点頭うなず)” の例文
旧字:點頭
平次は点頭うなずきました。又左衛門に説明されるまでもなく、釜吉の話や、いろいろの情勢で、そのくらいのことは解っていたのです。
そしてかしらを挙げた時には、蔵海はしきりに手を動かしてふもとの方の闇を指したり何かしていた。老僧は点頭うなずいていたが、一語をも発しない。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その私の顔と、鏡の中の顔とを、依然として無表情な眼付きで、マジマジと見比べていた若林博士は、やがて仔細らしく点頭うなずいた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
停車じょうの人ごみの中で、だしぬけに大声でぶッつけられたので、学士はその時少なからず逡巡しつつ、黙って二つばかり点頭うなずいた。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柳島まで行くには及ばねえと点頭うなずきながら、尻をはしょって麻裏草履をつっかけ、幸兵衞夫婦の跡を追って押上おしあげかたへ駈出しました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
細川は軽く点頭うなずき、二人は分れた。いろいろと考え、種々いろいろもがいてみたが校長は遂にその夜富岡を訪問とうことが出来なかった。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と捨吉は聞くと、玉木さんはさびしそうに点頭うなずいて、赤い更紗さらさの風呂敷に包んだ聖書を手にしながら築地の方を指して行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「珍らしや文角ぬし。什麼そも何として此処にはきたりたまひたる。そはとまれかくもあれ、そののちは御健勝にて喜ばし」ト、一礼すれば文角は点頭うなず
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
津田は心のうちでその幾分を点頭うなずいた。けれども今さらそんな不平を聴いたって仕方がないと思っているところへ後が来た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父親はそれを聴いて点頭うなずきはしたが、「でもまア、その方の関係もあるものとして見なければなりますまい」と言った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
と僕は点頭うなずいた。「やあ、俺はとても面白い、ペガウサスに打ちまたがって雲をいて行くかのような気がする。」
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
数秒の時が流れてから、唇をかすかに動かして、殆んど気配でわかる程度に点頭うなずいたのみであつた。その始終のうち彼女の冷めたい表情は微動だにしなかつた。
狼園 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
何にも解らない小さい児供たちも何事か恐ろしい事があったのだという顔をして、黙って点頭うなずいていた。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
青沼は影佐が明日一人で転居するということを聞いた時、黙したままくびを振って点頭うなずいた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
と、ややあつてく。姫は巴旦杏はたんきょうのやうに肉づいた丸いくちびるを、物言ひたげにほころばせたが、思ひ返したのかそのままに無言で点頭うなずいた。アスカムは窓に満ちる春霞はるがすみの空へと眼を転ずる。
ジェイン・グレイ遺文 (新字旧仮名) / 神西清(著)
そして一つには切脱ける口が重く、ついによろしいで点頭うなずいて、半丁ばかり来て振返れば、春泉の二階になお燈光あかりが見える、小歌はあのまゝ帰るか知らん、もしひょっと、もしひょっと
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
それにいちいち点頭うなずきながら、法水は屍体の不自然な形状かたちを凝然と見下している。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
此時大きく点頭うなずいて、よし、じゃ出入の場所は沓掛明神の杜、時刻は初夜の鐘が合図だと言渡せば、今は身軽な独身ものになった時次郎は莞爾と笑って、お互に渡世人の道を歩みましょう
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
右馬の頭はもういうこともなく、点頭うなずいて見せた。このままのなりわいを続けて行ったら、生絹すずしは泥くさい田舎いなか女になり果て和歌の才能すら難波の蓬生よもぎうのあいだにうもれてしまわねばならない。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ト常にかわッた文三の決心を聞いてお政はようやく眉を開いてしきりに点頭うなず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
余はただぼんやりとそれを聴きながらただ点頭うなずいていた。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「そうか」と調べていた男も点頭うなずいたが
恨なき殺人 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
「……」笑いながら信子も点頭うなずいた。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「ええ!」と青年は強く点頭うなずいた。
湖水と彼等 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
秀英は点頭うなずいた。老婆は安心した。
断橋奇聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
此の頃から、翁は点頭うなずきながら
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
松島氏は黙って点頭うなずいた。
外務大臣の死 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
と驚きつつ点頭うなずいた。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
汗を拭いていた一知青年が、急に暗い、おびえたような眼付をしてうなずいたのを見ると、草川巡査も何気なく点頭うなずいてマユミを振返った。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
顧みれば娘の桂は、涙の顔を挙げて、二つ三つ点頭うなずいて見せるのです。涙に薫蒸くんじょうされて、匂いこぼるる処女おとめの顔の美しさ——
点頭うなずき合った一日の友は、十年かかっても話せない人のあるようなことを唯笑い方一つで互いの胸に通わせることが出来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうしてきっと今帰ったのかといいます。私は何も答えないで点頭うなずく事もありますし、あるいはただ「うん」と答えて行き過ぎる場合もあります。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
群集はもとより、立溢たちあふれて、石の点頭うなずくがごとく、かがみながらていた、人々は、羊のごとく立って、あッと言った。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トいって置いて、はじめの無遠慮な態度とはスッカリ違って叮嚀ていねいに老僧に一礼した。老僧は軽く点頭うなずいた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大杉が児供を見る眼はイツモ柔和な微笑を帯びて、一見して誰にでも児煩悩こぼんのうであるのが点頭うなずかれた。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
同国の者はこの広告を見て「先生到頭死んだか」と直ぐ点頭うなずいたが新聞を見る多数は、何人なればかくも大きな広告を出すのかと怪むものもあり、全く気のつかぬ者もあり。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しばらくして黄金丸は、鷲郎に打向ひて、今日朱目がもとにて聞きし事ども委敷くわしく語り、「かかる良計ある上は、すみやかに彼の聴水を、おびいだしてとらえんず」ト、いへば鷲郎もうち点頭うなず
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
杉十郎と松は父子のくせに、まるで仲間同志の口をきき合い、折りに触れては互いにひそひそと耳打ちを交して点頭うなずいたり冷笑を浮べてどうかすると互いの肩を打つ真似をした。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
で、その話が出て、都合さえよくば今夜からでも——荷物は後からでも好いから——一緒にれて行く積りで来たということを話した。芳子は下を向いて、点頭うなずいて聞いていた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
いっそ不景気の現象しるしですと、茶屋奉公の昔から、胸間に欝積した金玉の名論を洪水おおみずの如く噴出されて、貞之進はそうかそうかとただ点頭うなずいて居たが、それでも小歌という好児が御在ますと
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
このたびは真に可笑しそうにお勢が笑い出した。昇はしきりに点頭うなずいて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そうして藍丸王が軽く点頭うなずくのを見るや否や、気の早い児と見えて直ぐに兵隊に云い付けて狩りの支度をして仕舞った。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
こう岸本は日頃めったに牧野の前で言出したことも無い自分の留守宅の方のうわさをすると、骨の折れる旅を続けて来た牧野はそれを聞いて点頭うなずいて見せた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
細君の父は点頭うなずいた。しかし二人がどこでどう知り合になったのか、健三には想像さえ付かなかった。またそれを詳しくいて見たところが仕方がなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平次の言葉に点頭うなずくばかり、階段の登り口からは、友次郎と利助、これは、悪意に充ちた眼を光らせながらも、呆気あっけに取られて、平次の言葉を聞いております。
にもと点頭うなずかせられて、そのとしの九月、立てゝ皇太孫と定められたるが、すなわち後に建文のみかどと申す。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ホントウとも、ホントウとも、」とU氏は早口に点頭うなずいて、「ホントウだから困ってしまった。」
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
で、てらてらと仇光あだびかる……姿こそ枯れたれ、石も点頭うなずくばかり、おこないすまいた和尚と見えて、童顔、鶴齢かくれいと世に申す、七十にも余ったに、七八歳と思う、軽いキャキャとした小児こどもの声。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いふに金眸も点頭うなずきて、「とかくは爾よきに計らへ」「おおせかしこまり候」とて。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
あゝそうあゝそうとしきりに点頭うなずいて居たが、あなた誠に済ませんが小歌さんをしばらく拝借しますと云うと、小歌も傍から二階のお客さまにちょいと御挨拶に行て来るのですからと云ので
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)