城址しろあと)” の例文
城址しろあとの森が黒く見える。沼がところどころ闇の夜の星に光った。あしがまがガサガサと夜風に動く。町のあかりがそこにもここにも見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
この島のものは実に見厭みあきません。もとより古い城址しろあとや寺院やびょうや神社や、それらの建物には、忘れ得ぬ数々のものがあります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
で、あしはこうちいたいたので、宛然さながら城址しろあと場所ばしよから、もり土塀どべいに、一重ひとへへだてた背中合せなかあはせの隣家となりぐらゐにしかかんじない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ずっと以前に岸本が信濃しなのの山の上に田舎教師いなかきょうしをしながらこもり暮した頃、城址しろあとの方にある学校へ行こうとして浅い谷間たにあいを通過ぎたことがある。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
上り下りに馬鹿骨が折れる丈けに樋の山はいながらにして城址しろあとでも日和山ひよりやまでも一目に見えるから一々足を運ぶ手間がはぶける。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しまいには畠山はたけやま城址しろあとからあけびと云うものを取って来てへいはさんだ。それは色のめた茄子なすの色をしていた。そうしてその一つを鳥がつついて空洞うつろにしていた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
森蘭丸の父森三左衛門が悲壮な討死をとげた宇佐山の城址しろあともこの近くであったし、浅井朝倉などの大軍と織田勢が取り合って死屍しかばねを積んだ比叡の辻の戦場も遠くない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
去年頃まで京成けいせい電車の往復していた線路の跡で、崩れかかった石段の上には取払われた玉の井停車場の跡が雑草におおわれて、此方こなたから見ると城址しろあとのような趣をなしている。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
城址しろあとにのぼり来りてしやがむとき石垣にてる月のかげのあかるさ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
此方天守の崩れた城址しろあとにも
日まはり (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
かの城址しろあとに寝に行きしかな
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
雨滴あまだれの音はまだしている。時々ザッと降って行く気勢けはいも聞き取られる。城址しろあとの沼のあたりで、むぐりの鳴く声が寂しく聞こえた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
前面ぜんめん大手おほて彼方かなたに、城址しろあと天守てんしゆが、くもれた蒼空あをぞら群山ぐんざんいて、すつくとつ……飛騨山ひださんさやはらつたやりだけ絶頂ぜつちやうと、十里じふり遠近をちこち相対あひたいして
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私は今、小諸の城址しろあとに近いところの学校で、君の同年位な学生を教えている。君はこういう山の上への春がいかに待たれて、そしていかに短いものであると思う。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「せめて、故主の城址しろあとに、そのかばねでも葬ってやろう」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの城址しろあとにさまよへるかな
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
大名小路の大きなやしきが長い年月に段々つぶれてはたけになつて行くのをも見た。御殿のあつた城址しろあとにはいたづらに草がちやうじた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
老爺ぢいいてこして、さて、かはる/″\ひもし、きもして、嶮岨けんそ難処なんしよ引返ひきかへす。と二時ふたときほどいた双六谷すごろくだにを、城址しろあとまでに、一夜ひとよ山中さんちゆう野宿のじゆくした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
君に黒斑山くろふやまのことは未だ話さなかったかと思うが、矢張浅間の山つづきだ、ホラ、小諸の城址しろあとにある天主台——あの石垣の上の松の間から、黒斑のように見える山林の多い高い傾斜
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
城址しろあと
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
家は行田町ぎょうだまちの大通りから、昔の城址しろあとのほうに行く横町にあった。かどに柳の湯という湯屋があって、それと対して、きれいな女中のいる料理屋の入り口が見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
早朝あさまだき町はずれへ来て、お兼は神通川に架した神通橋のたもと立停たちどまったのである。雲のごときは前途ゆくての山、けぶりのようなは、市中まちなかの最高処にあって、ここにも見らるる城址しろあとの森である。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
台所の戸を開けても庭へ出掛けて行っても花の香気に満ちあふれていないところは無い。懐古園の城址しろあとへでも生徒を連れて行って見ると、短いながらに深い春が私達の心を酔うようにさせる……
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)