ひか)” の例文
座敷の中央まんなかが、取片付けられるので、何かと思つたら、年長としかさな芸妓が三人三味線をひかへて入口の方に列んだ。市子が立つて踊が始まる。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ただしアプレウスの書に無花果いちじくの一種能く屁放らしむるを婦女避けて食わずとあれば、婦女はなるべくひかえ慎んだらしいとあって
いやいやかれに限つては、乃公を真底主人ぞと、あがむればこそ、勝気のかれが、もの数さへにいひかねて、ひかえ目がちの、涙多。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
と逃げもすれば殴飛はりとばす勢いで、市四郎は拳を固めてひかえて居ます。松五郎お瀧の両人は多勢に云いまくられ、何も云わず差俯向さしうつむいて居ました処へ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その横に小机をひかえて上品な白髪の老人が一人坐っています。その人の事をさにわというのだと聞きました。いわば審判官みたいな役だろうと思いました。
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
そうして客は端然として竿先を見ているのです。船頭は客よりも後ろの次のにいまして、丁度お供のような形に、先ずは少し右舷うげんによってひかえております。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
やがて二頭曳にとうびきの馬車のとどろきが聞えると思うと、その内に手綱たづなひかえさせて、緩々ゆるゆるお乗込になっている殿様と奥様、物慣ものなれない僕たちの眼にはよほど豪気ごうぎに見えたんです。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
病氣を隱蔽する者が多いため、巡査は夜中に村を巡つて村民のかはや通ひに注意し出したので、靴の音がすると、誰れでも便所へ行くのをさへひかへるといふ噂さへ起つた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
ひか地内ちない狭少につき、近隣村々へ年々運上金差し出し、草場借り受け、あるいは一里二里にも及ぶ遠方馬足も相立たざる嶮岨へ罷り越し、ささ刈り、背負い、持ち運び等仕り
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ぎしこゝろはづかしや、まよひたりお姿すがたいままほしゝとがれば、モシとひかへらるゝたもとさきれぞオヽ松野まつのなんとして此所こゝへは何時いつにとことば有哉無哉うやむや支離滅裂しりめつれつ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今一度お勢のそでひかえて打附うちつけに掻口説かきくどく外、他に仕方もないが、しかし、今の如くに、こう齟齬くいちがッていては言ったとて聴きもすまいし、また毛を吹いてきずを求めるようではと思えば
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
……そうはらえると、銅提ひさげが新たに榾火ほたびから取下ろされて、赤膚焼あかはだやきの大湯呑ゆのみにとろりとした液体が満たされたのを片手にひかえて、折からどうと杉戸をゆるがせた吹雪ふぶきの音を虚空こくうに聴き澄ましながら
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
意外に打れたる貫一ははしひかへて女の顔をたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
木場をひかえているだけにすることがまた格別だ。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
ポセードーンはこれがためあらはの救助さしひか
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
惣「えゝたしかお次にひかえ居りましょう、かみのお使つかいでございますから、紅葉の方へ案内致しまして、一献出しますように膳の支度をいたして居ります」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ひよつと夕飯までに帰らなんだら、少し御飯ごぜんひかへて喰べとくがよい、腹のすいてる方がおいしいさかいな。
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
それも其筈で、いろいろの経緯いきさつがあった蒲生忠三郎を面前にひかえているのであるから。又蒲生忠三郎氏郷も、何をと云わぬばかりの様子でスイと澄まして居る。これも其筈だ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
……さうはらゑると、銅提ひさげが新たに榾火ほたびから取下ろされて、赤膚焼あかはだやきの大湯呑ゆのみにとろりとした液体が満たされたのを片手にひかへて、折からどうと杉戸をゆるがせた吹雪ふぶきの音を虚空こくうに聴き澄ましながら
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
と法外な雑言ぞうごんを申しますから、恒太郎がこらえかねて拳骨を固めて立かゝろうと致しますを、清兵衛がにらみつけましたから、歯軋はぎしりをしてひかえて居ります。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
九日、朝四時というに起き出でて手あらい口そそぎ、高き杉の樹梢こずえなどは見えわかぬほど霧深き暁の冷やかなるが中を歩みて、寒月子ともども本社に至りきざはしを上りて片隅にひかゆ。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
振り向きて肩後うしろひかへし張箪笥の上より、庄太郎の為には、六韜三略虎の巻たる算盤、うやうやしく取上げて、膝の上に置き、上の桁をカラカラツと一文字に弾きて、エヘント咳払ひ
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
いやしからぬ拵えですから、長二は遠慮して片隅の方にひかえてると、其の男は和尚にざっと挨拶して布施を納め、一二服煙草を呑んで本堂へおまいりに行きました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
末なる煙草盆の、しかも丈夫に、火入れは小さき茶釜形なるをひかへて、主人庄太郎外見ばかりはゆつたりと坐りたれど、心に少しの油断もなきは、そこらジロジロ見廻す眼の色にも知られぬ。
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
庫裏より通り、とある一間に待たされてを正しくしひかえける。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
年寄子供をひかえて軽躁かるはずみな事がなければいがと思って居ます処の、昨日きのう私がとけえねえ……少し家へ来られねえだけれども、逢いてえッて来た様子が誠に案じられますから
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とある一間に待たされて坐を正しくしひかへける。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
いや供は入らんと仰しゃるから、心配しながら皆々ひかえて居ったが、お帰り有ってもとんとお話がないが、何ういう訳ですか、甚だ心配で、山三郎は我々の悪事でも存じて居りますかな
自分は飛鳥山で大藏に恩になって居りますから、片贔屓かたびいきになるようでかえって当人のためにならんからと云って、ひかえ目にして居りますと、秋月の引立で御前体ごぜんてい執成とりなしを致しましたから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
鋏鍛冶金重の宅に居た恭太郎という馬鹿な奴で、先方むこうは奉公中一晩でもお店を明けたことのない頑固かたくねな番頭さんがちゃんとひかえて居りまする所へ掛合いに参ったのでございますから、余程面倒で