寝間ねま)” の例文
旧字:寢間
法師はれいのとおり、寝間ねまの前の、えんがわにいると、昨夜さくやのとおり、おもい足音が裏門うらもんからはいって来て、法師をつれていきました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「とにかく、同棲しても、まだ友人関係なのですから、あたしの寝間ねまは、此処を茶の間にして、そっちの六畳ときめますから。」
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
部屋は十畳の四角な板の間であって、奥の方に古畳二枚を敷いたきりだった。つまりその二畳が私達の寝間ねまであり居間いまであり食堂であった。
「えらいお愛想なしだなア。先生、こんな鰻の寝間ねまとこ)みたいな小っちゃいアバラ屋でっけど、また寄っとくなはれや」
母はもう眠ったあとで、あやも寝間ねまへはいり、庄兵衛も自分の寝間で夜具にはいったまま、碧巌録へきがんろくの一冊を読んでいた。
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
よいの内は時々船室へも顔を見せたボーイや船員達も、それぞれ彼等の寝間ねまに退いたのか、その辺には人影もありません。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やがて八門の陣をシックリとんで、あたかも将軍しょうぐん寝間ねまをまもる衛兵えいへいのように、三十六人が屹然きつぜんとわかれて立った。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左には広きひらあり。右にも同じ戸ありて寝間ねまに通じ、このぶんは緑の天鵞絨びろうど垂布たれぎぬにて覆いあり。窓にそいて左のかたに為事机あり。その手前に肱突ひじつき椅子いすあり。
女は階段のところに残っていた。そして涙も何も出ない目で、きらきら光る湖水のおもてを見詰めた。男は寝間ねまへ帰って、床の上へ横になって、長い間天井をにらんでいた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
寝間ねまにどてらをしていた抽斎は、ね起きて枕元まくらもとの両刀をった。そして表座敷へ出ようとした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
再び居間にると見れば、其処そこにも留らで書斎の次なる寝間ねまるより、身をなげうちてベットに伏したり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こればかりは本式らしい金モールと緋房ひぶさを飾った紫緞子むらさきどんすの寝台が置いてあって、女王様のお寝間ねまじみた黄絹きぎぬ帷帳とばりが、やはり金モールと緋房ずくめの四角い天蓋てんがいから
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ちりを廊下にき出すと、かれはバケツに水をんで来て、寝間ねまと事務室とに雑巾ぞうきんがけをはじめた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
西田はこういいてて、細君の寝間ねまへはいった。細君も同情どうじょう深い西田の声を聞いてから、夢からさめたように正気しょうきづいた。そうしてはいってきた西田におきて礼儀れいぎをした。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
棚の上には小さき、の長き和蘭陀オランダパイプをななめに一列に置きあり。その外小さき彫刻品、人形、浮彫のしなとうあり。寝椅子のすえの処に一枚戸の戸口あり。これより寝間ねまる。
昼間は店のものに見られるのさえ、はずかしいなりをしていましたから、わざわざけるのを待った上、お父さんの寝間ねまの戸をたたいても、御眼にかかるつもりでいたのです。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この問答の途中へおきんさんがちょうど帰って来たので、叔母はすぐ真事の床を敷かして、彼を寝間ねまの方へ追いやった。興に乗った叔父の話はますます発展するばかりであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうすると、一ぴきが燈火あかりをもってハンスを寝間ねまへつれて行く、一ぴきが靴をぬがせる、一ぴきが靴下くつしたをぬがせる、そしていちばんおしまいに、一ぴきが燈火を吹きけしました。
テカテカする梯子段はしごだんを登り、長いお廊下を通って、ようやく奥様のお寝間ねま行着ゆきつきましたが、どこからともなく、ホンノリと来るこうかおゆかしく、わざと細めてある行燈あんどう火影ほかげかすかに
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
われは二階なる南の六畳に机を置き北の八畳を客間、梯子段はしごだんのぞむ西向の三畳を寝間ねまさだめければ、幾度となき昇降あがりおりに疲れ果て両手にて痛む下腹したはら押へながらもいつしかうとうととまどろみぬ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
森の宝庫の寝間ねま
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
それに、思いがけないところに、隠れ部屋があったり、茶室が出来ていたり、そこが居間か、ここが寝間ねまかと、迷わずには居られない広さでもあった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仕かけて置いたかまどの下をたきつけて、少し気掛りなことがあったものだから、茶の間のふすまをあけて、初代の寝間ねまを覗いて見たのだが、雨戸の隙間からの光と
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それははるよいでありました。坊さんは法事ほうじへいってるすでした。法師はじぶんの寝間ねまの前の、えんがわへでて、きなびわをひきながら、坊さんの帰りを待っていました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
男は知らなかったが、女はたびたび目を細目に明けて、寝間ねまの薄明りの中に、男が床の上で半分起き上がって自分を見ているのを見ながら、こわさにその目をみな明けずにいた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「お願いですから」とゆきをが云った、「わたくしの寝間ねまをべつにして下さいまし」
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
れんとこを抜け出したのは、その夜の三時過ぎだった。彼女は二階の寝間ねまうしろに、そっと暗い梯子はしごを下りると、手さぐりに鏡台の前へ行った。そうしてその抽斗ひきだしから、剃刀かみそりの箱を取り出した。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「では、夜も更けます故、どうぞあちらの寝間ねまで御休息を。……手前はよいに早寝をいたしました故、家人どもの寝しずまっているに、この絵図に註を入れておくことにいたします」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
静子は丁度西洋館の二階に客用の寝室があるのを幸、何か口実をもうけて、当分彼女達夫婦の寝間ねまをそこへ移すことにすると云っていた。西洋館なれば、天井の隙見なぞ出来ないのだから。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一人寝間ねま這入はいって行った。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「十郎左が手功てがらばなし、吉良殿の寝間ねまを探った一件じゃ」
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)