うわ)” の例文
見渡す限りはたはたけは黄金色に色づいて、家の裏表にうわっている柿や、栗の樹の葉は黄色になって、ひらひらと秋風に揺れています。
嵐の夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あすこは川添いに柳の木がうわっている、何とかいう旅館の塀の前あたりの柳の根方に、川に面して黒い蹲踞うずくまった男の姿があった。
幽霊を見る人を見る (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
たちばなさかきうわった庭園の白洲しらすを包んで、篝火かがりびが赤々と燃え上ると、不弥の宮人たちは各々手に数枚のかしわの葉を持って白洲の中へ集って来た。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
橋のあったのは、まちを少し離れた処で、堤防どてに松の木が並んでうわっていて、橋のたもとえのきが一本、時雨榎しぐれえのきとかいうのであった。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庭はとてもせまい。さるすべりとと、つげの木が四、五本うわって、離れの塀ぎわにはりゅうのひげが植えてあった。
貸家探し (新字新仮名) / 林芙美子(著)
お島はベンチに腰かけて、だるい時のたつのを待っていた。庭の運動場のまわりうわった桜の葉が、もう大半きばみ枯れて、秋らしい雲が遠くの空に動いていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その家は一間はば位の中庭があったので、天窓ひきまどからのような光線が上から投げかけられ、そこにうわった植木だけが青々と光っていて、かえって店の中の方が薄っ暗かった。
冗談でしょう。この人の盛上った海岸に、抜身の匕首が、それもたてにうわっていた、というんですか、はははは、——そして、あんなに見事に、心臓をつき抜くほど、体を
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
まぁあなたがたにわかりやすいためには、東京とうきよう銀座ぎんざそのほか街路樹がいろじゆうわつてゐる商店街しようてんがいの、ふけてさわいでゐたひとも、寢靜ねしづまつたのち月光げつこうおもうかべてればよからうとおもひます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
高台いっぱいにうわっている桜の樹蔭には、そのために警察分署、旅館などの設けがあり、それを中心に小・公学校、蕃産品交易所、茶店などが小さな内地人部落を形づくっている。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
そうして柳の木のうわっている大通りからにぎやかな往来まで歩いてすぐ電車へ乗った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、それは中庭といっても、狭苦しくって、樹木なんぞは一本もうわっていず、ただ空箱の上に一鉢ひとはちの菊が置かれてあるっきりだった。しかもそれすらきたならしく枯れたまんまだった。……
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
横が石の道で、左手の窓際にも木や草花がうわつて居る。欄干てすりの附いた石段が二つある。この二つのあがり口のあひだが半円形に突き出て居て、右と左の曲り目に二つの窓が一階ごとに附けられてある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
左の建物の壁の根に、三つ股になつた、ひよろ/\の低い無花果の木が、上の方に僅かの小さい若芽を附けて、置き忘れられたやうに乏しくこゞまつてゐる外には、何のうわつてゐるものもない。
女の子 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
半蔵御門はんぞうごもんより外桜田そとさくらだの堀あるいはまた日比谷ひびや馬場先ばばさき和田倉わだくら御門外ごもんそとへかけての堀端ほりばたには一斉に柳がうわっていて処々に水撒みずまきの車が片寄せてある。この柳は恐らく明治になってから植えたものであろう。
銀座に柳のうわつてゐた、汁粉屋しるこやの代りにカフエのえない、もつと一体に落ち着いてゐた、——あなたもきつと知つてゐるでせう、云はば麦稈帽むぎわらばうはかぶつてゐても、薄羽織を着てゐた東京なのです。
山「彼処あすこの山の上の柱が二本ある枳殻きこくうわってあるれか」
「いえ、きりの木が十二本ほどうわっています」
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
見ると、小さな露台があって、瀬戸の大鉢に松がうわっています。一本松ではありません、何とかいう待合、同業のうちだった。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見たところ芋のうわっている平凡な畑だったが、周囲にけやきや杉の森があり近くに人家のないのが、怒るとき大きな声を出す私には好都合だと思った。
睡蓮 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「あの木は村の鬼門にうわっている木で昔からある木でげす……。」と按摩は言った。私は何んだかぞっとして
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お島は庭木のどっさりうわっている母屋の方の庭から、附近に散かっている二三箇所の持地を、小野田と一緒に見廻りながら、五百坪ばかりの細長い地所へ小野田を連れて行って言った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
町内の両側にやなぎうわって、柳のえだるい影を往来の中へおとしている。少し散歩でもしよう。北へ登って町のはずれへ出ると、左に大きな門があって、門の突き当りがお寺で、左右が妓楼ぎろうである。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
りゅうひげの石垣のがけになる、片隅に山吹やまぶきがあって、こんもりした躑躅つつじが並んでうわっていて、垣どなりのが、ちらちらとくほどに二、三輪咲残さきのこった……その茂った葉の、蔭も深くはない低い枝に
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)