いや)” の例文
それでも帯取りの池といういやな伝説が残っているもんですから、誰もそこへ行ってさかなを捕る者も無し、泳ぐ者もなかったようでした。
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それが今度死んで、しかも突然に死んだものですから、検視が来るなどという騒ぎになって、近所でもいろいろのいやな噂を立てます。
いやな顔でもされると己もきにくゝなる、うするとついには主従しゅうじゅうの隔てが出来、不和ふなかになるから、女房の良いのを貴様に持たせたいのう
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
牢番等の役儀に対しても、番代銀をエタに交付して自身その役に当る事をいやがり、さらに後には全くその賤役から離れる事になったらしい。
エタ源流考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「もうお願い申すのもこれが最後です。どうぞわたくしにあなたの三枚の切り札の名を教えて下さい。それとも、おいやですか」
それから彼は、低いけれどもいやに落ち着いた声で、自分の寝床の下をいつでも男や女や子供や悪魔の行列が通ると言って、私をぞっとさせた。
剛造の太き眉根まゆねビクリ動きしが、温茶ぬるちやと共に疳癪かんしやくの虫グツとみ込みつ「ぢやア、松島を亭主にすることがいやだと云ふのか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
畢竟ひっきょう私の安心決定けつじょうとは申しながら、その実は私の朋友には正直有為ゆういの君子が多くて、何事を打任せても間違いなどいやな心配はいささかもない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼はこのとき初めて老人の顔を間近に見たのであるが、それが男だか女だか分からないような、一種のいやな感じを受けた。
また、たとい僕が夢うつつであったとしても、こんなにいやというほどたたきつけられて眼を醒まさないという法はない。
ほかの同商売にはそんなことはえようだが、くるわ中のを、こうやって引受けてる、私許うちばかりだからいやじゃあねえか。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ようやく一人前になったばかりの若い人が、〈死〉などということについて考えているのを、聞いているのはいやだ。
嬢様の聟君どころか、う既に社会に落第して居るのだが、いやがられやうが棄てられやうが一向いつかうかまはず平気の平左でつらの皮を厚くして居るのが恐ろしい。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
自分は、いいとしても、お銀様が、それはいやがるにきまっている。そこで兵馬は咄嗟とっさかんにこう言いました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いやにぶくぶくと水ぶくれがして、その体のうちには腐った水がいっぱいに詰まっているように感じられた。
もういやな陰気な商売はやめておしまいなさい。あなたを騎士のうちでもいちばん偉い、みんなの羨望のまとになるような人にしてあげます。あなたは私の恋びとです。
教授が、清く優しいラッパチーニの娘を指して言った言葉の調子が、彼の心にいやな感じをあたえた。
「ホントにいやになつてしまふわ」(八四頁)も同様に眺められる。そのほか、この女は盛んに現代語の甘ったるいところを用いていますが、面倒だから一々は申しません。
中里介山の『大菩薩峠』 (新字新仮名) / 三田村鳶魚(著)
そんなわけで、わたしは彼の教えてくれた道をたどるのがまったくいやになってしまった。
何か虫酸むしずがはしるように、生理的ないやらしさをさえ感じた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
竜之助に此の構をとられると、文之丞はいやでも相青眼。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
なんともいえないいやな心持ちがしますよ。
ああ、こんなことはいやだ……。
「本当でございます。なんだかいやな噂ばかり続くので、気味が悪くってなりません。ゆうべも化け物屋敷に何かありましたそうで……」
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、柱に倚掛よりかゝって碌に弾けやアしませんが、いやアな姿になってポツ/\端唄はうたの稽古か何かを致して居りますうちに、旦那がおいでになります。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ここに至っては真の坊主のみでなく、坊主ならぬただの僧侶達までも、坊主の尊称をもって呼ばれるのをいやがることとなる。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
夫人はようように夜の帽子をかぶって、寝衣ねまきを着たが、こうした服装みなりのほうが年相応によく似合うので、彼女はそんなにいやらしくも、みにくくもなくなった。
ことにこんな奴、だんだんに嫌悪けんおの情の加わってくるこんな人間に、自分の住居を見られるのはいやであった。
今だから告白するが、実を言うと、自分の部屋へはいった時はなんとなくいやな感動に胸をおどらせたのである。
貧乏すれば金を使わない、金が出来れば自分の勝手に使う。人に交わるには出来るけの誠を尽して交わる、ソレでもいやえば交わってれなくてもよろしい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いやなら忌で其れもよう御座んすサ、只だ其のいひぷりしやくさはりまさアネ、——ヘン、軍人はわたしいやです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
併し色が生白なまつちらけて眉毛がチヨロけて眼尻が垂れ、ちつと失礼の云分だがやまと文庫の挿絵の槃特はんどくに何処かてゐた。第一いやな眼付をして生緩なまぬるくちかれるとぞうつと身震が出る。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
ああ、いやな、こうして、わたしは幾月かするうちに、人様に隠せないようになって、自分を穴の中にでも入れておかない限りは、見る人のうわさの的となるに相違ありません。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まずこれが彼の性格の一面で、また最もいやな点である。私がこれを観察したのも、畢竟ひっきょうは現在のごとく、彼とわたしとがにちにち極めて密接の間柄にあったからにほかならない。
彼女は単調な顔をして、臆病そうに仲直りをしようとしたが、私はもう見るのもいやだった。
誰がどう言ったって、家内はもうその家にいるのはいやだという。それも無理はないのだ
「実にどうもいやでしたよ。私はつづけて呼びました。もう見ているのがたまらないので、私は自分の片腕を眼にあてて、片手を最後まで振っていたのですが、やっぱり駄目だめでした」
しかし、あなたを知ってからは、ほかの人たちはいやになったわ……。ああ、綺麗な腕……。なんというまるい、なんという白い腕でしょう。どうしたらこんなに綺麗な青い血管が刺せるでしょう
母様おっかさん塩梅あんばいが悪いし、寝ていらっしゃるじゃありませんか、人がね、宵啼をするッていやがります。不可いけないよ、いやだよ、幾度いくたび言って聞かせるか知れないのに、何故言うことをお聞きでない。」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おつや いやかい。たべないのかい。(これも旅人をみかえる。)この子はやっぱり人みしりをしているんだねえ。じゃあ、もうお寝な。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
長「そんなら駈出さなければ宜うごぜえやすに、わっちも一遍見やしたが、いやな侍で、本当にあんな馬鹿侍は有りゃアしません」
鍛冶屋をいやがったり、竹細工人を嫌うたりする地方のあるのも、一つはこんな事から来ているのかもしれぬ。
かの骸骨をみせていやな心持ちを起こさせないようにするばかりでなく、すべて彼女に不愉快をあたえそうな物は、鏡にうつらない部屋の隅にことごとく移して
一体下等社会の者に附合つきあうことが数寄すきで、出入りの百姓町人は無論むろん穢多えったでも乞食でも颯々さっさつと近づけて、軽蔑もしなければいやがりもせず言葉など至極しごく丁寧でした。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「アヽ、剛さん、——世間からは毒婦と恐れられ、神様からは悪魔といやしめられていや生涯しやうがいを終らねばならんでせうか——私、此の右手を切つててたい様だワ——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
やしきへ帰ると、彼女はいやいやながら自分の用をうけたまわりに来た部屋付きの召使いにむかって、着物はわたし一人で脱ぐからといって、そうそうにそこを立ち去らせてしまった。
骨から肉が浮び出すほどいやになるわい、つべこべと尋ねられもしないお喋りを、井戸へ投げ込まれてまで喋りつづけている声が、地獄の底から迷うて来たもののように耳に残っている
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかも今の私は自分の考えをすべて書きしるす勇気はほとんどない。他日これらのいやな連想をいっさい振り落としたあかつきに再びこれを読んで、わたしはきっと自分の臆病を笑うであろう。
何もかもいやな夢であった昨夜の事件以来、ロバートは寝床を整える勇気はあるまいと想像していたのであったが、案に相違して寝床はきちんと整頓してあるばかりか、非常に潮くさくはあったが
お絹も別にいやな顔をしなかったので、お君は引っ返して鰻屋へ断わりに行った。その帰るのを待ちかねて林之助も帰り支度をした。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)