歓喜よろこび)” の例文
旧字:歡喜
なにしろ旅の空にある時でも、一番気に掛ったのは彼女のことであったから。その心から彼はすくなからぬ歓喜よろこびを自分の身に覚えた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
摩耶夫人まやぶにんもマリヤもこうして釈迦や基督を生みたもうたのである、という気持になって、上もない歓喜よろこびの中に心も体も溶けて行く。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
爾時そのとき、優におぼろなる、謂はば、帰依の酔ひ心地ともいふべき歓喜よろこびひそかに心の奥にあふれ出でて、やがておもむろに全意識を領したり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
船室にりて憂目うきめいし盲翁めくらおやじの、この極楽浄土ごくらくじょうど仏性ほとけしょうの恩人と半座はんざを分つ歓喜よろこびのほどは、しるくもその面貌おももちと挙動とにあらわれたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こればかりは、純情なお園に無かった事ですが、歓喜よろこびに夢中になって丈太郎の心は、そんな事に気の付く余裕もありません。
「いいえ。私達の神様は、人間の感謝が歓喜よろこびの声となって、大げさに告白されるのを、大層およろこびになりますよ。」
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
かれは、自己おのれ一人の力でこの村を教化し尽した勝利の暁の今迄遂ぞ夢にだに見なかつた大いなる歓喜よろこびを心に描き出した。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「それ神はまったき人を棄て給わず……(汝もし神に帰らば)つい哂笑わらいをもて汝の口をたし歓喜よろこびを汝の唇に置き給わん」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
女の胸に堪へ堪へて鬼女蛇神のやうに過ぎ来つるは、我が悲みを悲とせで偏に君が歓喜よろこびを我が歓喜とすればなるを
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
少年こども歓喜よろこびが詩であるならば、少年こども悲哀かなしみもまた詩である。自然の心に宿る歓喜よろこびにしてもし歌うべくんば、自然の心にささやく悲哀かなしみもまた歌うべきであろう。
少年の悲哀 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
部屋にはそういうものから来る一種の匂いが漂うて、涼しい風が疲れた産婦の顔に、心地よげに当った。笹村の胸にもさしあたり軽い歓喜よろこびの情が動いていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
韓蘇紫兼かんそしけんの筆恐くは田夫野老の舌に及ばざらん、又他の一例を引んに、後醍醐天皇新田義貞に勾当こうとうの内侍を賜わる、義貞歓喜よろこびの余り「さればねとのおおせかや」
松の操美人の生埋:01 序 (新字新仮名) / 宇田川文海(著)
しかし悲喜哀歓は実にこの手の裏表も同じこと、歓喜よろこびの後には必ず悲しみが控えているが世の中の習わし。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
はずみに乗せられて貫一は思はずうくるとひとし盈々なみなみそそがれて、下にも置れず一口附くるを見たる満枝が歓喜よろこび
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこで王子おうじは、ラプンツェルをれて、くにかえりましたが、くに人々ひとびとは、大変たいへん歓喜よろこびで、この二人ふたりむかえました。その二人ふたりは、ながあいだむつまじく、幸福こうふくに、くらしました。
他人ひとのためにもなる光明ひかり歓喜よろこびにあふれたものになって来るのであります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
栄三郎は、つと身も世もない歓喜よろこびが背筋を走るのを覚えつつ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
田舎はさびしい。人がえ家が殖えるのは、田舎の歓喜よろこびである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
君が家に充てる歓喜よろこびあれば、人に老は来らじ
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
そして空の静かな歓喜よろこびに蝋燭を立てつづけて
響なきいとを弾ずる歓喜よろこびばち疲労つかれ
舞ひたつ疾風はやち歓喜よろこび空をりて
と、浪路は、歓喜よろこび戦慄せんりつして
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
幸福しあわせ歓喜よろこび、唄、微笑わらい
歓喜よろこびあれよさちあれよ
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その寂しい月日が長かっただけ、心を苦めることが多かっただけ、それだけ胸に満ちる歓喜よろこびも大きなもののように思って来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お島はやっと胸一杯に安心と歓喜よろこびとのあふれて来るのを感じたが、矢張やっぱり声をかける気になれなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
青年の顔には、悲しみのうちにも、包み切れない歓喜よろこびが、潮のようにさして来るのでした。
天才兄妹 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
もし我エルサレムをわがすべての歓喜よろこびきょくとなさずば
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そのことを知らせた時には一同歓喜よろこびの声を上げた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
そこで私たちに、希望のぞみ歓喜よろこびの光が照り出します。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まことに君ときみが家には歓喜よろこび多くあり
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
満腔の歓喜よろこび高く
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして、その存在を語っていた。寂しい夕方の道を友達と一緒に寄宿舎へ引返して行った時は、言いあらわし難い歓喜よろこびが捨吉の胸に満ちて来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
雨戸を開けると、一パイに春のが、歓喜よろこびと希望とを惜し気もなく家中にみなぎらせます。
あまりにこの光明の殊妙なのに歓喜よろこびとどめあえず
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お志保は酒瓶てうしを持添へて勧めた。歓喜よろこび哀傷かなしみとが一緒になつて小な胸の中を往来するといふことは、其白い、優しい手のふるへるのを見ても知れた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「悲しみこそ、真の歓喜よろこびへの前奏曲である」とかつて私は書いた。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
しかし、捨吉がその歓喜よろこびを感じ得る頃は、やがて何等の目的めあてもない旅に上ろうとしている時であった。青木も心配して、菅と連立って、田辺の家に捨吉を見に来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
斯の大祭の歓喜よろこびの中にも、丑松の心を驚かして、突然新しい悲痛かなしみを感ぜさせたことがあつた。といふは、猪子蓮太郎の病気が重くなつたと、ある東京の新聞に出て居たからで。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ほんとうに人一人でも救いたいと考えれば考えるほど、彼は節子の違って来たのを自分の胸に浮べて、その生命いのちの動きからいて来る歓喜よろこびを自分の身に切に感ずるように成った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それほど彼は自分の小さな胸に満ち来る狂気きちがいじみた歓喜よろこびを隠せなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)