とき)” の例文
旧字:
市九郎がしばしの暇をぬすんで、托鉢の行脚に出かけようとすると、洞窟の出口に、思いがけなく一椀のときを見出すことが多くなった。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「おそらくは、由緒あるお山のご高徳でいらせられましょう。ぜひ、一せきのおときなと差上げて、ご法話でも伺いたいと申されますが」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋壑はまたある時、千人の僧にときをした。僧は皆集まってきてその数が既に満ちた。ぼろぼろになった法衣を着た道士がその後からきた。
緑衣人伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
又市は幸いにして膏薬を貼って此のいえに逗留して居る間は、惠梅比丘尼は方々へときに頼まれて参り、種々いろ/\な因縁話を致しまして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「へい、これは菊弥お坊ちゃまで。……これでございますか、これは『飯食い地蔵様』へお供えする昼のおときでございますよ」
鸚鵡蔵代首伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が、なにぶんにも、時代も素姓も知れぬ濡れ仏で、折々のときを献ずる者はおろか、涎掛よだれかけの寄進に付く者もないという哀れな有様だったのです。
「そのくせ、淵の鯉は、ときの鐘を聴いてもこの頃は集って来んようだ。わしは気を付けて行って見るが確かにそうだ」
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
七日経て王また来りときを設くると諸虎も僧徒と共に至る、食を与え布を解きやるとその後害を成さず
それからまた五、六日の後、村民のときに呼ばれて、寺中の僧は朝からみな出てゆくと、その留守の間にかの土龍の姿が見えなくなったので、人びとはまた驚かされた。
「はい。朝のおときいただかずに駆けだしてまいりましたゆえ、少しおなかがひもじゅうなりました」
堀部安兵衛も同宿の毛利小平太、横川勘平を代表して、その席につらなった。で、ひととおり読経と焼香しょうこうがすんだ後、白銀三枚を包んで寺僧にいたして、一同別席でおときについた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
していても、それが新仏さまの成変りだといっておときをあげて帰すのがここの風なんです。……だから、新仏といったっていろいろですわ。郵便配達だったり、箕直しだったり……
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そこで硯をそこへ置いて薪割りにいった、薪割りが済むとなにかまた用を思いだす、お勤めだとかときだとか、まあいろいろあるでしょう、檀家だんかの客があるとか、本堂へ呼ばれるとかね
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
杢若がその怪しげなる蜘蛛くもの巣を拡げている、この鳥居の向うの隅、以前医師いしゃの邸の裏門のあった処に、むかし番太郎と言って、町内の走り使人つかいとき、非時の振廻ふれまわり、香奠こうでんがえしの配歩行くばりある
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
同胞はらからめきときに就き
ときは一とき。やがて般若湯はんにゃとう(酒)もすっかり廻ると、また祭壇へ出て宵のお経。また休息、またお経。明け方ぢかくまでそれがつづく。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さりとてうっちゃって置けもせず、干乾しにしちゃア可哀そうだと、おまんまだけはおときのつもりで、三度三度供えてやってるのさ
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それでは、わしはこれから往くからな」と、僧はあたりにいる人びとの顔を一わたり見て、ときにあずかった礼を云って、「どうぞ殺生しないようにな」
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
汝は己の真実の妹だとはいい兼て居り、尼が本堂へ往けば、お熊比丘尼のあとに附いて参り、墓場へ往けば墓場へ附いて往く、ときが有ればお供を致しましょうと出て参り
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その五両を投出して、その晩のときに、ガラッ八が加わったことは言うまでもありません。
「いや、どうも近ごろにないけっこうな修行をいたしました。事のついでにと申しては無心がましゅうて恐れ入るが、ちょうどおときのころじゃ。夕食ご造作ぞうさにはあずかれまいかな」
「ふふ、大したシケ方だ。よしねえ、坊主がときにつきァしめえし、殊勝な面をするな」
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ややもすれば神輿じんよを振り立てて暴れ出す延暦寺の山法師どもも、この頃はおとなしくときの味噌汁をすすって経を読んでいるらしい。長巻ながまきのひかりも高足駄の音も都の人の夢を驚かさなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人の世の果敢無はかなさ、久遠くおん涅槃ねはん、その架け橋に、わたしは奇しくもいこい度い……さあ、もう何も言わないでね。だいぶ暗くなったから、燈でもつけて、それからおときでもお隣の聖におあげなさい
或る秋の紫式部 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼は秋の朝の光の輝く、山国川の清冽せいれつな流れを右に見ながら、三口から仏坂の山道を越えて、昼近き頃樋田ひだの駅に着いた。淋しい駅で昼食のときにありついた後、再び山国谷やまくにだにに添うて南を指した。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
肩がわりの念入りで、丸太棒まるたんぼうかつぎ出しますに。——丸太棒めら、丸太棒を押立おったてて、ごろうじませい、あすこにとぐろを巻いていますだ。あのさきへ矢羽根をつけると、掘立普請のときが出るだね。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや隣りの化物屋敷で、まこと酷い目に逢いましたよ。これが化物、ままごと狂女の、お浦という奴にときをやろうと、膳を
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その池田勝入も、今夜の席に、居ることは居るが、こよいは亡君のおとき賜膳しぜんである。酔うには酔うても、まさか槍踊りというわけにもゆくまい。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天竜院において立派に法事を営み、親方の養子夫婦は勿論兄弟弟子一同を天竜院へ招待しょうだいしてときふるまい、万事とゞこおりなく相済みまして、呼ばれて来た人々は残らず帰りましたから
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「この上夜のお勤めに加わる方はありませんか。ときの料は五両ですが、それがみんな、お困りの方の救い米になります。その功徳によって、一夜安楽浄土の姿がまざまざと見られます」
許宣も本堂の前で香をくゆらし、紙馬紙銭しばしせんを焼き、赤い蝋燭ろうそくに灯をともしなどして両親の冥福を祈った。そして、寺の本堂へ往き、客堂へあがってときい、寺への布施もすんだので山をおりた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「あたし、失礼するわ。年忌ねんきのおときなんか、まっぴらよ」
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「それがくまという名の人じゃやら、けだもののくまじゃやらわかりませぬゆえ、毎朝おときのおりにいっしょうけんめい如来にょらいさまにもお尋ねするのだけれど、どうしたことやら、阿弥陀あみださまはなんともおっしゃってくださりませぬ」
ときの食後、腹痛を起したとか称し、僧三名のうち二名だけその日に帰って、一名だけが山路の陣中に泊まりました。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、純八は座敷へ請じて、茶を淹れときを進めたりして、ねんごろに僧を待遇したが
高島異誌 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
えゝてめえがぎゃア/\騒ぎ立てるから彼処あすこうちにもられず、急ぐ旅ではなし、彼処に泊って彼処の物を喰って居て、おときに出て貰った物がたまれば、あとの旅をするにもい、後の旅が楽じゃア
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
許宣も本堂の前で香をくゆらし、紙馬しば紙銭しせんを焼き、赤い蝋燭に灯をともしなどして、両親の冥福を祈った。そして、寺の本堂へ往き、客堂へあがってときい、寺への布施ふせもすんだので山をおりた。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
晩には雲堂うんどう大饗たいきょうときの馳走)が行われた。趙の長者から祝いの品々や心づけが端から端まで配られた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それよりお前こそお隣りさんへ行って、化物へおときでも供えて来な」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「今晩は好い点心てんしんにありついた、ときはいらないぞ」
太虚司法伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「いや何、石念じゃくねんのことだが……石念は夕餉ゆうげのときに、皆と共に、ときの膳についていたろうか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丹羽、滝川、池田、蜂屋、細川、蒲生がもう、筒井など順次に拝儀は終った。——そして人と席とはそのまま、この夜——故信忠卿の御簾中ごれんちゅうより被下くださる——とあるおときへ移って酒宴となった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「夕のおときをさしあげましょうか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)