こは)” の例文
役人、商人あきんど、芸妓、学生……さういふ連中れんぢゆうは大事な瀬戸物をこはしでもしたやうに、てんでに頭を掻き掻き、博士の前へ出て来る。
引越したいと思つても引越す目当がないと思ふと、無暗に腹が立つて座敷の物でも手当り次第こはしてみたいやうな気になる。
人妻 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
私が酒が飲めたら自暴酒やけざけでもくらつて、からだこはして、それきりに成つたのかも知れませんけれど、酒はかず、腹を切る勇気は無し、究竟つまりは意気地の無いところから
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
莫迦ばかな奴だな。寝ながら泣く程苦しい仕事なんぞをするなよ。体でもこはしたら、どうするんだ。」
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
われに示すにハルトマンが審美學のうちにて我が假借し來れる部分を打ちこはすに足るべき無理想の審美學を以てせよ。われは頃刻も躊躇ちうちよせずして無理想派にくみすべし。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
家の裏手とか腰板つづきの、人の氣づかない處で石をつみ重ね、板切れで家のやうな物を建てて夕方にはこはして去つた。あん子は八歳になり十歳になり十三歳になつた。
神のない子 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
それにし会つて、自分の「夢」がこはれるやうだとり切れないといふロマンティシズムが、私の会ひたくて燃え上がる心に水をした。私は煮え切らない返事をした。
吉右衛門の第一印象 (新字旧仮名) / 小宮豊隆(著)
燃殼のぷす/\いふ音や、水をけた時にはずみでほふり出してしまつた水差のこはれた響、それに何よりも私が惜しまず施した驟雨浴シヤワアバス水沫しぶきが漸々ロチスター氏を起した。
けれど一方、清ちやんの死に依つて生命の根柢からぶちこはされたやうになつてゐるおきみは今、思ひがけなく與へられたこの機會に對して、殆んど何の昂奮もしなかつた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
そして、役にも立たないことだが——こはれたものなら、元の通りいでみるとか何とか、どんなにつまらない物でも、それ位の未練は持つて居るものだ。ところがあの娘は何うだ
道は大變こはれてゐて石がごろ/\してゐた。私は足が少しむくんでゐるので坂を登るのが一番つらかつた。極めて歩調を緩めて登つた。同行の人々も皆私に附合つてそろ/\と登つた。
横山 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
果して内儀さんは翌日から圭一郎等に一言も口を利かなかつた。千登世が階下へ用達しに下りて行くとさんこはれよとばかり手荒く障子を閉めて家鳴りのするやうな故意の咳拂ひをした。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
(又かんがへる。)とは云ふものの、大切なお道具を、むざ/\こはすは勿体ない。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
その眼は澄みきつて、レンズのやうで、むしろ生き物のものといふよりは器物きぶつのやうであつた。縁側に吊した金魚鉢か何かのやうに、こはれ易く、庭の緑を映してゐるやうなものであつた。
亡弟 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
そこを訪れる若い人達は、みんなその水車の柔い、だん/\朽ちてゆく木に、自分の名前の頭字かしらじりつけて行つた。せきは一部分こはされて、清らかな山の流れは、岩の川床を流れ落ちた。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
負傷ふしやうなをる、しかし、精巧せいかうじうこはしたならば、それはなをらない。してあのとき中根なかねじうはなしてかへりみなかつたならば、じう水中すゐちうくなつたかもれない。すなは歩兵ほへいいのちうしなつたことになる。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そんなことを、今いひ出すと、すつかりぶちこはしになるからな。
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
水玉みづたまおもみにたるんでこはれてしまつた。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ささやかな塔を立ててはこはす也
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
その男は金網を調べてみたが、何処に一つこはれた所も無かつた。で、この鼠は以前子鼠であつた頃網の目をくゞつてちよく/\走り込んだものと判つた。
「だつて、からだをこはしちやうぢやないの、こんな寒いところに眠つてゐたら。」
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
女の前髮が毮られて滅茶々々にこはされて居るところを見ると、曲者は後ろから女の前髮を押へて、右手に持つたかんざしを女の右の眼へ突つ立てたに相違ありませんが、そんな恰好になつて居て
がた/\、めり/\、みし/\と、物を打ちこはす音がする。しかと聴き定めようとして、とこの上にすわつてゐるうちに、今毀してゐる物が障子しやうじふすまだと云ふことが分かつた。それにまじつて人声がする。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
今はこはれてゐようといふもの
そしてこはれた玩具おもちやのやうにだらしなく手足を投げ出したと思ふと、そのまゝけもののやうないびきをかき出した。
がそれも五分としないうち、こはれた時計のセコンドが止まるやうに靜まつて來た。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
「板庇がこはれて、木端こつぱが路地に落ちて居るから、その見當に間違ひはねえつもりだ。ところで、此の小屋の庇から、隣の空家の屋根までは一間半はあるだらう、あれだけ無造作に飛付ける人間は、此處に幾人居るんだ」
勧誘員は扇をぱちぱち鳴らしながら、学者の頭は硝子がらす製のインキ壺と一緒に、どうかするとこはれ易い。
「日本ではお客に対して、こんなこはれた皿は使はない事になつてゐる。で、余り珍しいから記念のため日本へ持つて帰りたいと思つてゐる。幾らで譲つて呉れるね。」
電報を見せてくやみを言ふと、若い夫人はこはれた玩具人形おもちやにんぎやうのやうに胸をぺこ/\させて泣き出した。
昨夕ゆうべからこはれかけの眼覚時計に螺旋ねぢを巻いて、今朝はいつもにない夙起はやおきをして来てゐるのだ。
内田氏は叮嚀な独逸語で、自分が何よりも正直な日本人である事から、先日こなひだこの店で買つた懐中時計が、やつと四五日経つたばかしなのに、もう機械がこはれた事を話し出した。
あの内閣や政党をこはす事の大好きな木堂ですら「ほう」とやらを見るためには、硝酸銀で硯を焼かなければならぬ、そんな勿体ない事が出来るものぢやないといつてゐる位だから。
硯と殿様 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
ある時、館員の一人が門のこはれをつくろはうとして領事の前へ出た。そして何の気もなく
その折の将軍の顔は、悲しさと腹立しさとで、こはれた弁当箱のやうに歪んでゐた。
そして騒ぎ立てる聴衆ききてを制しながら、諸君は真つ青になつてお驚きのやうだが、今こはしたのは五千弗の提琴ヴアイオリンぢやない、実は一弗六十五セントの安物に過ぎない、これからお聴きに達するのが
シユワツブ氏は、これまでの古い家を、今はもうそれにえうがないからといつて、ばらばらにこはすことを好まなかつた。出来ることならそのまゝそつくり屋敷のどこかへ持つてゆきたいらしかつた。
「何をそんなにお腹立ちで、こんな名器をおこはしなされた」
利休と遠州 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)