よろこ)” の例文
甚兵衛は、華々しい城攻めが近づいて来たことをよろこんだ。しかし伊豆守もまた、兵糧攻めの策を採って、いたく甚兵衛を落胆させた。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あんなことをいって、人をよろこばせておきながら、逃げてしまうのではなかろうか。城太郎は、不安になって、藪の中から首を出した。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よろこんでオギワルのレンゲの所へ治療を受けに行ったが、病気は少しもよくならず、到頭その村の親戚の家で死んだということであった。
南島譚:03 雞 (新字新仮名) / 中島敦(著)
求めて探しても斯様かような親船は無かろうのに、偶然それを発見し得たことの仕合せを、兵馬は雀躍こおどりしてよろこばないわけにはゆきません。
峰の茸を採り終えて、さてこんな場合私の眼をよろこばしめるものは、渓谷深く生い立った松の樹幹とそうして其の葉の色彩である。
茸をたずねる (新字新仮名) / 飯田蛇笏(著)
医者が、モセ嬶の、商人に売って行く山芋が、大変高いものだと思うのも、あきよ嬶のくれた蕨をよろこんだのも、決して無理なことではない。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
もっと多くの人をよろこばせ、もっと多くの人を楽しませたらどんなにいいだろうと思うが、人間の器量は別で、これ以上伸びなければ仕方がない。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
コノール (勝ち誇って)神々は我等と共においでになる! (少し声を低くして、デュアックに向って、よろこばしげに)
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
すると此方こつちで、太陽の下では睡げだつた連中が、ウアハハハツと云つてよろこぶ。その形態たるや彼我相似てゐる。鉄管も管であり、地下鉄道も管である。
散歩生活 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
この頃は我々にも十分納得ゆくようになってよろこびにたえない、と語ったことは現実的な深い内容を暗示した。
みんな助かったという顔つきで、ホッとしたよろこびは、おおいようもなく、その面色にみなぎっているので。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
このあいだ御両親様ごりょうしんさまにもおにかからせていただきましたが、イヤそのときよろこんでよいのやら、またかなしんでよいのやら……現世げんせ気持きもちとはまた格別かくべつでござりました……。
ちょうど、子を持って、はじめて子を持つことの悩み、よろこびがわかるように、私どもは子をもって、親の恩を知ると同時に、子の恩をも知ることができるのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
四季のお便りに、いつもお元気の体を拝察してよろこばしく存じておりましたが、いつもご健勝で何より。その節はいろいろとお世話に相成りまして有難うございました。
子供たちは鬼ごっこで無中になったが、なかで一番大童おおわらわなのが校長秋山先生だった。先生は運動場をもったことと、子供たちがよろこぶのとでよろこびが二倍であったと見える。
貧を厭い富をよろこぶの念を今少し緩くするか、もしくはこれを放下しさえすれば、幸福を生じ、もしくは幸福であり得るものを、貧即不幸福の俗見に囚わるることのはなはだしい為に
貧富幸不幸 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その意味において彼を一の贖罪者と言おうとするなら、われ等もよろこんでこれに左袒さたんする……。
これが泉鏡花いずみきょうかの小説だと、任侠にんきょうよろこぶべき芸者か何かに、退治たいじられる奴だがと思っていた。しかしまた現代の日本橋は、とうてい鏡花の小説のように、動きっこはないとも思っていた。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
前年除夕の作に「不材空愧逢昭代。多難猶欣過厄年。」〔不材空シク愧ヅ昭代ニ逢フヲ/多難猶よろこブ厄年ヲユルヲ〕というを見れば、甲辰の年には二十五の厄年やくどしに一歳を加うべきである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし、貧民窟の人々はよろこび勇んで、小踊りしつつ、吸上げられて行く。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
この仕事は少年をよろこばせた。大人に信頼されるといふことは、なんと素晴らしいことだらう。ひよつとすると金井は、この世の中で繁夫を信用してくれた最初の、そして最後の人なのかも知れない。
地獄 (新字旧仮名) / 神西清(著)
婦人の本性を発揮するに至れるは、妾らの大いによろこぶ所なり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
心や目をよろこばしめるものは少しもないからである。
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「おゝ、嬉しい。……」と、山吹がさきがけてよろこんだ。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
得テ年来ノ宿望漸ク将ニ成ラントスルヲよろこビ奮ツテ自ラ其説文ヲ起コシ其図面ヲ描キ拮据きっきょ以テ日ニ其業ニ従ヘリ而シテ其書タル精ヲ極メひらキ以テ本邦今日日新学術ノ精華ヲ万国ニ発揚スルニ足ルベキモノト為サント欲スルニ在ルヲ以テ之ヲス必ズヤ此ニ幾十載ノ星霜ヲ費ス可ク其間日夜孳々しし事ニ之レ従ヒ其精神ヲ抖擻とそうシ其体力ヲ
彼は同乗者が学生であるのをよろこんだ。ことに、自分の母校——とう程の親しみは持っていなかったが——の学生であるのを欣んだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
師匠の応挙は、彼の親元である江戸の狩野善納という貧乏画家へ、その由を、報じたきりで、結局、厄介払いをしたように、よろこんでいた。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、私が部屋を間違えたような風を装って這入って行ったのにもかかわらず、私の顔を見ると、驚きとよろこびとの眼をみはりながら腰を上げた。
孔子のねばり強さもついに諦めねばならなくなった時、子路はほっとした。そうして、師に従ってよろこんで魯の国を立退たちのいた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
充分の好意を披瀝せねばならぬとでも考えたのでしょう、暫くして馬共は、よろこんで二人のために背中を貸しました。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし、支店みっちゃんの方はうまいにはうまいが、旧式立食形なる軒先のきさきの小店で狭小きょうしょうであり、粗末そまつであり紳士向きではない。ただ口福こうふくよろこびを感ずるのみである。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
自分たちの埒外らちがいの分野から同格者を見出みいだしたよろこびをもって尊敬し迎えいれられたことが見のがせない。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今すぐ謎の下手人のわかると聞いて勇みと憎悪に顔色を蒼くしながらよろこばし気にいそいそ起って来る文字若——四人を伴れて、藤吉は、その真下の初太郎の部屋へ降りて来た。
コノール (一人になって、よろこばしそうに)わしは王だ。わしはいい夢を見た。
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
二 書生の恥ぢるのをよろこんだ同船の客の喝采は如何に俗悪を極めてゐたか!
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これは地味な手紙だけれども、丁度この頃の土のように底に暖みを感じているよろこびの手紙なのです。ぶような歓び、又こうやって地べたを眺めるようなよろこび。いろいろね。丁重な挨拶をもって
かくてわれはいかにかして仏蘭西語を学び仏蘭西の地を踏まんとの心を起せしが、さいわいにして今やその望みなかば既に達せられし折柄、あたかもし先生の巴里にきたれるを耳にす。わがよろこたとへんに物なし。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それと同時に、子供の全快はそのまま親の全快です。親と子とは、悲しみを通じて、よろこびを通して、少なくとも二にして一です。子をもって欣ぶのも親心なれば、また子をもって悲しむのも親心です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
よろこんで散りゆくものだ
(新字旧仮名) / 中原中也(著)
すると、昨日の少女が、昨日彼女がうずくまっていたのと同じ場所に蹲っているのを見る。俊寛の胸には、湧き上るようなよろこびが感ぜられる。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
うそもけれんもないところ、お千絵様はあなたにしんかられています。顔だけ見せてあげただけでも、どんなにおよろこびかもしれませんぜ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母は奥から、新しいさら木綿もめんを持って来て、再度生にとせ老人に渡した。老人は、綿入れと褌とで、すっかり温かくなったと言って、よろこんで帰って行った。
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
ア・バイの壁の隙間から一部始終を覗いていた夫のギラ・コシサンは、半ば驚き半ばよろこび、大体に於ておそれ惑うた。
南島譚:02 夫婦 (新字新仮名) / 中島敦(著)
心中のよろこび、たとうる物なく、明治二十年代の子供が「小国民」を買ってもらった時のように、嬉しがって、声高に読み且つ吟じて行くという有様です。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二 書生の恥じるのをよろこんだ同船の客の喝采かっさいは如何に俗悪を極めていたか!
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
友達の訪れを、心待ちにしていたらしい令嬢の路子は、さっぱりした趣味のよいアフタヌーンをて、新子をよろこび迎えてくれた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「大慈悲心を起されました。禅尼にもそれを聞かれたら、どんなにおよろこび遊ばすかしれません。……ではさっそくにも、泉殿へ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
…………独逸を離れて大分航海してから、川の様な狭い海を船がゆっくり進んだ。聖書の中で聞いていた紅海だと教えられ、よろこばしい好奇心で眺めた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ヴィクトル・ユーゴーが初めてエルナニを上演した時に、一派のものは、わざとおででこ芝居を狩り催して、それにエルナニをカリカチアさせてよろこんだ。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
耕作価値が急に所有価値に変り、所有価値が暴騰したために、却って職を失った耕地を持たない小作百姓達は何れにしても土地の発展をよろこんではいなかった。
都会地図の膨脹 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)