すく)” の例文
だが、山家やまがらしい質素な食事に二人で相変らず口数すくなく向った後、私達が再び暖炉の前に帰っていってから大ぶ立ってからだった。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
蝮蛇のうちにも毒質のおいのとすくないのがありましてアルコールや焼酎へ漬けた時肉の縮まるのは良いし肉のゆるむのは悪いと申します。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
兼山の採ったこの方法は即ち敵本主義の側面立法であって、民心を刺激することすくなくしてしかも易俗移風の効多きものである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
おもうにかれが雪のごときはだには、剳青淋漓さっせいりんりとして、悪竜あくりょうほのおを吐くにあらざれば、すくなくも、その左のかいなには、双枕ふたつまくら偕老かいろうの名や刻みたるべし。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なぜあれほど言葉のすくない嫂が自分にだけそれを話し出したのだろうか。彼女は平生から落ちついている。今夜も平生の通り落ちついていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
野童は今夜の会の話などをして聞かせたが、冬坡はことばすくなに挨拶するばかりで、身にしみて聞いていないらしかった。
鴛鴦鏡 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
麦門冬は実の数はすくないけれどすこぶる顕著な実が生り、子供等でもよく知っていて女の児はお手玉にして遊ぶのである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ただ御詞すくなに、たとへ世に甲斐なき女の身にてもあらばあれ、一心にさへなれば、子は育てらるるものぞとの……
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
さて昨日は殿様に御無理を願い早速お聞済きゝずみ下さいましたが、たかすくなし娘は不束ふつゝかなり、しゅうとは知っての通りの粗忽者そこつもの、実になんと云って取る所はないだろうが
三一〇 彼はよからざる名を得、又惡趣に墮す、而して(自ら)畏れて畏れたる(婦人)と樂むはすくなく、又王は重刑を科す、故に人は他人の婦に狎れ親む可らず。
法句経 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それらの人たちはまた、閲歴も同じくはないし、旧幕時代の役の位もちがい、ろくも多かったものとすくなかったものとあるが、大きな瓦解がかいの悲惨に直面したことは似ていた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その言すくなくて注意の深き、感歎のほかなし。
と道子さんは言葉すくなに答える。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
白粥は水分ばかり多くって滋養分がすくないのみならずその粘着性ねばりけが胃の粘膜を刺撃しますから胃の悪い病人にはくいけません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかし熟する時までその八子の完全に残るものはすくなく、大抵はその前に落ち、残って熟するものは唯二三子のみである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
自ら知るの明あるものすくなしとは世間にて云ふ事なり、われは人間に自知の明なき事を断言せんとす、之を「ポー」に聞く、いはく、功名眼前にあり
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ふだんから無口の女であるということであったが、殊にこの場合、かれは極めて神妙にして、いかなる問いに対しても努めてことばすくなに答えていた。
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かど慰め顔にいふ詞も、お糸にとりては何となくうるさく情なければ、とかくことばすくなに、よそよそしくのみもてなすを、廻り気強き庄太郎は、おひおひに気を廻し
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
山三郎は心がいて居りますから、言葉すくなにいとまを告げて立出たちいでますと、其の頃の御奉行様が玄関まで出て町人を送ると云うことはないが、何か気になると見えまして
引斷ひきちぎりては舌鼓したうちして咀嚼そしやくし、たゝみともはず、敷居しきゐともいはず、吐出はきいだしてはねぶさまは、ちらとるだに嘔吐おうどもよほし、心弱こゝろよわ婦女子ふぢよし後三日のちみつかしよくはいして、やまひざるはすくなし。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
知っている者は動物学にたずさわる人々また植物学にたずさわる人々の中でも割合にすくないではないかと想われる。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
其上そのうへ御米およねわかをんな有勝ありがち嬌羞けうしうといふものを、初對面しよたいめん宗助そうすけむかつて、あまりおほあらはさなかつた。たゞ普通ふつう人間にんげんしづかにして言葉ことばすくなにめただけえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
渠らの仲間は便宜上旅籠はたごを取らずして、小屋を家とせるものすくなからず。白糸もなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そら、さう云ふ国柄だから、どうしたつて材料のすくない大きなに対する審美眼が発達しやうがない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
渠はもとよりこの女をもって良家の女子とは思いけざりき、すくなくとも、海に山に五百年の怪物たるを看破したりけれども、見世物小屋に起き臥しせる乞食芸人の徒ならんとは
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口数のすくない細君は、自分の生家に関する詳しい話を今まで夫の耳に入れずに通して来たのである。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その上御米は若い女にありがちの嬌羞きょうしゅうというものを、初対面の宗助に向って、あまり多く表わさなかった。ただ普通の人間を静にして言葉すくなに切りつめただけに見えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兄さんはお貞さんを宅中うちじゅうで一番慾のすくない善良な人間だと云うのです。ああ云うのが幸福に生れて来た人間だと云ってうらやましがるのです。自分もああなりたいと云うのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此盲動的動作亦必ず人意にあらじ、人を殺すものは死すとは天下の定法ぢやうはふなり、されども自ら死を決して人を殺すものはすくなし、呼息せま白刃はくじんひらめく此刹那せつな、既に身あるを知らず
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)