後世ごせ)” の例文
後世ごせこそ大事なれと、上総かずさから六部に出た老人が、善光寺へ参詣さんけいの途中、浅間山の麓に……といえば、まずその硫黄いおうにおい黒煙くろけぶりが想われる。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今は後世ごせ安楽も左のみ望まじ、火炕くわかうに墜つるも何かあらん、俗に還りて女を叔母より取り返さんと、思ひしことも一度二度ならずありたりき
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
かずならぬ甥めが後世ごせ安楽のために、関白殿が施主せしゅとなって大法要を催さるるとは、御芳志は海山うみやま、それがしお礼の申し上げようもござらぬ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この世の愉楽をわが物としておいでになる時にも後世ごせのことを忘れぬようになさい。私の志す世界へ行っておれば必ずまた逢うことができるのです。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
お若は面白いこともなくて毎日勤行を怠らず後世ごせ安楽を祈っているので、近所ではお若の尼が殊勝けなげなのを感心して、中にはその美しい顔に野心をいだ
ひたすら後世ごせのためにとて、九五五部の大乗経だいじようぎやうをうつしてけるが、九六貝鐘かひがねも聞えぬ荒礒ありそにとどめんもかなし。
少しく後世ごせのことをかたりつゝ我等は斯く魂と雨ときたなまじれるなかをあゆみしづかにわけゆきぬ 一〇〇—一〇二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ここに移り住むまでは、観心寺かんしんじにもいて、また、良人とは道契どうけいのふかい妙心寺の授翁和尚じゅおうおしょうとも親しく、自然、彼女も信仰にあつかったが、有憂無憂うゆうむゆう仏華ぶつげ後世ごせのながめであった。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思はず聲だかに負ましよ負ましよと跡を追ふやうに成りぬ、人波にもまれて買手も眼の眩みし折なれば、現在後世ごせねがひに一昨日來たりし門前も忘れて、簪三本七十五錢と懸直かけねすれば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
靴とくつしたとは汚れ裂けたるまゝなり。後にきて來たるは同じさまに汚れたる衣着たる父母なりき。この父母はおのれ等の信ぜざる後世ごせのために、その一人の童を賣りしなるべし。われ。
此れからはあの御坊の弟子にもなって、有縁うえんの人々の後世ごせ専一と祈ろうよ……
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
後世ごせのほども恐ろし、こんにちこれぎり浮世の望みを捨てん、と二人は腰の刀も熊の毛皮も谷底の火焔かえんに投じて、泣き泣き山寨に帰り、留守番の母に逐一事情を語り、母にもお覚悟のほどを迫れば
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
直ちに後世ごせ御供おんともつかまつるべう候ひしに、性頑冥にして悟り得ず、望みなき世に長生ながらへて斯かる無念をまのあたり見る事のかへすがへすも口惜しう候ふぞや、時頼進んでは君が鴻恩の萬一に答ふる能はず
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
せめては後世ごせを——と悲しくも祈っているのでした。
つくづくと後世ごせのほども案じられてなりませぬわい
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
後世ごせ善所ぜんしよを誰かまた鞭うち揮ひ指ししめす。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
またいにしへ六部等ろくぶら後世ごせ安樂あんらくぐわんかけて
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
後世ごせ安楽あんらくの願かけてめぐ比丘びくらが
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そのことが母君の後世ごせの妨げにもなったような気があそばされて、悲しさが胸に詰まるほどにも思召されるのであるから、大将に触れたことを言うと
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
後世ごせのことはいかがと哀しくはあれど、差当りての世のならいに、かくは仕る、と語った。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
われは罪なき父の霊の、めぐみふかき上帝かみ御側みそばに救い取られしを信じて疑わず、後世ごせ安楽を信じて惑わず、更にって我一身のため、わが一家のため、奮って世と戦わんとするものなり。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
思はずこわだかに負ましよ負ましよと跡を追ふやうに成りぬ、人波にもまれて買手もまなこくらみし折なれば、現在後世ごせねがひに一昨日おとつひ来たりし門前も忘れて、簪三本七十五銭と懸直かけねすれば
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
寺院は淑女法王はその夫なり(地、一九・五五—七及び同一〇六—八註參照)、されどかゝる關係は現世にのみありて後世ごせになし故に昔法王なりきとて我今何ぞ殊更に敬をうくるに足らむ
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
世は長く人の生は短い。その永遠にかけてここの生命を無意義にはさせまい。われら短いはかない者を久遠くおんのながれにつなぎとめて後世ごせ何らかのかがみとなって衆生におう。世をうらむこともない。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫人 前世も後世ごせも要らないが、せめてこうして居とうござんす。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
またいにしへ六部等ろくぶら後世ごせ安楽の願かけて
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
踏歌とうかとか続いてはなやかなことばかりが行なわれていたが中宮は人生の悲哀ばかりを感じておいでになって、後世ごせのための仏勤めに励んでおいでになると
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
おもはずこゑだかにまけましよまけましよとあとふやうにりぬ、人波ひとなみにのまれて買手かひてまなこくらみしをりなれば、現在げんざい後世ごせねがひに一昨日おとつひたりし門前もんぜんわすれて、かんざしほん七十五せん懸直かけねすれば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼は玉藻のために後世ごせを祈ろうとも思っていなかった。畜生にむかって菩提心をおこせと勧めようとも思っていなかった。彼はただ、みくず玉藻たまもとを一つにあつめたその魔女が恋しいのである。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
生きていても、あなたとこの世のご縁はないし、ただ心は日ごと苦しみ、身は不仁ふじんな太師のにえになって、夜々、さいなまれるばかりです。せめて、後世ごせちぎりを楽しみに、冥世あのよへ行って待っております
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後世ごせさいはひ得べき身ぞ
忘れることもない自分の罪のこれが報いであろう、この世でこうした思いがけぬ罰にあっておけば、後世ごせで受けるとがは少し軽くなるかもしれぬなどとお考えになった。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
後世ごせの怖ろしさが思われるのじゃ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せめて後世ごせにだけでも安楽を得たいという希望が次第に大きくなっておりましたが、仏様からそのお許しを得ます日の近づきますためか、病身になってしまいました。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「あまり後世ごせの功徳にもなるめえな」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぎさには風流な小亭しょうていが作ってあり、山手のほうには、渓流けいりゅうに沿った場所に、入道がこもって後世ごせの祈りをする三昧堂さんまいどうがあって、老後のために蓄積してある財物のための倉庫町もある。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
死んで残るこの問題への関心はむろん後世ごせの往生の妨げになるだろうと思っていますが、何かの機会にこの話をあなたは覚えていてくださって六条院へ弁明の労を取ってください。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
このまま死んでは後世ごせさわりになると思いましてね、今でもおりしています
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
自分が知らないままで済んだなら後世ごせまでも罪を負って行かなければならなかったと思う。今まで言ってくれなかったことを私はむしろあなたに信用がなかったのかと恨めしく思う。そのことを
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「昔からずっとあなたに信頼を続けていましたが、その中でも今度見せてくださいましたお祈りの力によって、あなたさえいてくだされば後世ごせの道も明るいに違いないと頼もしさがふえました」
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
今後もなお順境に身を置いていては長命のほうがあぶない、静かに引きこもって後世ごせのための仏勤めをして長寿を得たいと、源氏はこう思って、郊外の土地を求めて御堂みどうを建てさせているのであった。
源氏物語:17 絵合 (新字新仮名) / 紫式部(著)
でもね大将はどういう宿縁があるのか怪しいほど昔の恋を忘れずにおいでになってね、お父様の後世ごせのことまでもよく心配してくだすって仏事などもよく親切に御自身の手でしてくださるのですよ
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)