強飯こわめし)” の例文
この十四日には家々で強飯こわめしふかし、煮染にしめなぞを祝って遊び暮す日であるという。午後の四時頃に成っても、まだ空は晴れなかった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
強飯こわめしを云附けて遣り、箱屋や何かにも目立たんように仕着しきせは出しませんけれども、相応の祝儀を遣りまして、美代吉を引取ってまいる。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
突如藤吉の指さす方、天水桶の傍に、紫の煮出し殻を四角の箱から開けたまま強飯こわめしみたいに積み上げてある江戸紫屋自慢の看板。
うまには強飯こわめしを食わせる。三月の節句には白酒をのませる。五月には柏餅を食わせる。手習の師匠であれば、たなばた祭もする。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それを粉にはたき、または蒸し上げて、餅や強飯こわめしを調整するのには、男が参与するようになってからでも、なおなかなかの時間のついえがあった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お待ちなさい、お米が身の上は可哀相ときまって、長崎から強飯こわめしが長い話と極った処で、これがおもしろいとかたのついた話といってはありますまい。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
饅頭、煎餅、豆平糖まめへいとう、おはぎ、生菓子、黒砂糖飴、白紙に包んだおすし、強飯こわめしなぞを中位の風呂敷一パイぐらい。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
こう言って、源氏はかゆ強飯こわめしの朝食を客とともに済ませた。源氏の車も用意されてあったが二人は一つの車に乗ったのである。あなたは眠そうだなどと中将は言って
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その日は三社権現さんじゃごんげん御祭礼の当日だったそうで、栄子はわたくしが二階の踊子部屋へ入るのを待ち、風呂敷に包んで持って来た強飯こわめしを竹の皮のまま、わたくしの前にひろげて
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すると、男女が三、四人やって来たが、昨夜の顔触かおぶれとは全然ちがっている。そして、家の中へはいるとしとみを上げ掃除そうじなどをして、かゆと強飯こわめしとを主人の女とその男に給仕した。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
はては片足進みて片足戻る程のおかしさ、自分ながら訳も分らず、名物くり強飯こわめしうるいえ牀几しょうぎに腰打掛うちかけてまず/\と案じ始めけるが、箒木ははきぎは山の中にも胸の中にも、有無分明うむぶんみょうに定まらず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
喜多村緑郎ろくろう、鈴木鼓村こそん、市川猿之助、松崎天民などで、蓮の葉に白い強飯こわめしを乗せて出し、灯明は電灯を消して盆燈籠をけ、一方に高座を設けて、ものがたりをする者は皆その高座にあがった。
怪談会の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼は赤子のじぶんから勾配こうばいが早かった。七月目にはもうお乳には眼もくれず、誕生まえに平気で強飯こわめしべた。うのも、立つのも、歩きだすのも、すべて一般よりは三割がた早かった。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
奥では、接待の麦茶わかし、子供にくばる菓子づつみや強飯こわめしやら。
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
強飯こわめしの折でもふところに入れているとしか受け取れなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もち団子だんご強飯こわめしがならんでいる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
亥「今のお嫁入りとえんだりにしましょう、わっち共は交際つきえゝひれいものだから裏店うらだなともれえでありながら、強飯こわめしが八百人めえというので」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もち・ダンゴ・強飯こわめし・何とかじるの類に、それぞれの名があり時が定まってその数も決して少なからず、一年を通ずればその種類が四五十もあった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お種は祝の強飯こわめしだの煮染にしめだのを出して、それを炉辺で振舞っていると、そこへ正太が気息いきをはずませて入って来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
土間どまにずらりと祝い酒の鏡を抜いて、柄杓ひしゃくが添えてある。煮締めの大皿、強飯こわめしのおはちが並んでる。下戸げこには餅だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わたしの家でもその招待を受けたので、わたしは母に連れられて親類の人たちと一緒にゆくと、芝居はおそく始まって、ゆう飯には強飯こわめしの折詰をくれた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
(と小膝こひざうって)面白い。話しましょう。……が、さて談話というて、差当り——お茶代になるのじゃからって、長崎から強飯こわめしでもあるまいな。や、思出した。しかもこの越前えちぜんじゃ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところがこの女の鍛錬法たんれんほうというのがはなはだおかしい。その晩から、強飯こわめしをたくさん作ってべさした。女みずからにぎりめしにして喰べさしたが、かたくて初はどうしてもみ割ることが出来なかった。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
山荘の朝の食事にかゆ強飯こわめしなどが出された。
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そうして強飯こわめしでもなくはぎの餅よりもさらによくつぶされた新式の餅が、世に現われて喝采かっさいせられ、始めて多くの人を餅好きにしたのではないかと思う。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
市川さんの屋敷では強飯こわめしをたいて、なにかの煮染にしめものを取添えて、手習子たちに食べさせました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「なに、赤飯と申したところで強飯こわめしではない。ただの赤いめしじゃ。小豆を入れてナ」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
路の左右と真中まんなかへ、草の中に、三本の竹、荒縄を結渡ゆいわたしたのが、目の前を遮った、——ふもとのものの、何かの禁厭まじないかとも思ったが、紅紙べにがみをさしたはしも無ければ、強飯こわめしを備えた盆も見えぬ。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬「葬式とむらいが来たら旦那強飯こわめしか饅頭だろう、なんぞお手伝をしましょうか」
竈河岸の名高い菓子屋へ注文した強飯こわめしが午前のうちに届いた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たとえば一つのかめかもした酒、一つのこしきした強飯こわめし、一つのうすもちや一畠のうり大根だいこんを、分けて双方そうほうの腹中に入れることは、そこに眼に見えぬ力の連鎖を作るという
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なんだか気になるので、五月の末に無沙汰の詫びながら手紙を出すと、すぐその返事が来て、来月は氷川ひかわ様のお祭りで強飯こわめしでも炊くから遊びに来てくれとのことであった。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
富士山の南麓なんろく地方には、これをまたウマノゴック、あるいはウマノオコワ(馬の強飯こわめし)という名もある。ゴックは御供ごくうで神に供える飯、即ちまた強飯のことだという。
そうかと思うと秋田県の雄物川おものがわすじから、津軽地方つがるちほうまでのかなり広い区域で、ただ田植の日の豆の粉握飯こなむすび、または強飯こわめしのような食べ物だけを、コビリノママという例もあるのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかし中央部の多くのれいでもわかるように、ケンズイに酒を出す場合はむしろすくなく、ただの飯の残りを出すこともあれば麦のお粥もあり、土地によってはまた厚朴ほおの葉でつつんだ強飯こわめし
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)