按排あんばい)” の例文
甲に拠るか、乙をさぐるか、時代の先後によるか、その採択に迷う場合もしばしばあったが、それは編者が随意に按排あんばいすることにした。
中国怪奇小説集:01 凡例 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかしもう日本全国をあらかた遍歴して見たが、敵はなかなか見附からない。この按排あんばいでは我々が本意を遂げるのは、いつの事か分らない。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
目付でも、鼻付でも、毛並でも、足並でも、みんな違う。ひげの張り具合から耳の立ち按排あんばい尻尾しっぽの垂れ加減に至るまで同じものは一つもない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三十分も経つたころは、もう向うの空にはけろりとした按排あんばい瑠璃るり色のところが見え出して居る、さういふこともあつた。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
此の按排あんばいじゃ、しまいには雷にでも打たれて死ぬのだろう。自分で骨を折って音なしくしても、運が悪いのだから仕方がない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それから僕は北沢家に出張して現場げんじょうの模様をしらべ、なお、遺書の上の血痕をしらべたが、人工的に按排あんばいされた形跡は一つも発見することが出来なかった。
闘争 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
自然を歪める丘陵の曲線と、注意深い光線の按排あんばいと、草木そうもく岩石の配置とによって、巧みに人工の跡をかくして、思うがままに自然の距離を伸縮したのだ。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
身辺にある色々の物及びおこる様々の現象について、偏見と伝統を離れた自由な考察をして、それを無理なく按排あんばいし順序をつけて考えを進めて行くというのが
科学と文化 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「気が張っておりますから、大したことはございません、——でもいい按排あんばいでございました。今頃まで愚図愚図ぐずぐずしていたら、どんな事になったかわかりません」
十年の月日はまだ銀座の通りにある円柱と円窓とを按排あんばいした古風な煉瓦造の二階建の家屋を変えなかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……いい按排あんばいにそれの遠吠えは今日は案外短くて済んだと思つた犬は、今度は二疋で、くんくんと鼻を鳴らし出して居た。これは彼等の夕飯の催促なのであつた。
すると男は「ああいいとも」と楊子ようじで歯をつつきながら立ち上って来て、私の後の障子を少しあけて外を見た。そして、「だが、いい按排あんばいに雨が止んだようだな」
肩つきの按排あんばいは西洋婦人のように肉附がくってしかもなだらかで、眼は少し眠むいような風の
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
初めの五帝本紀ごていほんぎから夏殷周秦かいんしゅうしん本紀あたりまでは、彼も、材料を按排あんばいして記述の正確厳密を期する一人の技師に過ぎなかったのだが、始皇帝を経て、項羽こうう本紀にはいるころから
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
私は是非こうと決心した、その夜は森の匂いよりも、川瀬のたぎる水音よりも、私の官能は、あの大岩壁の幾重にも乱れ合う拒絶の線の、美しさと怖ろしさを按排あんばいした中へ
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
お悦が膳の上を按排あんばいしながら、これを聞くと、眉をひそめた。八郎の顔色が思い遣られる。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
又更に物質上の整理、経済上の種種しゆ/″\の用意、幸福と歓喜とのみなもとである家政を好く按排あんばいする等の為に熟達した機敏をつて居る事も、この階級を除いて何処いづくに発見せられるでせうか。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
適度に私に向つて投げる流し目、その荒々しい壁への迫力、かすれたやうな掛声——私はこれほど巧みに計算し按排あんばいされた生理的憎悪の挑発法を、あとにもさきにも見たことがない。
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
その代わり奴隷みたいなもので、反逆もしない! で、その結果は、ただ共同宿舎の煉瓦れんがを積んだり、廊下や部屋の間取を按排あんばいしたり、それだけのものに簡略されてしまった! しかし
ジャンは歩調を按排あんばいしながら、器用な手捌きで前へ前へと刈りこんで行った。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
政吉 ここまではいい按排あんばいに逃げ終せたが、まだ安心は出来やしねえ。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
夫人は財布を出して、言はれるだけの金額たかを払つた。その金は基督教信者クリスチヤンの森村市左衛門氏が、聖書に書いてある事と、書いてない事とを巧く按排あんばいして商売するので儲かつた金の一部分であつた。
『ハア、怎うも。……それでゐて恁う、始終何か喰べて見たい樣な氣がしまして、一日口按排あんばいが惡う御座いましてね。』とお柳もはだかつた襟を合せ、片寄せた煙草盆などを醫師の前に直したりする。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
小栓しょうせん、お前は起きないでいい。店はお母さんがいい按排あんばいにする」
(新字新仮名) / 魯迅(著)
やがて表にいるだれかと話しているような按排あんばいでございました。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
どうぞ、君、こん度はそんな按排あんばいに願いたいですな。
李克用は筵席えんせき按排あんばいして親友や知人を招いていた。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あの按排あんばいでは自殺の一日前でも、腐爛目の隣を逃げ出したに違ない。それなら万事こう几帳面きちょうめんに段落をつけるかと思うと、そうでないから困る。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
決定すること。第二は現場及び遺書の血痕が自然のものか、又は人工的に按排あんばいされた形跡があるか否や、第三はピストルが、どれほどの距離で発射されたかと言うのです
闘争 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
仮髪に手をかけても泰然として眠っている。仮髪を取外しても自若じじゃくとして舟を漕いでいる。此の按排あんばいでは一つ位打擲ぶんなぐっても平気の平左衛門だろう。校長の頭顱あたまは丸薬鑵だ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
芙蓉ふよう、古木の高野槇かうやまき、山茶花、萩、蘭の鉢、大きな自然石、むくむくと盛上つた青苔あをごけ枝垂桜しだれざくら、黒竹、常夏とこなつ花柘榴はなざくろの大木、それに水の近くには鳶尾いちはつ、其他のものが、程よく按排あんばいされ
広いチャペルの左右には幾つかの長方形の窓框まどわく按排あんばいして、更に太い線にまとめた大きな窓がある。その一方の摺硝子すりガラスは白く午後の日に光って、いかにも岡の上にある夏期学校の思をさせた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かかるあいだに卓上の按排あんばい備わりて人々またその席につくや、童子ボーイぎめぐる麦酒ビールあわいまだ消えざるを一斉にげて二郎が前途を祝しぬ。儀式はこれにて終わり倶楽部の血はこれより沸かんとす。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「ふん、なるほど湿気てるね、そんな按排あんばいでいいのかい?」
李克用は筵席えんせき按排あんばいして親友や知人を招いていた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
毎日毎日そんな按排あんばいでございましたの。
原さんはここに至って、胡坐あぐらくずして尻を宙に上げかけた。自分はどうしても落第しそうな按排あんばいである。大いに困った。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
教会堂の様式と学校風の意匠とを按排あんばいしてそれを外部に直立した赤煉瓦の煙筒に結びつけたかのような灰色な木造の校堂の側面、あだかも殖民地の村落のように三棟並んだ亜米利加人の教授の住宅
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あなたの信仰はこの頃どんな按排あんばいです」
この按排あんばいなら今までのように、6690
しかもその九個が整然と同距離に按排あんばいされて、あたかも人造のねりものと見違えらるるに至ってはもとより天下の逸品いっぴんをもって許さざるを得ない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうですか、そりゃ好い按排あんばいでした。実はどうかと思って心配していたんですが。その代り人間はたしかだそうです。浅井が受合って行ったんですから」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
カーライルの歿後は有志家の発起ほっきで彼の生前使用したる器物調度図書典籍をあつめてこれを各室に按排あんばい好事こうずのものにはいつでも縦覧じゅうらんせしむる便宜べんぎさえはかられた。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
紫でちょっと切れた図面が、二三寸の間隔をとって、振り返る男のたいのこなし具合で、うまい按排あんばいにつながれている。不即不離ふそくふりとはこの刹那せつなの有様を形容すべき言葉と思う。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その課目の数やその按排あんばいの順は皆文部省が制定するのだから各担任の教師は委託をうけたる学問をその時間の範囲内において出来得る限りの力を尽すべきが至当と云わねばならぬ。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あっちをゆるめるとこっちが釣れると云う按排あんばいで、乱れた頭はどうあってもほどけない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
撓り按排あんばいが実に美的である。首がかかってふわふわするところを想像して見ると嬉しくてたまらん。是非やる事にしようと思ったが、もし東風とうふうが来て待っていると気の毒だと考え出した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「うむ、動かばこそと云ったような按排あんばいじゃないか。こう云う風に」と四角な肩をいとど四角にして、いた方の手に栄螺さざえの親類をつくりながら、いささか我も動かばこその姿勢を見せる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いやこれは夜中やちゅうはなはだ失礼で……実は近頃この界隈かいわいが非常に物騒なので、警察でも非常に厳重に警戒をしますので——ちょうど御門が開いておって、何か出て行ったような按排あんばいでしたから
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
へやの位置が中庭を隔てて向うに大きな二階建の広間を控えているため、空はいつものように広くは限界に落ちなかった。したがって雲の往来ゆききや雨の降り按排あんばいも、一般的にはよく分らなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)