悲壮ひそう)” の例文
旧字:悲壯
「むずかしいもんだね。今度でもう十回目だが、私自身でも、いざ新しく塾生をむかえるとなると、やはりちょっと悲壮ひそうな気持ちになるよ。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
余はことに彼ヤイコクが五束いつつかもある鬚髯しゅぜん蓬々ぼうぼうとしてむねれ、素盞雄尊すさのおのみことを見る様な六尺ゆたかな堂々どうどう雄偉ゆうい骨格こっかく悲壮ひそう沈欝ちんうつな其眼光まなざし熟視じゅくしした時
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
博士のことばは悲壮ひそうであった。ところが、たのみに思う山形警部の機械人間は、悄然しょうぜんとして、エレベーターからふたたび姿をあらわしたのである。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わが子の生命に関する重大な実験をもあえてしたかれの悲壮ひそうな気持ちは察するにあまりあります。まかりまちがえば最愛のわが子を殺すことになります。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
今宵こよいこそはと最後の死をけっして、石門せきもん九ヵしょのかためをえ、易水えきすいをわたる荊軻けいかよりはなお悲壮ひそう覚悟かくごをもって、この躑躅つつじさきたちにしのびこんだ竹童であった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを生涯の事業としてかかる自分を人知れぬ悲壮ひそうな幸福を持つ男とし、神秘な運命に掴まれた無名の英雄のように思い、命をけてもやり切ろうという覚悟だった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そうかんがえると、あつなみだが、なかからわいてきました。いつのまにか、このひと徳蔵とくぞうさんとが、おなひとになってしまって、かぎりない悲壮ひそうかんじがいだかれたのであります。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
希臘ギリシャ彫刻ちょうこくで見た、ある姿態ポーゼーのように、髪を後ざまにれ、白蝋はくろうのように白い手を、後へ真直まっすぐらしながら、石段を引ずり上げられる屍体は、確に悲壮ひそう見物みものであった。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
えぐり取ったと云うそれと動機は異なるけれどもその志の悲壮ひそうなことは同じであるそれにしても春琴が彼に求めたものはかくのごときことであったか過日彼女が涙を流して訴えたのは
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何百年来、朝夕を知らせ、非常を告げたお寺のかねさえ鐘楼しょうろうからおろされて戦争にいった。大吉たちがやたら悲壮ひそうがり、いのちをしまなくなったこともやむをえなかったのかもしれぬ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
小野 (意を決したように、悲壮ひそうな顔)石ノ上! 俺は失敬する! 君を見棄みすてるのは忍びないが、俺は気違いと行動を共にするのはまっぴら御免だ! 君がなよたけの唄と聞いているのは
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
悲壮ひそうなさけびの報告。私が、返事をしようとする瞬間に、またしても
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
「何をいかるやいかの——にわかげきする数千突如とつじょとして山くずれ落つ鵯越ひよどりごえ逆落さかおとし、四絃しげんはし撥音ばちおと急雨きゅううの如く、あっと思う間もなく身は悲壮ひそう渦中かちゅうきこまれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「ずいぶん心配していたよ。ここに残っている私たちは、ついに悲壮ひそうなる最後の決心をしたほどだ」
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
悲壮ひそう気持きもちで、もんはいろうとすると、内部ないぶからがやがや人声ひとごえがきこえました。
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
薫の弱い消極的なあきらめが、むしろ悲壮ひそう炎天下えんてんかで薫の顔をあおく白ました。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
合図あいずおこたりないさま、いかにも悲壮ひそうな空気をみなぎらしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は声まで悲壮ひそうにくもらしていった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
見たは見たが、あまりに悲壮ひそうであってとうてい見つづけることはできなくて、おもわず両手で目をおおったほどだ。帆村だけでなく、他の人びとの多くも目をおおった。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして、それがじつに悲壮ひそうなものであったことは、このほど帰還きかんした兵士へいしくちからくわしくつたえられたのであります。その兵隊へいたいさんは、おな部隊ぶたいで、徳歳とくぞうさんのことをよくっていました。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれの声は悲壮ひそうだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれの肩をたたいた者は余人よじんならず、『宇宙の女王クィーン』号にのってでかけた探検隊長のサミユル博士だった。その『宇宙の女王』号が、悲壮ひそうなる無電をとちゅうまで打って、消息をたった。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
したには、うみが、悲壮ひそううたをうたって、はてしもなく、うねりうねりつづいていました。かぜは、いて、いていました。少年しょうねんせた、天使てんしは、きたへ、きたへとたびをつづけたのであります。
町の天使 (新字新仮名) / 小川未明(著)
うみうえではとりいていました。なんとなく、悲壮ひそう景色けしきであったのです。
ちょうと怒濤 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いうにいえない悲壮ひそうかんじが、このとき、少年しょうねんむねにわきがりました。
石をのせた車 (新字新仮名) / 小川未明(著)