忖度そんたく)” の例文
先生の博士問題のごときも、これを「奇をてらう」として非難するのは、あまりに自己の卑しい心事をもって他を忖度そんたくし過ぎると思う。
夏目先生の追憶 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
予これを忖度そんたくす〉とは夫子ふうしいいなり、我は自分でっておきながら、何の訳とも分らなんだに夫子よくこれを言いてたとめたので
あなたは信じていてくださるでしょうが、そばの者が何とかいいかげんなことを忖度そんたくして申し上げなかったであろうかと心配です。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
... 忖度そんたくす。なんじの心底こそいやしむべし。』愚僧また問ふ—『さらば既に苦患なし、何とて貴国に宗教はあるぞ?』フルコム答へて—
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
自己の心を標準として他人の心を忖度そんたくするためであって、畢竟ひっきょう、自己がかの誤れるトライチュケ一派の戦争哲学に捉われているからである。
列強環視の中心に在る日本 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
嘗て茶山に「死なぬやまひ」を報じたやうに、今又起行の期し難きをさとつたであらう。其胸臆を忖度そんたくすれば、真に愍むべきである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
雪之丞は、浅間しいものに思って、ゾッと寒気さえ感じたが、お初の方では、相手の気持の忖度そんたくなぞは少しもしなかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
雷同や模倣に由って普通選挙を主張するように解釈する者は、軽浮なる自己を推して他人を忖度そんたくするものだと思います。
婦人も参政権を要求す (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
今は古人の心を忖度そんたくするの必要無之、只此處にては古今東西に通ずる文學の標準(自ら斯く信じ居る標準なり)を以て文學を論評する者に有之候。
歌よみに与ふる書 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
英雄の心事をみだりに忖度そんたくすることは出来ないにしても、此の場合は事に依ると、後者の方が一と際強く彼の行動を促進したのであるかも知れない。
津田はこれだけ云ってあんに相手の様子をうかがった。しかし小林が下を向いているので、彼はまるでその心持の転化作用を忖度そんたくする事ができなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伸子は狭量な佃が腹立たしくなり、一思いに、自分は自分で彼の気持を一々忖度そんたくなどせず、自由に信ずるままに行動してよいのだと思うこともあった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
彼は、このときにおいて、「もう、これまで」と、ひそかな死を独り意中に決したものと、後世、忖度そんたくされている。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし数学で研究される結果を忖度そんたくし得た。また数学として価値のあるような結果を清楚な言葉で表わした。
この上君の内部生活を忖度そんたくしたり揣摩しましたりするのは僕のなしうるところではない。それは不可能であるばかりでなく、君をけがすと同時に僕自身を涜す事だ。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私は、彼の言葉をそのままに聞いているだけで彼の胸のうちをべつだん何も忖度そんたくしてはいないのだというところをすぐにも見せなければいけないと思ったから
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
その素振を見て取つて、信吾は亦自分の心を妹に勝手に忖度そんたくされてる様な気がして、これも黙つて了つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さぞうちたての蕎麥そばのゝしつて、なしつてることだらう。まだそれ勝手かつてだが、かくごと量見りやうけんで、紅葉先生こうえふせんせい人格じんかく品評ひんぺうし、意圖いと忖度そんたくしてはゞからないのは僭越せんゑつである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この子に霊骨あり、久しく蹩躄べつへきの群を厭ふ。衣を振う万里の道、心事いまだ人に語らず。すなわちいまだ人に語らずといえども、忖度そんたくするにあるいはいんあらん。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
其心中の真面目をも忖度そんたくせずして、容易に之に附するに敗徳の名を以てす、無理無法に非ずして何ぞや。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
されど人々の偏見は故意ならぬ所にも甚だ多し。単に人の性質の上より見むも、君子の胸臆は小人の忖度そんたくする能はざる所、英雄の心事また凡人の測知し難き分ならずや。
仏教史家に一言す (新字旧仮名) / 津田左右吉小竹主(著)
そして私がこの日録を発表するのは、批評家の忖度そんたくする作家の意図に対して、作家の側から挑戦するといふやうな意味ではないので、挑戦は別の場所で、別の方法でやります。
思想を忖度そんたくし得ないのも勿論の事では有るが、シカシ菽麦しゅくばくを弁ぜぬ程の痴女子ちじょしでもなければ自家独得の識見をも保着ほうちゃくしている、論事矩ロジックをも保着している、処世の法をも保着している。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
いったい能登守という人は、妖怪変化ようかいへんげを信ずることのない人であるから、あの提灯についてはいかなる解釈を下しているのだろうと、その心持を兵馬は忖度そんたくしてみないでもありません。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私なんぞには忖度そんたくいたし兼ねます事ながら、何か殿にわざと御催促なさりにくいような御事情がおありなさいまするなら、然るべき折を見てなりと、よいように御取りなし下さいまし。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
女は御簾みすの下から重袿の裾のはみ出させ方によって男に想いを送る。男はその裾の模様や色彩によって女の気質や情致を忖度そんたくする。王朝時代の恋ぐらい慾天的なものはまたとあるまい。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
庸三の個人的にらしたかすかな憎悪の言葉が、粉飾ふんしょくと誇張にいろどられたもので、むしろ葉村氏の心持で忖度そんたくされた庸三の憎悪を、彼に代わって彼女に投げつけているようなものであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「僕は君が飛びついて来ると思ったんだ。自分の心持で君を忖度そんたくし過ぎた」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今其てつを蹈んで、無邪気な山人の心を勝手に忖度そんたくし、而も夫をもって自己の不明を弁解するの具に供しようとすることは、真に恥ず可きの至りであるが、この際暫く読者の寛恕かんじょを得て筆を進めたい。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
安田の心中はきっと満足であったろうと私は忖度そんたくする。
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
すると一木が、正造の胸を忖度そんたくするように
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
中篇(忖度そんたく
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
六朝りくちょう時代の技巧を考慮せず、ただ製作家の心理を忖度そんたくしてこの観音の印象を裏づけようとするごときは、無謀な試みに相違ない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
後者とすれば、口調に自分と劉子の関係を忖度そんたくした様なわざとらしさも見えない所がをかしい。やはり前者にちがひあるまい。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
寒生のわたくしがその境界をうかがい知ることを得ぬのは、乞丐こつがいが帝王の襟度きんど忖度そんたくすることを得ぬと同じである。ここにおいてや僭越のそしりが生ずる。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一人でいろいろな忖度そんたくをして恨んでいるという態度がいやで、自分はついほかの人に浮気うわきな心が寄っていくのである。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
今は古人の心を忖度そんたくするの必要無之、ただ此処にては、古今東西に通ずる文学の標準(自らかく信じをる標準なり)を以て文学を論評する者に有之候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
また、時の人々は、彼が平家へ和睦わぼくを申し入れた心理をいぶかしい事として、義仲の心をいろいろに忖度そんたくした。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私がこんな災難さいなんった以上お前も盲目になって欲しいと云う意であったかそこまでは忖度そんたくし難いけれども
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
山川さんがこれを反対に忖度そんたくして、私の議論が専ら資本主義の勃興ぼっこうに伴う社会的変化を顧慮し
互いの忖度そんたくから成立った父の料簡りょうけんは、ただ会話の上で黙認し合う程度に発展しただけであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の獨歩氏が文學以外の色々の事業に野心を抱いてゐた理由を忖度そんたくしようとした事があつた。
硝子窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そして私がこの日録を発表するのは、批評家の忖度そんたくする作家の意図に対して、作家の側から挑戦するというような意味ではないので、挑戦は別の場所で、別の方法でやります。
先生にして我が平生忖度そんたくするところのごとくんば、この稿によって一点霊犀れいさいの相通ずるあるを認めん。我が東上の好機もまたこれによって光明を見るに至らんやも保しがたし。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
奥方のお心持を左様に忖度そんたくしておりました、それのみならず、関ヶ原まであの夜の曲者を追いかけた時に、あれがどうしたものか、途中で何者かのために辻斬られている、その死骸にぶっつかって
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
伐柯其則不遠えをきるそののりとおからず、自心をもって他人を忖度そんたくすべし。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ああこうと忖度そんたくする必要は感じません。
今は古人の心を忖度そんたくするの必要無之、ただここにては古今東西に通ずる文学の標準(自らかく信じ居る標準なり)をもって文学を論評するものに有之候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
夕霧は微笑しながら嫉妬しっとが夫人にいろいろなことを言わせるものであると思った。御息所を対象にしていたろうとはあまりにも不似合いな忖度そんたくであると思ったのである。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)