容貌きりょう)” の例文
「あいにく病気だと云うのですよ、でも大丈夫ですよ、すこし容貌きりょうはよくないが、縫物が上手で、手も旨いし、人柄は至極柔和だし」
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
容貌きりょうも悪く、身体も弱く、心持まで少し発育が遅れて、七つといっても、せいぜい五つぐらいにしか見えなかったと言っております。
生みました。その長三郎が当年二十歳はたちになりますから、おかみさんは三十八で、容貌きりょうも悪くなく、年よりも若く見える方でございます
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さして目に立つほどの容貌きりょうではないが、二十はたちを越したばかりのなまめかしさに、大学を出たばかりの薬局の助手がたちまち誘惑しようとしたのを
老人 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
容貌きりょうは、親の慾目で見ても三人とも、そう人並みすぐれたほどでもない。ただ政子だけは、幾ぶん亡き先妻の容色をしのばせるものがあった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
菊五郎のお蔦、両吟りょうぎんの唄にて花道の出は目のむるほど美しく、今度は丸髷まるまげにて被布ひふを着られしためもあらんが、容貌きりょうは先年より立優たちまされり。
天公てんこうはいたずら者で、世間並みでないところへ世間並み以上の者を作る、お杉お玉の容貌きりょうもそれで、米友の俊敏なる天性もそれであります。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「その宝はそなたの容貌きりょうじゃ、世の万人に立ち越えたその美くしさじゃ、かてて加えてそなたはそのように若いのだからの」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そこで、あの容貌きりょうのよい、利発者りはつものの娘が、おこもりをするにも、襤褸つづれ故に、あたりへ気がひけると云う始末でございました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
江戸時代には一と口に痲疹はいのちさだめ、疱瘡は容貌きりょう定めといったくらいにこの二疫を小児の健康の関門として恐れていた。
容貌きりょうし性質もこんな温厚な娘だったが、玉にもきずの例でこの娘に一つの難というのは、肺病の血統である事だ。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
仲人は私に向って先方が容貌きりょうが悪くても、ほかに美しい女を囲えばよいではないかといって私に頻にすすめました。
猫と村正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
今の若い者はこんなことが好きでなさそうですよ。このうちに幾月か前から来ておいでになる姫君も、容貌きりょうはいいらしいが、少しもこうしたむだな遊びを
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
月の光に化粧された、その女の容貌きりょうが、余りにも美しく余りにも気高けだかく、あまりにもろうたけていたからである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
容貌きりょうは梅子と比べると余程落ちるが、県の女学校を卒業してちょうど帰郷かえったばかりのところを、友人なにがしの奔走で遂に大津と結婚することに決定きまったのである。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
手跡はお家流をよく書き、腰折れの一首もものし、貧乏の中に風流を解するゆとりもあり、容貌きりょうは木魚の顔のおじいさんの娘なりに、似てはいたが醜くはなかった。
私はあなたが許嫁いいなずけをしていないことを知ってるのですが、あなたのような容貌きりょうを持ち、才能があり、立派な家柄があって、何も身分のたかい婿がなくっても好いでしょう。
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
何だか容貌きりょう自慢のようですが
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
下碑が鍋尻を洗う容貌きりょう
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
お関は容貌きりょうも好し、遊芸ひと通りも出来るので、番ちょう御厩谷おうまやだにに屋敷をかまえている五百石取りの旗本福田左京の妾に所望された。
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蒼白い顔が少し弱々しく見えますが、粗末な身扮みなりに似合わぬ美しさで、存分に装わせたら、お喜多に劣らぬ容貌きりょうになるでしょう。
遠くからでくはわからないが、お雪よりは年もとっているらしく容貌きりょうもよくはないようである。わたくしは人通りに交って別の路地へ曲った。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これほどのお大尽でも、あればかりはどうすることもできませんね。それだからお君さんのような容貌きりょうよしに生れついた者は、お金で買えない幸福しあわせ
謙作は背後姿うしろすがたかったが、い女だなと思ってちょっとその容貌きりょうに引きつけられた。と、洋服の男が顔をあげた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すると突然縁談がおこったというのは、何でも、その娘をある男が外で見染めたとかで、是非というつまり容貌きりょう望みで直接に先方から懇望こんもうして来たのである。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
「毒婦だな、貴様は。——その美しい容貌きりょうを持って生れながら何という情けない心だろう。あざみの花だ。ばらの花だ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「人情がわからない方ね。引っ込み思案でばかりいらっしゃる。あれだけの容貌きりょうを持っておいでになりながら」
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
瀟洒として粋であり、どうやら容貌きりょうも美しいらしい。月を仰いだ顔の色が、白く蒼味を帯びていて、鼻が形よく高いのだろう、その陰影がキッパリとしている。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ容貌きりょうはあまり立派ではございません、鼻の丸い額の狭いなどはことに目につきました。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
仮に容貌きりょうが悪いにしても、容貌の好悪よしあしで好き嫌いをするのは真に愛する所以ゆえんではない。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それに、容貌きりょうも立ちまさっているのではないが、人柄が立ちまさって見える点など、私は、彼女にそんな事をいったこともある。彼女もその評は、嬉しくないこともなかったのだ。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
家主は別の母屋おもやに住んでいたが、男らしい者は一人も見えず、三十ぐらいの容貌きりょうのよい女と唯ふたりの女中がいるばかりであった。
才覚も容貌きりょうも十人並に優れていながら、まことに心掛けの悪い女で、自分の腹に生れたお七という娘可愛さに、継娘ままこのお染を、隣土地の悪者で
大柄な女はいかほど容貌きりょうがよく押し出しが立派でも兼太郎はさして見返りもせず、ああいう女は昔なら大籬おおまがき華魁おいらんにするといい、当世なら女優向きだ
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「わたしたちなんぞはいずれもこんな御面相ごめんそうだから、誰もかまってくれる人はないけれど、君ちゃんは容貌きりょうよしだから、忽ち旦那が附いちまったんだよ」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
年も三十過ぎだし容貌きりょうも悪いが心だては目明きにない正直さだった。こんな女にも、誰か手を出す男があるとみえて、子をかかえているのが不愍ふびんだった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
感じの悪い容貌きりょうでもありませんでしたから、やきもち焼きのほうを世話女房にして置いて、そこへはおりおり通って行ったころにはおもしろい相手でしたよ。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
年齢としはその頃十九だったが、容貌きりょうもよし性質も至って温雅な娘でまたことの方にかけてはすこぶ天稟てんりん的なので、師匠の自分にも往々おうおう感心する様なことがあったくらいだ。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
「お客さんのおかみさんなら、定めて背のすっきりした、面長の好い容貌きりょうでございましたろう」
立山の亡者宿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
容貌きりょうは十人並で、ただ愛嬌のある女というにすぎないけれど、如何にも柔和な、どちらかと言えば今少しはハキハキしてもと思わるる程の性分で何処どこまでも正直な、同情おもいやりの深そうな娘である。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
阪東三津江みつえというお狂言師は、永木えいき三津五郎という名人の弟子で、まあ、ちょっとない名人だよ、高名なものさ。岩井半四郎は、大杜若おおとじゃくと呼ばれた人の孫だったかで、好い容貌きりょう女形おやまだった。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「人間の標準から見て、猫の容貌きりょういの悪いのというは間違ってる、この猫だって誰も褒めてくれ手がなくても猫同士が見たら案外な美人であるかも知れない、その証拠には交孳さかりの時には牡猫が多勢おおぜいりに来る、」
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「村では評判の容貌きりょう好しで、おとなしい孝行者でしたが、十五夜の晩にすすきを取りに出たばっかりに、あんなことになってしまって……」
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あの女は多勢の男へ付き合って、その一人一人を鏡にして、自分の才智や愛嬌や弁舌や容貌きりょうを映して楽しんでいたんだね。
なかなかいい容貌きりょうである。鼻筋の通った円顔は白粉焼おしろいやけがしているが、結立ゆいたての島田の生際はえぎわもまだ抜上ぬけあがってはいない。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
容貌きりょうを命とするのは女ばかりではございませぬ。仮りに坂崎様が本多様のようないい男であってごろうじませ、天樹院様だっておいやとは申しますまいよ
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「どう見ても、世評を裏切らぬうつけ者、容貌きりょうはよし、骨柄こつがら一通ひととおりじゃが、すこし足らぬ。……ここが」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「実際容貌きりょうのよい猫だね。けれど私にはつかないよ。人見知りをする猫なのだね。しかし、これまで私の飼っている猫だってたいしてこれには劣っていないよ」
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
遠くのへやにいる良人おっとの来る跫音あしおとを聞いているだろう、こんな美婦の良人であるから、良人になる人も容貌きりょうの好い男だろうと思った。そう思うと李張はねたましいような気になって来た。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
こんなところは面白くないと、江戸の兄をたよって出て来たのだった。小りんという名も、よい容貌きりょうも疱瘡でお安くなったというのと、屋寿いえのことぶきと祝って、祖父と家をもつときに取りかえたのだ。