排斥はいせき)” の例文
人間からは、不信と排斥はいせきと侮辱とのみしか期待することの出來ない私は、親を慕ふ小兒のやうななつかしさを籠めて、自然に寄り縋つた。
興味も熱心も希望ももっていない——えたる犬の食を求むるごとくにただただ詩を求め探している詩人は極力排斥はいせきすべきである。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
廿世紀の写実とは、あるいは概念の肉化にあるのかも知れませんし、一概に、甘い大げさな形容詞を排斥はいせきするのも当るまいと思います。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それゆゑ二階にかいあるひ三階さんがい居合ゐあはせたひとが、階下かいかとほることの危險きけんおかしてまで屋外おくがいさうとする不見識ふけんしき行動こうどう排斥はいせきすべきである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
近来、日本のゲーム界に君臨くんりんしている麻雀マージャンにも、いろいろとインチキが可能ポッシブルである。日本麻雀聯盟でも、無論、インチキを排斥はいせきしている。
麻雀インチキ物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
よし存在してもすぐ他から排斥はいせきされつぶされるにきまっているからです。私はあなたがたが自由にあらん事を切望するものであります。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれど、徹底的に真実と率直と正義とを求める私としては、人のものを盗むなどいうことを徹底的に排斥はいせきしもするし無論盗みなんかしない。
そうしてお国をおもんじると同程度で他府県人を排斥はいせきします。余所よそものという一種の軽侮を含んだ言葉が出来ています。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その意味でマルクス主義のように、初めから真理を階級的だと決めてかかる態度は排斥はいせきしなければならぬ。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
さびしくあるひかなしい氣持きもちになつたときに、はじめてほんとうの自分じぶんといふものをかんがへてるものです。だからかういふうたも、あながちに排斥はいせきすることは出來できません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
君の妖怪を論ずるや、一も偽怪、二も偽怪として排斥はいせきし、世に妖怪なきがごとく唱うるようなれども、また真怪あるがごとく談じ、前後矛盾するようではないか。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
さて、女の酔っぱらいを醜態の極として、日ごろ、排斥はいせきはしていながら、こうして見ると、やはり一種の同情が、兵馬の胸には起るのを禁ずることができません。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いつか、島内君の時もそうだったけれども、飛山君は可哀そうに今この村の人に排斥はいせきされているのだ。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
この長老がたまたま、家の印としてひょうの爪をつ・最も有力な家柄の者だったので、この老人の説は全長老の支持する所となった。彼等は秘かにシャクの排斥はいせきたくらんだ。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
極月の月光は曖昧の朧気おぼろげを潔癖性のように排斥はいせきするので、天地は真空ほどにも浄まっています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
……それほどの名人の泉嘉門だ! 誰だ! 嫌って排斥はいせきするのは! ……ハッハッハッ、怒ってはいけない。浮世はこうしたものだからなあ。ともかく盃をいただきましょう
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
宣教師排斥はいせきが一の流行になった時代にしょして、いからず乱れず始終一貫同志社にあって日本人の為に尽し、「吾生涯即吾遺言也」との訣辞けつじを残して、先年終に米国にかれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
まもなくブラドンの態度が一変してなんら妻の死をいたむようすがなくなったので、クロスレイ家の人々は、それをひどく不愉快に思って、排斥はいせきの末、彼を下宿から追い出すにいたった。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
恋の叶わないで死ぬのは馬車へ乗れないで憤死するのと少しも変った事はない。恋愛という事は人の我儘だ。若い内の罪過だ。動物性の劣情だ。褒めるどころか最も排斥はいせきすべきものだ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
僕が夢を一概に迷信として排斥はいせきすべからずといったのもこれがためである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
暗々裡あんあんりにツァンニー・ケンボを排斥はいせきするの動機が広く現われて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「それで阪井の親父おやじが校長排斥はいせきをやったんだ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ちり積って山をなすと云うから、微々たる一生徒も多勢たぜい聚合しゅうごうするとあなどるべからざる団体となって、排斥はいせき運動やストライキをしでかすかも知れない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
換言すれば、諸君のかつて排斥はいせきしたところの詩人の堕落だらくをふたたび繰返さんとしつつあるようなことはないか。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
前よりも幾らかやさしかつた、——宛も、單なる冷淡さではどれ位まつたく私が排斥はいせきされ、呪はれてゐるかを十分に思ひ知らないことを恐れてゐるかのやうに
僕はそんな莫迦気ばかげたことがと排斥はいせきしていたのが、そもそも大間違いではなかったかと考え直し、それからもう一度一切の整理をやり返すと、始めてすこし事情が判って来た。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私とてもその頃はまだ、別にこれという団体に属しているのでもなく、真剣な運動に携わったこともないので、別にこれを軽蔑けいべつしもしなければ、排斥はいせきしようという気にならなかった。
あらゆる不合理の迷信を排斥はいせきしている科学文明! それが現代の社会である。スタイナッハの若返り法さえ、怪しくなった今日である。天保時代の人間が、活きていようとは思われない。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
売る者は売れ、俺等おいらは売らぬ、とまして居た反対がわの人達も、流石さすがおこり出した。腰弁当、提灯持参、草鞋わらじがけの運動がはじまった。村会に向って、墓地ぼち排斥はいせきの決議を促す申請書を出す。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
きょうでは暴民の凌辱りょうじょくを受けようとし、宋では姦臣かんしん迫害はくがいい、ではまた兇漢きょうかん襲撃しゅうげきを受ける。諸侯の敬遠と御用ごよう学者の嫉視と政治家連の排斥はいせきとが、孔子を待ち受けていたもののすべてである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
社会から排斥はいせきされている。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そういう趣味ならば、すくなくとも私にとっては極力排斥はいせきすべき趣味である。一事は万事である。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
ただ漢人はこれをごまかし飾ることを知り、我々はそれを知らぬだけだ、と。漢初以来の骨肉こつにくあいむ内乱や功臣連の排斥はいせき擠陥せいかんの跡を例に引いてこう言われたとき、李陵はほとんど返す言葉に窮した。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
宜道ぎだうにさうふと、宜道ぎだうは一も二もなく宗助そうすけかんがへ排斥はいせきした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)