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
という雑誌を身の生業なりわいとして、石にかじりついても、生きのびて行くやも知れぬ。
たとえそれが世を忍ぶ仮りの生業なりわいとはいえ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
諸国にふえた武士の数、諸民の生業なりわいのむずかしさ、従って、道徳までの変りよう。すべて近世は激変の中にゆれております。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山岳を行く時にかりの宿りと定めた名残なごりで、殺生小屋は山をめぐって、生きとし生けるものを殺しつくす生業なりわいの猟師が、かてを置くところと定めていたものだという。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なるほど商人は利によって生業なりわいを立てる者です、けれどもそればかりでもしょうばいは成り立ちません。土台になるのは信用というもので、いま現銀がなくとも、相手を
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おしお それも生業なりわいじゃ、是非もござりますまい。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「私は、あの時、朝麿様と一緒にいたこずえという者でございますの。……父は、粟田口宗次むねつぐといって、あの近くで、刀鍛冶かたなかじ生業なりわいにしています」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうしていやだと、右門作さまが押しておたずねなさいましたら、猟師などが生業なりわいとしてるなら是非もないが慰みのために生物の命をとることは生来嫌いだ、拙者は御免をこうむると仰有おっしゃいました」
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かの人々も生業なりわいに、面作りはなされまいが……。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ここ両三年は馬上に長槍をとって、忘れはてていたが、幼少から衣食してきた生業なりわい莚織むしろおりはたは、今なお、この故郷の家では休んでいなかった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元は皆戦場かせぎの野武士を生業なりわいにして伊吹の辻風典馬や野洲川の辻風黄平の手下と、おおぴらに名乗って働いていた人間たちの成れの果てなのである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
官兵衛は、このお坊さんにも、薫陶くんとうをうけた。父の宗円が、まだ城持ちともならず、浪人の生業なりわいに目薬など売りひさいだ貧窮ひんきゅう時代からそう後のことでもない。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とうとう沓売りや蓆織りを生業なりわいとしてからくも露命をつなぐまでに落ちぶれ果てていたのであった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いえ、この生業なりわいも、木賃きちんのあるじが、長谷のお賽日さいにちには人出もあるゆえと、私たち夫婦に稼ぎの道を
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これもまた山東梁山泊の耳目じもくとして、ここに仮の生業なりわいをしている手下てかの一員には相違あるまい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうして見ると、河の上にも春秋の運命があり、その日その日の生業なりわいあわただしい。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「では、落魄おちぶれ果てて、今浜のあたりで、何か貧しい生業なりわいでもしておりましたか」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いささか好む琵琶をいて生業なりわいといたし、こうして花に月に、風のままに召さるる所へ参じては御宴ぎょえんの興をたすけ、独りになれば琵琶を妻とも子とも思うて暮しておりますと、いっそ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小店こだなを構えて、武具馬具の修繕つくろいなどを、表むきの生業なりわいとして、それを手ヅルに南都、叡山の僧兵やら、諸家へも出入りして、宮方のおうごきなどを、ひそと探っておるよしにござりまする
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
病人に灸点きゅうてんをして困らぬながら糊口くちすぎ生業なりわいもし、夜は静かに写経などして、ひとり暮しの気易さに馴れてからは、持病も久しく起らないし、この秋は、体もめっきり若返ったふうである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、とくと、越前の所存いたすには、本の罪悪の禍根を断ち、将来の御政道に公正を示し、人心を明るくして、庶民の生業なりわいをここに楽しませる裁決は決して不可能ではないと存ぜられる
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大江戸の生業なりわいと、夜々の安眠の、守りの門として。また、正直者の味方として。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、思い、帰る旅の途々みちみちも、何も知らずに、年暮くれを迎える生業なりわいせわしがっている町々や、ここわずかな平和に、ほっとしているような家々の夜の灯を見ても、何か、胸のいたみに耐えなかった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庶民の生業なりわい、武家のありかた、朝廷のお考え——までをふくんだ歴史の行きづまりというものが、どうしてもいちど火をいて、社会よのなかかたちをあらためなければ、もさっちも動きがとれない
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、地割の良い土地を争って、忽ちのうちに、ここに集まる民家は何千戸にのぼり、やがて信長が、城中の本丸へはいった頃には、すでに一万戸以上の町屋が、日々、生業なりわいの繁昌を謳歌おうかしていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この国土のうえに生業なりわいするものすべてひとつの筈であった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)