煉瓦塀れんがべい)” の例文
引越して来た日から舌うちしていた忌々いまいましい煉瓦塀れんがべいは、土台から崩れて、彼の借家の狭い庭に倒れ込み、その半分をふさいでしまった。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
すると意外にもお芳が一人、煉瓦塀れんがべいの前にたたずんだまま、彼等の馬車に目礼していた。重吉はちょっと狼狽ろうばいし、彼の帽を上げようとした。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
五、 屋外おくがいおいては屋根瓦やねがはらかべ墜落ついらいあるひ石垣いしがき煉瓦塀れんがべい煙突えんとつとう倒潰とうかいきたおそれある區域くいきからとほざかること。とく石燈籠いしどうろう近寄ちかよらざること。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
煉瓦塀れんがべいや小さな溝川みぞがわかえでの樹などが落着いた陰翳いんえいをもって、それは彼の記憶に残っている昔の郷里の街と似かよってきた。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
その坂の降り口に見える古い病院の窓、そこにある煉瓦塀れんがべい、そこにあるつたつる、すべて身にしみるように思われてきた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それはちょうど牢獄ろうごくに監禁された囚人が、赤い高い煉瓦塀れんがべいのかなたには、絶対の自由がある。自分はそこでは自分の好む通りにすることができる。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
まず、最初に現わしまするは、西側の煉瓦塀れんがべいの横で、双肌脱もろはだぬぎになって、セッセと働いている白髪の老人で御座います。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この辺は要塞ようさいが近いので石塀いしべい煉瓦塀れんがべいを築くことはやかましいが、表だけは立派にしたいと思って問い合わせてみたら、低い塀は築いても好いそうだから
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
「おじさまが呼んで上げるのよ、あら、おばさま、其処の煉瓦塀れんがべいの穴は抜けられないわよ、おからだに傷がつきます、あたい、其処にいま行きますから。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
お涌が、自宅の煉瓦塀れんがべいのところまで来ると、あとから息せき切って馳けて来た日比野の家の女中が声をかけて
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
赤い煉瓦塀れんがべいについたり、壊れかけた竹垣に添ったりして、右を見、左を見たりして行くと、ふと左側のすぐ道ばたの二階家に、「貸間あり」の紙札が下っていた。
貸間を探がしたとき (新字新仮名) / 小川未明(著)
つまり、(明日の晩十二時)(谷中天王寺町)(墓地の北側)(煉瓦塀れんがべいの空家の中で)と
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たとえば砲兵工廠ほうへいこうしょう煉瓦塀れんがべいにその片側を限られた小石川の富坂とみざかをばもう降尽おりつくそうという左側に一筋の溝川みぞかわがある。その流れに沿うて蒟蒻閻魔こんにゃくえんまの方へと曲って行く横町なぞすなわちその一例である。
ただ一つ濃い闇を四角に仕切ってポカッと起きているのは、厚い煉瓦塀れんがべいをくりぬいた変電所の窓で、内部なかには瓦斯ガスタンクの群像のような油入あぶらいり変圧器が、ウウウーンと単調な音を立てていた。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まさか忍び返えしのソギ竹を黒板塀の上に列べたり、煉瓦塀れんがべいうえに硝子の破片を剣の山とえたりはせぬつもりだが、何、程度ていどの問題だ、これで金でも出来たら案外其様そんな事もやるであろうよ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
電気の力を借りなければ人の顔が判然はっきり分らない頃になって、我々の馬車がようやく旧市街まで戻った時、中尉はある煉瓦塀れんがべいの所で、それじゃ私はここで失礼しますと挨拶あいさつして、馬車から下りて
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それは表門でござった……坂も広い。私が覚えたのは、もそっと道が狭うて、急な上坂のぼりざかの中途の処、煉瓦塀れんがべいが火のように赤う見えた。片側は一面な野の草で、いきれの可恐おそろしい処でありましたよ。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
構内は広くて、てっぺんにはガラスのかけらを漆喰しっくいに植えつけた、高い、丈夫な煉瓦塀れんがべいが、その周囲をぐるりと取りまいていた。この牢獄ろうごくのような塁壁が私たちの領土の限界になっていたのだった。
コールタで塗った門の扉がたしかにあるので、そっと手をかけてみると扉のくるまはすぐ落ちた。そこはその傍の問屋といや荷揚場にあげばらしい処で、左側に山口家の船板塀ふないたべいがあり、右側に隣の家の煉瓦塀れんがべいがあった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
監獄のよりも高い煉瓦塀れんがべいの取りめぐらされた、工場の中に吸い込んでしまって、その中の上出来なのを、自分らの玩弄物がんろうぶつなる「めかけ」にしてしまうんだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
石垣いしがき煉瓦塀れんがべい煙突えんとつなどの倒潰物とうかいぶつ致命傷ちめいしようあたへることもあるからである。また家屋かおく接近せつきんしてゐては、屋根瓦やねがはらかべ崩壞物ほうかいぶつたれることもあるであらう。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
お涌が、自宅の煉瓦塀れんがべいのところまで来ると、あとから息せき切つてけて来た日比野の家の女中が声をかけて
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
山の手の日曜日の寂しさが、だいぶ広いこのやしきの庭に、田舎の別荘めいた感じを与える。突然自動車が一台煉瓦塀れんがべいの外をけたたましく過ぎて、跡は又元の寂しさに戻った。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
が、彼の妹は時々赤児をあやしながら、愛想あいそい応対をするだけだった。僕は番茶のしぶのついた五郎八茶碗ごろはちぢゃわんを手にしたまま、勝手口の外をふさいだ煉瓦塀れんがべいこけを眺めていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
うしろは煉瓦塀れんがべいを隔てて動物園だし、両隣は人も住めないほど荒れ果てた小屋同然の建物だし、前の往来も、片側は大きな料理屋の裏手になっていて、遊覧客の通るような道ではない。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一丁ほども行って、十八番館の煉瓦塀れんがべいについて曲ろうとしたとき、いきなり僕の左腕さわんに、グッと重味がかかった。そしてこの頃ではもうぎなれた妖気ようき麝香じゃこうのかおりが胸を縛るかのように流れてきた。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
表通りを曲ると間もなく崖端に病院の焼跡の空地があって、煉瓦塀れんがべいの一側がローマの古跡のように見える。ともよと湊は持ちものをくさむらの上に置き、足を投げ出した。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこには、監獄の高い煉瓦塀れんがべいのような感じのする、倉庫が背を向けてるけであった。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
それは彼の家の煉瓦塀れんがべいが、何歩か先に黒々と、現われて来たからばかりではない、その常春藤きづたおおわれた、古風な塀の見えるあたりに、忍びやかな靴の音が、突然聞え出したからである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
青くこけむした煉瓦塀れんがべい、今時こんなものが残っていたのかと驚くほど、古風な木造の西洋館、急な傾斜のスレート屋根に、四角な赤煉瓦の煙突がニョッキリ首を出して、さかんに煙をいている。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
牢獄ろうごくの赤い煉瓦塀れんがべいをくぐることになったんだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)